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■中国「彼のしたことはノーベル平和賞の趣旨とは真逆」

 12日、肝臓がんによる多機能不全で死亡した劉暁波氏。「勇気ある闘士の死を悼む」(独メルケル首相)、「トランプ大統領は劉氏の死去を深く悲しんだ」「劉氏の夢こそ中国が追うべき夢だ。民主化を実現してこそ真の大国になる」(台湾・蔡英文総統)など、各国から劉氏を悼むコメントが相次いだ。

 劉氏にノーベル平和賞を授与したノルウェーの委員会は「中国政府は彼の早すぎる死に重い責任を負う」と中国政府の対応を強く非難。岸田外務大臣も閣議後の会見で「自由、基本的人権の尊重、法の支配は国際社会における普遍的価値であり、これらが中国においても保障されることが重要であると考えている。引き続き高い関心を持って中国の人権状況を注視していきたいと考える」とコメント。

 一方の中国・習近平指導部は、劉氏の訃報が国民に与える影響を強く警戒。中国外務省の耿爽副報道局長は「劉暁波は中国の法律に抵触し、法に基づいて公正な裁判を受けた犯罪者だ。彼のしたことはノーベル平和賞の趣旨とは真逆であり、この賞の趣旨に完全に反している。平和賞に対する冒涜ともいえる。各国の態度表明は中国の司法の主権と内政に対する干渉であり、国際的に公認された法治の精神に反するものだ」と強調した。

 中国当局の厳しい姿勢は、ネット上の追悼するコメントが次々と削除されていることからも伺える。隠語を使ったSNSへの投稿も行われているというが、現在ではロウソクの絵文字などの投稿もできなくなっていると報じられている。

■平等を求める中国人たちに希望を与えた劉氏の「08憲章」とは

 そもそも中国の憲法では、国家は中国共産党によって指導されると規定されているため、中国共産党が警察や国会、裁判所などよりも上位に存在するのだ。

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 これに対し、劉暁波氏ら303名が2008年、連名でインターネット上に「08憲章」を発表した。そこには共産党一党独裁の廃止すること、報道規制を撤廃、言論や出版の自由などを実現すること、政府の人権侵害を防ぎ、何人たりとも不法な逮捕や処罰を受けないこと、立法・司法・行政の三権分立を保障することなどが盛り込まれていた。

 劉暁波氏はこの「08憲章」を作成したとして拘束、翌年には「国家政権転覆扇動罪」で懲役11年の判決を受けた。2010年には非暴力の闘いが評価され、服役中ながら中国初のノーベル賞となるノーベル平和賞を受賞した。

 しかし中国当局は劉氏の釈放を認めず、国内では受賞に関する報道も遮断した。

 先月、末期がんのためようやく仮釈放が認められたが、海外での治療を求める家族らに対し、中国当局は最後まで劉氏の出国を認めなかった。妻の劉霞さんも北京で当局の監視下にあると言われている。

■「言論のために罪に問われるのは自分で最後の一人になってほしい」

 これほどまでに中国当局が警戒し続けた劉氏とは、どんな人物だったのだろうか。

 劉氏は1955年、中国吉林省で生まれる。1984年には北京師範大学を卒業、88年には米コロンビア大で客員研究員を務めていた。翌年、天安門でハンストを実行し投獄された。釈放後には北京で民主化運動に従事していた。

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 劉氏の著作を日本語に翻訳、投獄前の劉氏と会ったこともあるという作家の劉燕子さんは、劉氏の印象を「とても落ち着き払った感じで、そんなに口が達者な感じではありませんでした。あまり政治的な話はしませんでした」と振り返る。

 「自分の作品が日本の読者にどのように受け止められるか、翻訳して日本の読者に届けてもらいたいと原稿が送られてきました」。

 劉燕子さんによると、劉氏は「言論のために罪に問われるのは自分で最後の一人になってほしい」という想いで活動していたのだという。

 「1989年の天安門事件の記憶は薄れてきています。しかし、私たちは彼のことを一人一人に語り続けたいと考えていまし。劉暁波さんの非暴力の思想、『私には敵はいない』という思想、これからも引き継いで語っていきたいと思います」。

■今後も厳しい弾圧が続いていく

 「彼は真の意味で愛国者というか、国を愛しているからこそ、どう変えていくべきかを真剣に考えて提示してきた人だと思う」と話すのは、東京大学大学院の阿古智子・准教授。

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 なぜ劉波氏は中国政府にとってそこまで都合の悪い存在だったのか。

 「中国は全てにおいて共産党の統治。政治が法律より上。権力の濫用を管理するシステムがきちんとできていない。共産党の指導が第一。そんな中で、劉氏は他の政党でも統治できるようにしようということを言った。共産党政権からしてみれば敵でしかない」。

 挑んでくる相手に挑み返せば暴力の連鎖が起こる。そうではなく、心を穏やかにして、平和な気持ちで国のことを考えるという劉氏の"非暴力の思想"が、中国政府にとって直接的な弾圧ができない分、脅威だったようだ。

 阿古氏によると、中国においては限られた新聞などにしか劉氏のことが掲載されておらず、そもそも劉氏を知らない国民も多いとみられるという。

 「格差があまりに大きすぎ、国民が団結しての社会運動や政治改革運動になかなか結びつかない。そこで一人で抵抗しても勝てないので、結局利害関係に巻き込まれる。先に発展した国の価値観を受け入れるだけというのは嫌というか、自分たちだけの政治システムがあるという考えを持っている。また、小さい頃から教え込まれている価値観に染まっていて、海外に出ても根っこの部分は変わらない」と、劉氏の後に続くような人物が現れるのはそう簡単なことではないとの見方を示した。

 「彼ほど思想的にも深いものがあって、知識人たちを取りまとめていく人というのはなかなか見つからない。公民運動に取り組んでいて服役している人もいるが、もうすぐ出てくるとは思うが監視下に置かれるだろう。なかなか時間がかかると思う。中国にとって大事なのは今の政権を維持すること。今後も言論統制など、政府にチャレンジしようとする人が厳しく弾圧される厳しい状況が続いていくと思う」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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