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 2016年7月26日、神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」が元施設職員の男に襲撃され、19人が死亡、27人が重軽傷を負う事件が起こった。

 植松聖被告の「障害者は生きていても仕方がない」という言葉と闘う、事件の被害者・尾野一矢さんと父・剛志(たけし)さん、母・チキ子さん。24日夜放送のAbemaTV(アベマTV)『AbemaPrime』では、尾野さん家族を交え「障害は不幸なのか」を議論した。

■「大変さを感じたことはない」

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 「障害のある子供を持つことは大変ではないか?」。この質問に剛志さんは、「私は本当にそういうことを感じたことはありません」と断言する。「一矢と出会った4歳の時から可愛いと思ってます。普通の子だと思っていろんなところに出かけて、いろんな遊びをしてきたし、僕に限っては全然感じたことはないです」と話した。チキ子さんも「普通の子でも、障害を持った子でも、心配は心配、楽しいは楽しい。皆同じだと思います」と答えた。

 こういった事件の被害にあった場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされるケースも多い。医療の専門家たちと被害者の家族との間のコミュニケーションも重要になってくる。

 現在一矢さんがいる「やまゆり園 芹が谷園舎」には、内科の医者が月曜から木曜まで常駐し、精神科の医者も週に1度訪れているという。医療面に関しては「あまり心配していない」と剛志さん。看護師も常時4人おり、「恵まれた施設。一矢を入れさせていただいて感謝している」と話した。

 この1年、一矢さんのそばにいた剛志さん。同じような被害にあった入所者が本当に必要としていることはどんなことなのだろうか?

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 「入所者の方たちのケアをできるのは、家族だけだと皆さん思っている。実際に僕たちも1週間に1回しか会えません。でも職員の方々はずっと過ごしてくれているので、ありがたいなと思っているし、ひょっとしたら息子は僕なんかよりも職員の方がいいんじゃないかなと思う時もあるんですよね。職員の方が利用者に寄り添って支えてくれている」と話す。さらに、「発作も自傷行為も何年ぶりかに起きた。PTSDなのかなと思うし、僕らの寄り添い方が足りなかったのかなと思いますし、そういう反省の方が大きいです。できれば自分たち親が少しでも寄り添ってあげないと」という考えで一矢さんに接していることを語った。

 医療面での不安はないものの、「一矢にも意思はあるが、頭の中にインプットされていない言葉や文言を問いかけても反応がない。一矢の持っている意思を確認したいけど、できていない。40年一緒にいる僕らが分からないのに、専門家の先生が1週間や10日に1回来て、1年や2年で一矢だけでなく利用者の意思を確認できるのかが不安です」と思っていることを明かした。

■「植松は出て来るべくして出て来た」

 事件を起こした植松被告は、障害者に対する差別意識を持っていたと考えられている。

 その点について剛志さんは、「日本自体が差別社会だと思う。昔から障害を持っている人は生まれてすぐ殺されたり、家族ごと村八分にされたりとか。そういう日本の社会が事件を生んだんじゃないかなと思います。差別社会を直さないと、こういう事件はいつかどこかで起こるんじゃないか」と、自身の考えを示す。

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 また、植松被告については「出て来るべくして出て来たんだろうと思います。また植松みたいな人間が出てくるかもしれない。ネットに植松を賞賛する情報が出ていて、障害者を差別、虐待する人間がいることはみんな知っていると思う。植松だけが特別にそうなったとは思っていない。人間形成の中で、家族の育て方が少し間違っていたんじゃないかな。このことを考えると難しいし、世界的な問題になってくると思います。障害者のいない世界はない」と話した。

 さらに、剛志さんは事件以前に植松被告と面識があったという。家族会会長のときに2度ほど言葉も交わした。当時の植松被告について「ごく普通。にこやかで朗らかな良い若者」と表現する。「一生懸命仕事をしてくれたし、すごく真面目にやってくれました。後で聞いたんですけど、1年半くらい経ったときに刺青がバレてしまった。園の職員みんなで会議をして、辞めさせるかという話までいったが、『彼は真面目だし』ということで刺青を見えないようにさせて、使っていこうとなった」という経緯があったことを明かした。

■「小規模施設だったら地域、は違う」

 事件があった「津久井やまゆり園」は取り壊し、建て替えが決まっているが、その後の入所者が過ごす場所のあり方については意見が分かれている。

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 神奈川県は2020年度までに同様の大規模施設に建て替えを予定し、これには家族会も納得していた。そして、4月に仮移転先として横浜市港南区の「津久井やまゆり園 芹が谷園舎」に転居。約100人全員の引越しが終了し、新たな入所先が決まるまでの約4年間の利用を予定している。

 一方で、第三者の障害者団体が「大規模施設は障害者を地域から隔離することになる。グループホームなど小規模な施設にすべき」と1月に異論を唱えた。さらに、7月に開かれたやまゆり園再生基本構想策定に関する部会では、やまゆり園のような定員150人規模の大規模な施設の再建には否定的で、地域生活への移行を前提に再生を進める流れを作りたいとの考えが示された。全国で見ると40人程度が好ましく、規模が大きくなればなるほど支援の目が届きにくく、管理的になってしまうという見方だ。

 この議論の背景には、2006年に施行された「障害者総合支援法」がある。「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」の理念のもと、「大規模施設案」と「小規模施設案」が分かれている。

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 事件当時から取材を行ってきたテレビ朝日の杉原啓太記者は、「今回の議論で絶対間違ってはいけないのは、家族の方は規模じゃなくて『やまゆり園に戻りたい』という方が大多数だということ。家族の方が入所者をどこか施設に入れたいと言っているわけではなくて、家を失った状態にある息子を、まずは家に戻してあげたい。家に戻してから地域に戻したりと議論すればいいじゃないかという意向。そこは間違えてはいけない」と述べた。さらに、「障害者という視点で語るからわからなくなる部分がある」として、「自分が家を失った時に、〇〇の家に行ってくださいと言われた時にどう思うのか。自分の身に置き換えて議論していかなければならない」との考えを示した。

 家族会は建て替えのうえ、もう一度やまゆり園に戻るということで納得したが、その前に「建て替えか改修か」が問われたという。「改修すれば安く済むが、あの同じ建物にいることができない。家族も職員も場所を見ただけで、事件が目に浮かんでくる。職員のほとんどは、夜中まで亡くなった人や怪我した人を運んだ。一矢がいたところは廊下が血の海だったそうです。そこをただ洗って拭いただけで元通り職員が働けるかというとそうじゃない。みんな辞めてしまうし、とてもじゃないけど無理だということで建て替えをお願いした」と、剛志さんは切実な思いを明かした。

 また剛志さんは「反対している人たちは、ほとんどが津久井やまゆり園のことを知らないし、神奈川県に住んでいない人も多い」と指摘する。実際に集会で反対していたのは、北海道や九州、兵庫県などから来た人だったという。

 さらに、一矢さん自身が望むことについては、剛志さんは「何も望んでないと思います。一矢はとにかくお父さんお母さんが来てくれて、自分が朗らかで、仲間がいて、好きな職員がいればそれでいい。それが千木良(やまゆり園)じゃなくてもいいんです。でも千木良にずっと住んでいる人がいて、家族以上の交流があった。でも千木良は地域じゃないといわれる。大規模施設だから地域じゃないのか、小規模施設だったら地域というのか、僕は違うと思う」と議論への疑問を呈した。

 現在73歳の剛志さんと75歳のチキ子さん。自分たちが亡くなった後に社会に望むこととして、「この差別社会が少しでも変わってくれたら。津久井やまゆり園が存続してくれる。そして一矢はそこで看取られて逝く。そういう施設であってほしいと願って今僕らは動いているつもり。僕らはそれを願って活動しているだけです」と話した。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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