28日、陸上自衛隊が南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報を廃棄したと説明しておきながら実際は保管していた問題の特別防衛監察の結果が出た。
この問題をめぐっては、防衛省事務方トップの黒江哲郎事務次官と、陸上自衛隊の岡部俊哉陸上幕僚長が責任をとって辞任。稲田防衛大臣自身も「そもそも報告を受けていない」として、日報の保管の事実を非公表とする方針を了承したことなどを否定したものの「監察の結果は率直に受け入れる」と辞任した。
■報道の端緒を開いた布施祐仁氏「結果的に公表されたからそれで良いとは言えない」
昨年7月、防衛省に対し情報公開請求を行い、日報問題が注目を集めるきっかけをつくったのが、ジャーナリストの布施祐仁氏だった。
稲田大臣の辞任について布施氏は「すっきりしない辞め方だったと思う。稲田大臣が指示した特別防衛観察だが、最終的には大臣自身がその対象になるという異常な事態。真相は解明されず、曖昧なままだ」と話す。
布施氏の情報開示請求に対し、まず隠そうとしたのが、南スーダン派遣部隊の上級部隊にあたる陸上自衛隊中央即応集団(CRF。防衛大臣直轄の組織で有事の際に迅速に行動・対処するための部隊)だった。CRFは「開示請求から日報が外れるのが望ましい」と判断、さらに上部組織にあたる統合幕僚監部(統幕)も日報の不開示を決定した。
そして去年12月、陸上幕僚監部(陸幕)の幹部は日報データを持っていたCRFに対し、自衛隊のルール上、日報データを廃棄するように指導。今年1月に入ってから陸幕の担当者が統合幕僚監部の幹部や黒江事務次官に、陸自に日報があることを説明した。しかし統幕幹部は稲田防衛大臣には報告しなかった。2月、日報データがあることを公表したが、その後も、陸幕幹部も黒江事務次官も大臣に報告する必要はなしとしていた。
今回の監察の結果では、存在していた日報を開示せずに隠したことは情報公開法や自衛隊法違反にも該当し、稲田氏に報告しなかったことや、対外的に説明しなかったことも不適切だとされている。
布施氏は「国連が南スーダンに武力紛争が発生していると言っているのに、日本政府は発生していないとして派遣を継続したり任務を付与したりした」と指摘。現地の情報が表に出ることで国民的な議論になってしまうことを恐れ、防衛省・自衛隊の中で隠ぺいが行われたのではないかとの見方を示す。
「私の開示請求に対して、あるにもかかわらず"ない"としたCRFの副司令官が悪いということになるが、その人だけが悪いとは思えない部分がどうしてもある。監察の結果が指摘するように、法律に則って公表されていれば戦闘の状況も明らかになり、現地の実情に合った議論が国会でできたはず。結果的に公表されたからそれで良いとは言えないと思う」。
今後について布施氏は「知り合いの自衛官の皆さんには、いざ命令が下れば命をかけて任務に当たると話す方が多い。彼らは国家の命令で行く。主権者は私たちなので、最終的に責任をとるのも国民。その国民に対し、情報が開示され、説明され、合意がなされた上で、自衛隊の方々に命令が下されるべきだ。そこが歪められたという点を、これから修正してほしい」と訴えた。
■陸上自衛隊の元陸将「隊員、家族にはやりきれない部分がある」
「言ってみれば防衛省の"奥の院"で起きたこと。九州での災害派遣に参加している隊員や、日本海でミサイルの警戒に当っている隊員など、現場で汗を書いている人たちから見れば悲しいことだ。黒江次官にしても岡部陸幕長にしても、有為な人材がドロドロしたことで降りなければいけないことは残念」と話すのは、元陸上自衛隊幹部で、現在は国際大学教授の山口昇・元陸将。
山口氏は「自衛隊は国民に付託をされて、とんでもない破壊力を持ち、それを制約しながら国民のために活動する組織。きちんとした記録を残すということは、部隊としても大事なこと。自衛隊では日々『要報』を書いて、災害派遣など、行動が一段落すると『詳報』という形に書き直し、教訓として次の行動に活かす、場合によってはそれが歴史になる」と説明する。
さらに「冷戦時代には"できるだけ表沙汰にならないように"という雰囲気があったが、今や第一線の隊員たちは"いつでも責任を取る、みんなに見られている"と思いながら任務に当たっている。部隊の末端も中間レベルも、何か物が無くなった、怪我をしたといった細かなことでもとにかく報告をする。もちろん安全保障上開示してはいけないものや、部隊の弱みがわかってしまうような秘密に関わること除いて、情報は開示するという姿勢でやってきた」として、一連の日報問題について「すごく前時代的な気がする」とコメントした。
山口氏は「自衛隊員にとっては、日本を守るために毎日訓練しているので、『戦闘』というのは当たり前の言葉。それと法律、あるいは政策用語としての『戦闘』を"翻訳する"という部分がなかったのではないか」とし、日報の記述が自衛隊の武力行使や憲法9条との関わりから議論を呼び、自衛隊を派遣するロジックが崩れる可能性があることから、「ちょっと待てよと、そういう心理が働いたのかもしれない」と推測した。
稲田大臣は日報をめぐる一連の問題について「日報をめぐる一連の問題は、単に陸自の情報公開への対応が不適切であったことのみならず、国民の皆様に防衛省、自衛隊の情報公開の姿勢について疑念を抱かせ、結果として国内外のそれぞれの現場で日々任務に当たる隊員の士気を低下させかねないという点できわめて重大かつ深刻なものであると考えている」としている。
山口氏は「組織全体として、ごく当たり前である説明責任が果たされず、手続きも不正だったことは間違いない。今回名前が出てきた人たち以外にも、いろいろなところで説明責任を果たさなかったひとがいっぱいいたはずだ。規律が地に落ちれば、軍隊は弱くなり、国を守れない。本当に隠すことができないような仕組みにしないといけない」と指摘。「正当な手続きがあり、世論がサポートしてくれて、リスクがあるけれどもやってくれと国民に付託されてはじめて、隊員としてはやる気が出る。そこで議論・説明が足りない、疑わしいような部分があるということになると、隊員、家族にはやりきれない部分がある」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)