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 予想を上回るスピードで進化する北朝鮮のミサイル技術。これについて14日、世界的に影響力のあるシンクタンク・IISS(国際戦略研究所)が一つの分析をまとめた。

 IISSはそこで「この急速な発展は何を意味するのか、答えは単純だ。北朝鮮は高性能液体燃料エンジンを外国から入手したのだ。北朝鮮の新型エンジンと適合する外部的な特徴を備えているのは旧ソ連の『RD-250』だけである」と、衝撃的な指摘を行った。

 それだけではない。「北朝鮮は、おそらくロシア、もしくはウクライナで取引されている闇ルートを通じてエンジンを手に入れたのだろう。エンジンはウクライナにある『ユージュマシュ社』の工場で製造されたものだ」と、入手経路についても言及しているのだ。

 報道を受けウクライナ当局は、同種のエンジンはウクライナで生産されていることを認めていた一方、納入先であるロシアから流出した可能性を示唆した。また、ユージュマシュ社もコメントを発表、「ウクライナ独立以来、ユージュマシュ社はミサイルやミサイルシステムを生産したことはなく、現在も生産はしていない」と主張ている。

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 一方、タス通信はロシアのロゴジン副首相が「エンジンのコピーを製造するにはウクライナの専門家の助けが必要だ」と発言、ウクライナから北朝鮮に技術供与があったとの見方を示したと報じ、両国の対立姿勢が鮮明になっている。

 これまで、北朝鮮のミサイル問題にほとんど沈黙を守ってきたロシア。北朝鮮のミサイル開発にロシアの影はあるのだろうか。

■武器商人、マフィアが関与?

 『ロシアから流出の可能性示唆』との記事を配信した時事通信の石井将勝・モスクワ特派員は、AbemaTV『AbemaPrime』の取材に対し「ウクライナかロシア、そのどちらかから流出したのはほぼ間違いないと思う。闇ルートなので分かりにくいが、ウクライナの工場から直接持ち出されたか、ロシアの納入先から持ち出されたかということになると思う」と話す。

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 「ウクライナ宇宙庁の担当者は、エンジンはロシアの宇宙ロケット向けに納入されていたものだと説明、そこから闇市場に流れた可能性を示唆した。それが本当なら、恐らく武器商人のような人たちが非公式にミサイルなどを売買しているということだと思う。ただ、ロシア政府はそうした取引には絡んでいないといっているので、実際のところは謎だ」(石井氏)。

 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏も、経営が悪化した工場がマフィアを通じて北朝鮮にミサイルを売った可能性があるとしている。石井氏も「2012年には、北朝鮮の外交官がミサイル技術を盗み出そうとウクライナの工場関係者に接触を試み、逮捕されている。今回も、技術移転にウクライナの関係者が関わっている可能性はある」と指摘した。

 来年3月には大統領選を控えるロシア。石井氏は「プーチン大統領は外交で支持率をアップさせてきた面がある。ここで中国と一緒に米朝間を仲介することをアピールして"ピースメーカー"としての存在感を内外に示し、大統領選に向けた材料にする可能性がある」とした。

■ロシアには北朝鮮を支援するメリットがない

 北朝鮮とロシアの関係に詳しい下斗米伸夫氏(法政大学法学部教授)は、今回名前が上がったウクライナの「ユージュマシュ社」について「"ユージュマシュ"とは、"南部の軍事産業"という意味。かつて軍事産業が非常に盛んだったウクライナの拠点の一つにある企業で、旧ソ連時代末期にはウクライナの2代大統領であるクチマ氏が所長を務めていた」と説明する。

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 「しかしソ連崩壊後、注文してくれる相手が無くなってしまった。私もウクライナのロケット工場を視察したことがあるが、"パチンパチン"と音がする。見てみると、暇でチェスをやっていた。自転車みたいなものを作って売って生活を成り立たせていた。こんなの状況なのかとびっくりした。今、ウクライナは事実上国家が機能しておらず、おそらくもっと厳しい状況にある」(下斗米氏)。

 国連を中心とした北朝鮮への経済制裁は、中国・ロシアを含めて各国が一致している。その中で、なぜ北朝鮮が核ミサイルの実験を続けられるのかという疑問が浮上しており、ロシアが船舶などで原油を運んでいるのではないかとの見方もある。

 これについて下斗米氏は「ロシアは核不拡散の方針。ウクライナも核放棄している。数年前にはロシアで北朝鮮を攻撃すべきだという論文が出たこともあり、世論も厳しい。北朝鮮を支援するメリットもない。韓国・北朝鮮に対してバランスを取ろうとしているプーチン政権だが、北朝鮮に対して愛情があるとは思えない」と指摘。「旧ソ連からの核兵器・技術の流出・拡散をいかに防ぐかが、国際社会の関心事だった。ロシアそのものや中央アジアの国を通して技術者が流出した可能性はゼロではない」としながらも、ウクライナとロシアのいずれかが"国家レベル"で支援しているとの見方には否定的な見方を示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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