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 「牛肉はランクが上がっていくにつれて美味しい」「サシ=霜降りが多ければ美味しい。そんな「A5ランク神話」の真相を、AbemaTV『AbemaPrime』が検証した。

 今や「WAGYU」として、海外にも浸透し始めているブランド牛・黒毛和牛。今年4~6月の輸出額は、前年同期比で57%増と、成長を続けている。

 その格付けは「歩留り」と「肉質」で判断される。「歩留り」とは皮、骨、内臓を取り除いた後の「食べられる部分」の量で、A~Cの3段階で評価され、B、Cランクには乳牛も含まれる。また、「肉質」は、サシ(脂肪量)、肉の色沢、脂肪の色沢と質、肉の締まり・きめによって1~5の5段階で格評価される。このアルファベット(歩留り)と数字(肉質)の組み合わせがランクとなり、サシの多い「A5」に近い牛肉ほど高値で取引されている。

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■ランクの判断の基準はあくまで見た目

 格付けを行っている日本食肉格付協会・青島正恭専務理事は「格付けは昭和36年(1961年)に始まっている。策定時に"こういうお肉がおいしい"という概念で作られているので、完全イコールではなくても、美味しさの基準になっていると考えている」と説明する。しかし、意外にも判定の方法は「厳しい試験をクリアした協会の格付員が見て決める。一切食べません」というのだ。

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 青山氏が「おいしさは消費者が食べてどう感じるかという感受性の問題で、十人十色ある。極端に言えば100人100色。食品、特に肉については、必ず美味しいということはなかなか難しい。様々あると思うが、一般的な概念として、サシが豊富な方が美味しい、ということで規格は作られている」と話すとおり、ランク付けに「味」の基準はないということになる。判断の基準はあくまで見た目ということだ。

 「激安商品の落とし穴」などの著書がある農産物流通コンサルタント山本謙治氏は、「枝肉(頭部,尾,四肢端などを切り取り,皮や内臓を取り除いたあとの食肉)になった状態では締まりすぎているので、その時点で味の判定は難しい。また、格付ができた当初というのは、一般的にはサシが入っていた方が美味しいとされていた。だが、現行の基準ができてからもう20年以上が経っており、技術が進歩して当時の想定以上にサシが入るなってしまった。それが現代の悲劇だと思う」と話す。

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 青島氏も、「牛肉の輸入自由化以降、安い輸入牛肉に負けないよう、生産者や官民挙げて皆さんで頑張った成果が今あらわれている。脂肪交雑(サシ)も非常に優秀なものが出回っている。家畜改良の中でも産肉能力が飛躍的に上がったことが言える」と、国産牛肉の高品質化が進んでいるとの認識を示した。

■A4、A5の牛を作ることに邁進する農家

 格付優先の現状は肥育農家にとって厳しい現状を招いている。

 「こんな時代、今までなかった。全体的に子牛が足らない。値段は高いし、飼料もトウモロコシの価格が高止まりしているから、たちまち赤字になってくる。残念だけど、もうこの地域から肥育農家がいなくなっちゃって、私だけになった。年間150頭ぐらいしか出荷できない」

 そう話すのは、東京・あきる野市にある竹内牧場で、『秋川牛』ブランドの牛を出荷している竹内孝司代表。

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 「見てわかる通り、どの牛も、いかにも健康に育っている。コロコロしてるでしょ、まるまる太って。健康でいっぱい配合飼料を食った牛が美味しい牛になる。私はそう確信している。ただ、ここで見ているだけでは、日本格付協会で言っているようなランクは私には分からないし、今騒がれている"旨味成分"なんてのは食ってみなきゃわからない。サシっていうのは肉の間に入った脂のうまさの究極だから、A4、A5の牛を作ることに邁進する」(竹内氏)

■「あえて評価されていないA4・A3を使う」レストラン

 生産者や消費者がこぞって目指すA5ランク。そんな中、あえて「A5神話」にはこだわらず、味を追求するお店も出てきている。

 岩手県産の黒毛和牛を扱い、東京でもレストランを展開する株式会社門崎の千葉祐士代表取締役は「生産者もできるだけ美味しいものを作りたいと思っている。ただ、こだわっても美味しさを評価する基準はないので、できれば体が大きく、A5になってもらいたい。A5を作るときのコストもA3を作るときのコストもそんなに変わらないので、A5の方が収入が上がるわけですから」と話す。

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 千葉氏によると、A5と比較しても、見た目や美味しさの点で遜色のないクオリティのA3もA4の肉があるという。

 「私はあえてみんなが高く買っているA5に手を出さず、力があるのに評価されていないA4とかA3を少しでも多く使う。みんながそうすることによって、A4、A3の相場が上がる。生産者の方々の努力と英知が継承されている、詰まっているのが和牛だと私は思う」(千葉氏)。

■「行き過ぎたブランド志向が自分たちの選択肢を狭めてしまっている」

 山本氏によると、A5とA4の和牛肉の価格差は一頭あたり数十万~100万もあるといい、A4に格付けられた場合、生産者に利益が出ないこともあるという。

 「食べるとものすごく美味しいが、売ろうとしても市場に出荷するとA2とかB2とかになってしまうので、べらぼうに安くなってしまう。結局今は黒毛和牛じゃないと高く売れなくなってしまっている。各地で赤牛などを作っている生産者たちはジリ貧で、どんどん減っている。それは消費者にとってもマイナスで、多様な選択肢がなくなる」(山本氏)。

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 山本氏は「肉の味は、血統や餌、育て方などによって複合的に決まってくる。A5の中にも、脂が強くて、くどくて食べられないという肉がある。A5だから絶対に美味しいんだと思って大枚を払ったけれども、『うわ、何このくどいの』という肉に遭遇することもある。A5=旨い、ということではなく、食べてみないとわからない」と指摘、消費者の行き過ぎたブランド志向が、かえって自分たちの選択肢を狭めてしまっていると警鐘を鳴らした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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