
「コプト正教会」。紀元1世紀に聖マルコによってキリスト教がエジプトに伝えられ、始まったといわれる宗派で、現在エジプト国民の約1割(約934万人)が教徒だと言われている。最高指導者は2012年に第118代教皇に就任したタワドロス2世で、今年4月にはエジプトを訪れたローマ法王と会談を行うなど、大きな影響力を持つ。AbemaTV『AbemaPrime』では、先週金曜日から来日中のタワドロス2世に密着した。

日本で唯一のコプト正教会の教会は、京都府木津川市にある。タワドロス2世が訪れるこの日は、日本に住む教徒の数は100人以下と非常に少ないものの、この日は全国各地から集結、礼拝の準備にあたった。去年、日本で初めてできたこの小さな教会で礼拝を行うことも、タワドロス2世が来日した目的の一つだ。コプト正教会の礼拝では、パイプオルガンではなくシンバルやトライアングルが使われ、アラビア語や「コプト語」というエジプト語の古代言語が響き渡る。お香を焚くなど、キリスト教初期の信仰形態を残しているとも言われている。

教皇は「この教会の設立について、私たちは日本のみなさんや政府の方々に感謝する。私たちが教会を建てるのは、人々に愛を届けるためだ」とスピーチした。礼拝中は近寄りがたい雰囲気を醸し出していたタワドロス2世だが、終了後は自ら参加者へお土産が配り、写真撮影にも気軽に応じるなど、気さくな人柄も垣間見える。参加した教徒たちは「素晴らしい一歩になると思う。ここに来てくれて、とても誇りに思う」「(今日のことは)死ぬまで忘れられない。うれしい」と話してくれた。
■相次ぐISからの迫害
しかしここ数年、コプト教徒たちはISのテロの標的にされるなどの迫害を受けている。
4月には2つの教会で連続テロ事件が起き、少なくとも44人が犠牲になった。事件について過激派組織ISは「戦士2人が教会での爆破を実行した」と犯行声明を出している。また、5月にはコプト教徒を乗せたバスに銃が乱射されるという事件も起き、29人が死亡、けが人は25人にのぼった。

日本に住むコプト教徒からは「いつも爆発があったらエジプトの家族に電話して、教会は大丈夫ですか?安全ですか?って確認しています」「全てが終了し、キリスト教徒がエジプトで平和に暮らせることを願っています」と不安の声が上がる。政情不安などの理由で、国外移住することも少なくないのだという。
「宗教的なヘイトスピーチ、例えばモスクでキリスト教徒と握手してはいけないとか、キリスト教徒の誰かが病気に倒れた時にお見舞いしてはいけないとか。差別を招くような発言、それを聞くことによって、イスラム教徒とキリスト教徒の間に緊張感が高まっていくんじゃないかと思う」(教徒)。
このような現状を打破すべく、タワドロス2世はエジプト政府などと協力し対策に乗り出している。教皇に選出されて以降、精力的に平和に向けた活動を行っており、翌年にはコプト正教会の教皇としては40年ぶりにバチカンを訪問、ローマ法王と世界平和の実現に向けて話し合った。今年5月にはイギリスのウィンザー城でエリザベス女王とも面会、さらに6月には、カイロにあるイスラム教の最高教育機関アズハル大学を訪問し、指導者たちと双方の共存の取り組みを進めようと語り合ったという。
■「"日本人の微笑み"に期待している」
来日の目的についてタワドロス2世はとりわけ教育に強い関心があり、「"幼い頃に刻んだものは、石の上に刻まれたようなものだ"という諺がある。どの国であれ、資源は人材育成だ。愛情、人権、他の人々を受け入れること、治安の感覚…などの善良な人間を作る基礎は全て、幼い頃からの教育の中で育てられるものだと思う。日本の小学校の在り方、学校教育の在り方を学びたい」と話す。
ジャーナリストの堀氏から日本についての印象を尋ねられたタワドロス2世は、「第2次大戦では原爆投下などつらい経験もしたが、驚異的な復興を遂げたことに敬意を持っている。長い間来たいと思ってきた」と話し、「日本は太陽の昇る国であり、太陽で象徴される国だ。その役割は、世界的なものだと思う。平和の源泉であって欲しい。日本はエジプトの病院や地下鉄などの建設も支援してくれた。このような偉大な業績は、言い換えれば"平和の建設"ということだ。エジプトには経済問題、教育問題、法整備の諸問題などあるが、様々な援助を受けながら友好関係を作っている。"日本人の微笑み"に期待している。今後も友好関係を継続して、危機を乗り越えていきたい」とした。

さらに堀氏が「今、日本はアメリカのテロとの戦いに対して軍事的な支援を行ったとして、ISから攻撃の標的にすると警告されている。日本が取るべき選択は何なのか」と尋ねると、「平和への積極的な行動。日本は平和のメッセージを維持していただきたい」と答えた。
ISについてタワドロス2世は「14世紀もの間、キリスト教とイスラム教は生活のあらゆる分野で関係を築いて共存してきた。しかしながら経済状況や堅苦しい法律、農村地帯が抱える問題を背景に、対立が出てきた」とし、「(ISは)イスラム教を中傷し、改ざんすることでテロ行為を根拠づけている。それは正しいことではない。誤った考え方を改める必要がある」と指摘、「世界は動いていて、人間も前進しているが、彼らのような非常に抑圧的で暴力的な行動は昔からあるもので。我々はそうした問題に対して解決策を見出さなければならない。幼い頃からきっちりとした宗教教育をすることで、人権、平等などの考え方や差別をしないということを学ぶべきだ。諸組織に対して資金を提供している人たちがいて、それによって力を得ているのが実態だ。これを抑止する必要性を世界が認識することが必要だ」と訴える。

「私の願いは、人々がお互いに理解するということだ。多様化することは重要なことで、決して争いの原因になってはいけない。多様性は受け入れられないこともあるかもしれない。だが、開かれた考え方・広い心・しっかりした愛情の3つの要素を持って、平和を構築していきたい。平和は人の心に存在するものだ」。
(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
この記事の画像一覧

