世界中が注目した元ボクシング5階級王者、フロイド・メイウェザー・ジュニアvsUFC初の2階級同時王者、コナー・マクレガーの「世紀の一戦」が30日(水)21時~Abema TVで放送される。
ともに自らのフィールドで頂点を極めた超一流の選手同士の対決だが、互いの濃すぎるキャラクターゆえに試合前の両者の罵り合うトラッシュトークや、巨額の金が動くエンターテイメントショーばかりがクローズアップされ、はなから茶番劇と決めつけていた人も少なくないだろう。しかし、蓋を開けてみると極めて真っ当な「ボクシングvsMMAが対戦したら?」というクエスチョンに模範的に答える内容となった。
結論は、すでに多方面で報道されているように、ラウンド後半スタミナが切れで失速したコナー・マクレガーをじわじわと追い込んだメイウェザーが10ラウンドTKO勝ち。序盤こそ、メイウェザーに対して果敢に仕掛けて行ったマクレガーは、体格的に一回り大きいリーチを活かし、パワーのあるパンチを度々ボディに叩き込んだ。
ショートアッパーやボクシングでは見られないような角度からのパンチも有効打ではないが、それなりの期待できる雰囲気を醸し出していたと思う。ここで、多くの人たちが予想していた「マクレガーのパンチは一発もメイウェザーには当たらない」「1ラウンドかすりもしないでマクレガーがKO負け」の答え合わせは「ノー」であることが証明された。拡大解釈すると「勝ち負けは別としてMMAファイターもボクシングマッチで戦える水準にある」ということである。
一方のメイウェザーは、持ち前の高いガード技術から、様子を見ながらじっくり推移を見守る展開で虎視眈々と機会を狙っていた。試合後にメイウェザーが「相手が全て出すのを待っていた」と振り返ったが、ターニング・ポイントは4ラウンドあたりからだろう。
マクレガー陣営が2ヶ月間の準備期間を経て用意してきた作戦はこの時点で万策が尽きた状態にあったと思う。徐々にクリンチ離れ際の打撃や、後頭部を狙うようなMMAファイター特有の打撃の癖も出てきはじめる。言うなれば、そこまでは行儀よくボクシングマッチを遂行して来たものの、カードが無くなってしまい本来のMMA打撃スタイルからギリギリ有効打を探るという選択肢しかなかった、このタイミングを図るようにメイウェザーも攻撃を仕掛け始める。正直なところ40歳という年齢、2年のブランク、決してベストではなくかつての緻密なアウトボクシングには程遠かったが、その一方で、相手を侮らず、決して奢らない戦いぶりに本気度と迫力が感じられたのも事実だ。
この試合冒頭でも「真っ当な」と言ったが、両者驚くほどフェアに戦った印象がある。ボクシング・マッチという不利な状況の一方で、MMAファイターであるマクレガーは「極めてグレーな有効打」を用意できた筈だ。後半失速してから苦し紛れのクリンチや後頭部をかすめる、またはローブロー気味と荒っぽい場面はあったものの、序盤は果敢にボクシング挑み続けた。「I am Boxing」はハッタリでは無く、この試合の彼の一大テーマだったのだ。
メイウェザーに関しても、語弊がなければもっと楽に戦うことができた筈だ。晩年期の彼のボクシング競技のルールの範囲内で計算しつくされた負けない試合は「つまらない」「逃げのボクシング」と揶揄されることもあったが、本気でマクレガーを倒しに行った。舌戦では1ラウンドKOや3ラウンドなど比較的早いラウンドを挙げていたが、そこは年齢的なものもあるだろう、これは精一杯ダンスした結果…そこに偽りは無いように見えた。
グレーゾーンを探る中試合の流れを崩さずに難しいジャッジを捌いたロバート・バードの名レフェリー振りも賞賛に値する。後頭部への攻撃は明らかに反則だが、ある程度「故意か無意識か」の線引きを見極め、クリンチ直後の「不幸な事故」も先回りし、試合を荒らさずに最後まで進行させた。ボクシングのレフェリーだが、どちら寄りでもない正確かつ公平なレフェリングだったと思う。マクレガーは「まだやれた」というが、元世界王者のパンチをかなりの数受け、ラウンドを重ねるごとに有効打も増えていたことや、畑違いの選手が戦っているリスクを考えると誰もが納得するストップだったように思える。
結局のところ「メイウェザーvsマクレガー」が今回の試合で残したのは「ボクシングとMMA」さらには他の格闘技がさらに技術的に進化する未来の可能性だ。UFCの誕生から24年、さらに遡ると35年と歴史の浅いMMAというスポーツに、伝統と格式あるボクシングに挑む縮図には上下関係が存在している。それは今も変わっていないが、互いの競技者が技術を磨きさらに高いレベルで対決する。またはMMAとボクシングを兼業できるファイターが将来誕生するそんなワクワクする未来が待っているかも知れない。「ショー」やら「サーカス」などと的はずれな意見も報じられているが、あれほどの派手な罵り合いやら絵になる伏線を演出した二人、もっと派手な戦いもできたのではないだろうか?そういう意味では100%的はずれな野次だと断言したい。
実際は勝ったメイウェザーも、健闘したマクレガーも互いを称え合い真摯にこの戦いに挑み、ボクシングと総合格闘技どちらの名誉も傷つかなかった。「大凡戦」を予想していたファンもその試合内容に満足したはずだ。これ以上のハッピーエンドは他にあるだろうか?
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