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■米国人の危機感がそれほどでもないから?

 世界が北朝鮮のミサイル・核開発の抑止に動く中、アメリカ国内には、北朝鮮の核保有を容認してもよいのではないか、という意見が出てきている。

 アメリカのシンクタンク「シカゴ・グローバル評議会」が行った世論調査によれば、北朝鮮の核兵器について「深刻な脅威」と答えた人が75%と多数派を占めているが、対抗手段については「経済制裁」76%、「核施設空爆」40%に対し、「核保有容認」も21%に上っている。オバマ政権で大統領補佐官を務めたコンドリーザ・ライス氏はニューヨーク・タイムズに寄稿したコラムの中で「我々は北朝鮮の核保有を大目に見ることができる。冷戦中にソビエトの何千もの核兵器を大目に見てきたように」と言及した。

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 上智大学教授の前嶋和弘氏はライス氏の発言について「ニューヨーク・タイムズの記事を読むと、『先制攻撃をすると日本や韓国が火の海になってしまう。それよりはまだ認めた方がいい』という一種の"諦め"のような感じを持っていることがわかる」と話す。また、核保有容認論が浮上してくるアメリカ国民の意識については「北朝鮮問題が、まだ遠い世界の話に見えているのかもしれない」と話す。

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 未来工学研究所研究員の長尾賢氏も「日本や韓国に比べて、北朝鮮のミサイルは迎撃システムで撃ち落とせる可能性が高く、現時点ではそこまでの脅威ではない。その点から見れば危機感は欠如しているし、世論調査の結果は分からないでもない。事態がもっと切迫して"将来もっと恐ろしいことが起きる、怖い"という雰囲気になってくると、世論調査の結果も変わってくるかもしれない」とした。

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 本当にアメリカが北朝鮮の核保有を容認するということがあり得るのだろうか。

 長尾氏は「北朝鮮がミサイルを発射したとしても、上昇段階で全て撃ち落とせるといった態勢が出来上がれば、アメリカの中で"別に持ってもいいよ"という風潮が高まる可能性がある」と指摘する。

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 前嶋教授は「核の小型化に成功し、アメリカ本土に届くICBMがいつでも発射可能になり…と、ifがいくつも付いた前提で」と前置きして、「アメリカとしては絶対に認めたくないものではあるが、最低でもNPT(核拡散防止条約)の締結、アメリカ及び同盟国を攻撃しない確約といった条件が必要だ。また、NPT条約がある以上、本来"容認"してはいけないので、インドやパキスタン、イスラエルへの態度のように"しょうがないから黙認しておく"というのが正確だろう」と話す。

 NPTとは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国を「核保有国」と定め、これ以外の国への核兵器拡散を防止することが目的で、テロリストに核兵器が渡らないようにする狙いもある。現在、締結国は191の国と地域に及び、日本は1976年6月に批准している。非締結国にはインド、パキスタン、イスラエルなどがあり、すでに北朝鮮は脱退を宣言している。

■核保有をめぐる「ダブルスタンダード」

 パキスタンはインドと3度戦争をし、いずれも敗戦。しかしインドが中国の核の脅威を口実に核開発を始めると、自らも核開発を進めていった。小国が大国と渡り合うために核開発を行った事例だ。まさに、北朝鮮が手本にしているとも言われる戦略だ。

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 「南アジア諸国の軍事費のうち、8割はインドだ。パキスタンは通常戦力の不足を補い、インドに対抗するために核兵器を持った。一方、パキスタンの核兵器はアメリカにとっては脅威ではなく、冷戦時代には対ソ連で同盟国としての役割を果たしてきたので、国益からも目をつぶってやるかという時期が続いた。アメリカ国内でパキスタンへの制裁の必要性も議論されてきたし、やはり公正なルールに照らせばおかしいが、いまだに手を出されずに済んでいる。北朝鮮はちゃんと統率が取れているけど、アメリカや日本に対してルールを守らない国。パキスタンも政情が不安定で、テロリストに核が渡ってしまう可能性がある国だけども、一応は他国の言うことを聞いたり、情報もオープンにされているというのが理由だ」(長尾氏)。

 長い間"世界の警察"として君臨、国益に叶う国とそうでない国とで態度を変えてきた大国・アメリカのダブルスタンダードも見え隠れする。北朝鮮の核武装容認論は、日本の戦略にも影響を及ぼす。

 「日本にとっても大きな影響があると思う。アメリカが援軍に来てくれなくなるかもしれないし、アメリカの"核の傘"の力が弱くなっていく。その結果、日本で核武装論が出てくるかもしれない」(前嶋教授)。

 経済評論家の川口一晃氏は「アメリカの論理がまかり通っていけば、同盟国として本当に信用できるのかという話になってくる。かつて北朝鮮の核保有は容認できないと言ってきたライス氏が、ここまで来たら容認もありだと変わってしまった。日本には非核三原則あるけれども、持ち込みは認めるという選択や、核保有という選択を迫られるような気がするので、日本として、アメリカによる安易な容認論は認めるべきではない」と指摘。

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 BuzzFeedJapan編集長の古田大輔氏も「ダブルスタンダードということで言えば、5か国だけは核保有を認めるというNPTの枠組み自体もダブルスタンダード。将来的には核軍縮をしますよという紳士協定も結果として守られず、それぞれが自分たちの国益に基づいて打算的に動いた結果、今のような結果になった。先月、核兵器禁止条約が採択された。もし核兵器が一発でも撃たれれば何十万人が死ぬ。そういうことはやめようと努力して、ようやく採択されるところまできた。しかし、原爆の被害を知っている日本は参加していない。国際政治の中で、倫理は一体どこに行ってしまったのか?国益だけを合理的に考えれば核保有を黙認せざるを得ないという議論になるが、それなら全ての国が核を持つようになってしまう。パキスタンのムシャラフ元大統領が"インドとの緊張が高まった時に、核を攻撃に使うかどうか検討した"と証言したことも報じられている。どうしようもないから北朝鮮に核兵器を持たせよう、それに対抗して日本も核を持った方がいいんじゃないか、という議論は緊張感を高めていくものだと認識した方がいい」と警鐘を鳴らす。

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 長尾氏は「アメリカがパキスタンの核兵器保有を認めた時点で、北朝鮮問題はかなりの打撃を受けた。なぜなら、北朝鮮の核兵器の設計図はパキスタンにもらったものだからだ。結局、北朝鮮の態度を認めてあげるよということになれば、"もっとやろうかな"という動機を強めることになるし、さらなる核兵器の拡散につながってしまう」と指摘した上で、「結果としてNPTが危機を招いたことも現実だし、核兵器を無くすという点においては大して効果を上げていないが、ブラジルが核保有の断念に至るなど、メッセージとして、核開発の速度を遅らせるという点では機能してきたと言える。これからは各国の核開発を少しでも遅らせるためにどうすればいいか、ルールを改定し、細かな条件を設けるなどしていくのが現実的な方策ではないか」と提言した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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