この時期、所属議員を集めて研修会を開いている自民党の各派閥。安倍チルドレン(2回生議員)の不祥事が続く中、今年は例年と違う様子が見受けられている。
長野県・軽井沢に集まったのは、自民党の最大派閥・細田派(清和研)の面々。安倍総理の出身派閥でもある細田派は、95人が所属する自民党の最大勢力だ。議員が避暑地で親睦を深める、ある種“夏休み”の意味合いもなくはない夏の研修会。細田博之会長は「国民の選択で、選挙の際に信任を得られなければそこで終わり。自重・自戒をいたしまして、国家を運営する我々の責任を全うすべく…」と引き締めをはかった。例年行われていたゴルフも今年は見送った。
細田派には、秘書に対する暴言・暴行が問題となった豊田真由子衆議院議員や不倫問題の中川俊直衆議院議員ら“魔の2回生”が在籍(自民党は離党)している。本来、派閥には若手議員の管理・育成の役割もあったはずが、それも果たせず自粛の夏となっている。
■いま最も勢いのある“麻生派”
いま自民党で最も勢いのある派閥が、59人の議員を要する麻生派(志公会)だ。7月、麻生太郎副総理は山東派などとの合流を実現し、額賀派を抜いて党内第2派閥に躍り出た。8月29日の研修会で麻生会長は、「3派が合流させていただき、『志公会』が正式に発足となった。自民党が結党してこのかた、多くの派閥ができ、消え、色々吸収されたり無くなったりしたが、合流したという歴史はない」とコメント。安倍総理を支える姿勢を強調する一方で、麻生副総理は自らの派閥を拡大している。
自民党の派閥力学では、「数の力」「ポスト配分」「後継の育成」が今も重要な要素であることに変わりはない。麻生派に抜かれたとはいえ、田中角栄氏からの田中派の流れをくむ額賀派(平成研)は、所属議員55人の党内第3派閥。額賀福志郎会長は「我々のグループが、党においても政府においても、重要なポイントで役割を果たしていく」と述べた。
派閥の大きな目的の1つは、自民党総裁選挙に候補者を擁立し、派閥から総理大臣を誕生させることだ。2007年、額賀氏も「先頭に立って戦っていく。日本の安定と繁栄、国民に安心を与えていくために努力する」と名乗りを上げたが、この時は派閥内の支持を集めることができず出馬を断念。その後、派閥の会長に就いたが総裁選出馬はできないままで、派閥会長の交代を求める声も上がっている。あるベテラン議員は「額賀先生は8年の長きにわたり会長を務められています。早く決めていただかなければ」と話す。
しかし、国民的人気や年齢、スキャンダルなどの面で、納得する人物がいないのが実情だ。額賀派の重鎮OBは「ここ何年かは総裁候補を出すのは難しい」とコメントした。
■“小選挙区制”の導入で派閥が弱体化
総裁選候補者の擁立も難しい中、自民党の派閥は何のために存在しているのか? 一橋大学大学院(政治学)の中北浩爾教授は「派閥の役割の変化」を指摘する。「今の派閥は弱くなってきていて、独立性もなくなってきている。かつては独立した政治のまとまりとして、総裁を出したり派閥の意向を党に反映させたりしていた。今は逆だと思う。党執行部の意向を下に降ろす、一般の国会議員や所属議員に浸透させるという機能が強まっている」。
派閥の力が弱まった1つの要因は「小選挙区制の導入」だ。今の小選挙区制の場合、1つの選挙区に自民党候補は1人しかいないため、選挙の際に派閥を後ろ盾に自民党候補者同士で戦う必要がない。
もう1つは「カネ」だという。政治資金制度改革で企業団体献金を規制したことで、派閥はかつてのような集金力を発揮することができなくなった。中北氏は「派閥の力がかつてのような状態に戻るのは考えにくい。政治資金を昔のような規模で調達するのは今の制度上難しいし、個々の国会議員の派閥への忠誠心を回復するのも今の小選挙区制だと限界がある」と分析する。
そんな中、安倍1強政治で野党は頼りない、派閥も力を持たない状態が続いている。中北氏は「かつての55年体制では、自民党一党支配の下で派閥のリーダーが擬似政権交代するというのが基本形だった。しかし小選挙区制になったので、自民党内で派閥は力がない。本当の政権交代が難しい、擬似政権交代も難しいというところで、民意を反映する回路が狭くなっているということが問題だ」と指摘した。
(AbemaTV/『けやきヒル’sNEWS』より)