9月23日に開催される「UFCファイトナイト・ジャパン」を前にAbemaTVではUFCやPRIDEを含む総合格闘技の名勝負を連日放送する。9月4日は日本のMMAの歴史を変えた「グレイーシー狩り」を実現した2000年5月1日、桜庭和志vsホイス・グレイシーの「伝説の90分」。
7月、桜庭和志がUFC殿堂「ホール・オブ・フェイム」の式典で「PRIDEのテーマ」と共に登場した桜庭は「自分の人生を変えた試合」としてこのグレイシー一族との抗争を挙げた。
「いまのMMAファンからすれば、まさにクレイジーな試合でしょう。1ラウンド15分の無制限ラウンドで、決着はタップアウトのみ。レフェリーストップすら認めない前代未聞の特別ルールで当時は決闘と騒がれた試合です。この試合でボクとホイスは90分を戦い抜き、最後はグレイシー側がタオルを投入、ボクの勝利で試合を終わりました」「グレイシー一族との抗争はボクにとって大きな財産です。対策を考えることで技術の幅もどんどん広がっていったと思います」と桜庭はあの一戦を振り返った。
1ラウンド15分、延長も含め計6ラウンドの完全決着戦と異例続きの内容だったものの、今思えは「桜庭vsホイス」は現在のMMAの源流にもつながる内容だった。スーパーストロング・マシーンの覆面姿の3人が同時入場するという桜庭に、アントニオ猪木の花束贈呈とエンタメがかった演出とは裏腹に、一族威信をかけたピリピリしたホイスの姿が印象的だった。
試合開始早々、パンチを繰り出しながら突進するホイスに対し、タックルで切りにかかる桜庭、それを下から締めるホイス、上からパウンドを狙う桜庭に下から強烈なパンチで応戦するホイス、パウンドを諦め素早く立ち上がり足から臀部めがけて蹴りを入れる桜庭、対して素早い組合に持ち込むホイス…とファーストコンタクトからの両者が凄まじい。この2人でなければ、どこかで決まっていたかもしれないが、この攻防がそれから80数分続く長い攻防の序章とは誰も思わなかっただろう。
1ラウンド、ロープ際での桜庭のアームロックに追い込まれるホイス、ロープを挟んでの腕関節 伝説の「3分間の腕関」と共にカメラ目線で不敵に笑う桜庭の表情はこの試合のハイライトとして後世に伝えられることとなるが、このラウンド後半にはホイスの嵐のような打撃が桜庭の後頭部を襲うこととなる。長年目にしたダイジェストの影響か、桜庭優勢の記憶が書き換えられる紙一重の展開が続く。
道着を着ている違和感はあるもののホイス・グレイシーが蹴りやヒザ攻撃などをベースに得意の柔術で試合を組み立てる姿も印象的だ、対する桜庭の後ろを取られた状態での防御や体の使い方、バランス感覚にも目をみはるものがある。単純に言えば膠着状態の非常に長い試合だが、両者が様々な可能性を探る神経戦は今みても見応えがある。
ラウンド2のフルで使った長過ぎる組合い、3ラウンド、ローブロー中断後のスタンドでの打ち合いでもホイス・グレイシーの積極的な打撃への意識の高さを感じる、膠着状態や寝た状態でもアリキックを放ったりと抜け目のなさは当時最強に相応しい戦いぶりだ。
一方の桜庭は、驚くべき数の打撃を受けても前にでる粘り強い耐久力と、道着を掴んだ後に放つアッパーなどを活路にラウンド後半から主導権を掴んでいく。攻守が逆転したのは5ラウンド上になった形で桜庭が放ったパウンドの威力や技術の高さや伝説もモンゴリアンチョップなどのしつこい攻撃が徐々に最強グレイシーの心を折りはじめる、ここから道着を使った桜庭の多彩な攻撃や、下から抵抗するホイスの打撃など、派手な印象の1ラウンド同様に一進一退、このラウンドがこの試合のキーともいえるだろう。
この試合の最終ラウンド6ラウンドになるとホイス・グレイシーのスタミナが限界に来ていた。ゴング開始早々簡単にタックルでテイクダウンされ再び上を取られ、スタンドでも桜庭が圧倒し始めるが、技術や打撃の強さでの争いというより消耗戦に敗れた印象だ。
結果論ではあるが、完全決着を望んだグレイシー側の特例ルールが自らの首を締めただけでなく、この日だけは道着の着用すら裏目にでる形となった、リングではなくオクタゴン、より洗練されたMMA技術や、道着の着用しない戦い、そして15分ではなく5分1ラウンドだったら…現在の感覚でみると非常識すぎる2人の戦いだが、ユニファイドルールで整えられた現在では見ることに出来ない正に決闘がここでは展開されている。改めてこの「歴史的一戦」を見ると発見は多く、あの時代特有の独特の緊張感を追体験することができる。