まだフットサルを見たことがない人にとって「ボラ」は最高の入り口といえるかもしれない。
「ボラ」というのは、Fリーグのフウガドールすみだでプレーするブラジル人選手のことだ。本名はレアンドロ・ロドリゲル・ラファエル。髪を剃った時に頭の形がビリヤードのボールのようだったから、「ボラ(ボール)」とつけられたそうだ。
そのボラをひと言で表すならば“技のデパート”だろう。「僕は技でみんなを楽しませるのが大好きなんだ」というように、エラシコ、シャペウ、ヒールリフトといった大技を惜しげもなく繰り出す。ボールを持ったら何かをやってくれるという期待感で、ボラの右に出る選手Fリーグにはいない。
ボラのテクニックがどれほどすごいのか。湘南ベルマーレに所属していた2010年、同じクラブの名前を背負うJリーグとFリーグのチームによる“同門対決”が実現したことがあった。
Jリーグの湘南の選手と、Fリーグの湘南の選手がフットサルで対決する。果たして、どちらが強いのか――。大きな話題を集めた試合で、誰よりも輝きを放ったのがボラだった。
サッカーの最高峰であるJリーグで活躍する選手を相手に、ボラは“遊んで”いた。ボールを10回以上もまたぐシザーズフェイント。相手の意表をつくラボーナからのパス。GKに背を向けた状態からのヒールショット……。
試合会場となった小田原アリーナには、Jリーグ・湘南を応援するサポーターもいたが、試合が始まると誰もがボラの超絶技巧に釘付けになった。そんなボラは、やべっちFCの人気企画「フットサル対決」には必ず呼ばれる常連でもある。
2006年に来日したボラは、名古屋オーシャンズ、湘南、ペスカドーラ町田でプレーし、2015年のシーズン終了後、町田を契約満了となった。35歳という年齢もあって、「引退するのではないか」とも噂された。だが、ボラはすみだの一員としてFリーグの舞台に戻ってきた。
それまで日本人選手だけでプレーしてきたすみだにとって、ボラは初めての外国人選手だ。須賀雄大監督はボラの加入にあたって「日本人選手にはないものを持っている。ああいう選手と練習から一緒にやれるのは、すごく良いこと」と話していた。
とはいえ、ボラにはクリアしなければならない課題があった。ここ数年、ボラは明らかなオーバーウェイトだった。シーズンオフに入ってブラジルに戻ると、家族や仲間とシュラスコを食べて、太って帰ってくる……。ブラジル人らしいといえばブラジル人らしいが、それによって一瞬のスピードや、運動量が落ちていることは否めなかった。
そんなボラに心を入れ替えさせる出来事があった。今年3月の全日本フットサル選手権の決勝、すみだは日本一をかけてシュライカー大阪と戦った。この試合で須賀監督はボラを切り札として送り込んだ。だが、大阪のアルトゥールにボラが1対1で抜かれて失点を喫してしまい、すみだは準優勝に終わった。
このことがよほど悔しかったのだろう。オフ明けでチームに合流すると5kgの減量に成功。「ボラが痩せた!」とチームメートを驚かせた。ダイエットしたことによって、ボラは全盛期のキレを取り戻し、目下ゴールランキング5位の13ゴールを挙げている。
いつ行っても楽しませてくれるテーマパークや、何度見ても感動を味わえる演劇のように、ボラはどんな時も見るものを満足させてくれる、極上のエンターテイメントだ。まだFリーグを見たことがない人は、「ボラ」を入り口に触れてみてはどうだろうか。
ボラのいるフウガドールすみだは16日の第16節、7位のバルドラール浦安と対決。その模様はAbemaTV(アベマTV)のSPORTSチャンネルで17時45分から生中継される。
文・北健一郎(futsalEDGE編集長)