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 今、町から書店が姿を消しつつある。日本全国で“書店ゼロ”の自治体の数は「1896中の420」と全体の約2割に相当(トーハン調べ)。書店数は2017年5月1日現在で1万2526店と、2000年の2万1495店から4割以上が減少した(アルメディア調べ)。なぜここまで書店の数は減少しているのか。

 書店業界が衰退の一途を辿るなか、都内で行われたセミナーで、東洋経済オンラインの山田俊浩編集長は「新しい出会いの場として、街の本屋で意外な本に会うことがあると思う。今、出版不況と言われているが、うまく工夫すれば伸びると思う」と話す。

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 セミナーには書店の経営者らが参加し、書店の未来について意見を交換。本屋B&Bの嶋浩一郎氏は「本の仕入れ値も売値も全部決まっている。だから、これは高く売ろうとか安く仕入れようとか一切できない。本屋の取り分というのは22%しかない。飲食店とかと比べると下手すると半分以下。今時22%じゃ成り立たない」と訴える。

 HONZ代表の成毛眞氏も「日本全体を見渡した時に、書店が全くない自治体がいっぱいある。今、東京でコンビニを出そうとすると商圏3000人いないと無理。つまり、コンビニすら作れないほど小さい町に本屋は作りようがない。結果的に過疎が進んだり、高齢者数の比率が増えたりすると本屋はどんどん減っていく」と書店が置かれている厳しい状況について述べた。

■売り場面積当たりの売上高は大幅に減少

 そんななか、昔ながらの書店はどのように経営しているのか。東京都・西荻窪駅前に店を構える今野書店はいわゆる“町の本屋さん”。1階に書籍、地下1階にはコミックスなどを揃え、売り場面積90坪で約7万5000冊という豊富な品揃えだ。しかし、経営は簡単ではないと代表取締役の今野英治氏は話す。「昔は最低でも坪1万円くらい売れて、駅前だと2~3万円売れる書店もあった。それが、今や1万円いくかいかないか。それでも家賃は上がっているわけで、経営は厳しくなっているのが現状」。

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 統計を見ると、現在の売り場面積1坪当たりの1日の売上高は「平均3854円」と大幅にダウンした。年々厳しさを増しており、今野書店の近隣の競合店も一昨年に2軒閉店したという。今野氏は「ひとつは店主がご病気になって続けられなくなって、後継者がいないということもあった。もう1店舗も店主が高齢で辞めると。その前に、なかなか売上が上がらないし、厳しいという話は聞いていた」と説明するが、皮肉にも競合店の閉店で経営を続けられているという。「競合店が閉めないでずっとやっていたとしたら、借入金の返済や家賃の問題で運転資金はかなり厳しい状況だったと感じる」と明かした。

 東京都練馬区の文化堂書店も、47年間地域に根付いてきた。昭和の雰囲気が漂う12坪のお店は渡辺さん夫婦が経営し、子どもたちに本に親しんでもらおうと月に1度、店頭で絵本の読み聞かせ会を開催している。店主の渡辺欣三さんは「この辺は住宅街なので、子どもと大人を対象にしてお客さんと対話をする形に持っていって、1冊でも多くの本を買っていただきたい。今困るのは本の流通が変わったこと。ネット販売が相当な数。ネットの場合は注文すれば次の日かその次の日には手に入る。うちの場合は注文すれば1週間なりお客が待ってくれる」と、本の流通に大きな変化を感じていると話した。

■“書店ゼロ”の自治体への進出は企業も躊躇

 茨城県つくばみらい市は、関東で唯一“書店ゼロ”の街だ。2006年に近隣自治体との合併により誕生し、首都圏のベッドタウンとして人口は5万人に増加した。

 しかし、市が誕生した頃に唯一の書店が閉店し、現在そこは飲食店になっている。市民からの「書店がほしい」という要望は多く、行政が誘致に奔走したこともあるというが、つくばみらい市みらいまちづくり課の松本和記課長は「事業者としても進出するのは難しいという声をいただいた。周辺の市には大型ショッピングセンターなどがあるので、そういった商圏の問題などもありなかなか交渉が難しい。具体的な協議には至っていない」と説明する。同市は引き続き、事業者などに働きかけを続けていくとしているが、打開策はないのが現状だ。

 街から書店が減少している理由のひとつには、Amazonや楽天などネット書店の台頭もあり、出版物の約1割を占めている。

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 東洋経済オンライン編集長の山田氏はアマゾンが“ひとり勝ち”している現状をあげ、「アマゾンの急成長はこの10年で凄まじい。すでに日本全体の本の売上の10%以上がアマゾンを経由しているというくらいだし、便利度がどんどん高まっている。また、日本の場合は本の再販価格を制約している。値引き販売をしていないので、どこで購入しても一緒ということになる。お店ごとの価格の勝負はできないので、買うのであればネットでということになるのが当然だ。ひとつ希望を持っているのは、小さい書店でも頑張っているところが出てきていること。ぜひ、そういった書店も紹介したいと思ってセミナーを開催したりしている」と述べた。

 2017年7月末現在における全国の「書店ゼロ自治体」数を見てみると、香川県のみ全ての自治体に書店がある。一方、ワースト1位は北海道で、道内の書店ゼロの自治体は58となっている(トーハン調べ)。

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 書店減少の主な理由としては、「人口減」「活字離れ」「ネット書店や電子書籍の台頭」が挙げられる。書籍の売上も減少傾向にあり、12年連続でマイナス。出版販売額は、2004年に約2.24兆円だったものが、2016年には約1.47兆円に減少。1981年の約1.48兆円以来の低水準となった。

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 出版販売額における紙の本と電子書籍の比率について、山田氏は「電子書籍、例えばキンドルなどの売上は発表されていない。紙の本の場合は取次ぎのところで数字がとれるが、電子書籍は様々なルートがあり、よく分からない面がある。しかし、それほど電子書籍の規模は大きくない。ただ、漫画本は携帯などで見るのが浸透しているので、影響を受けていると思う」と見解を述べた。

 さらに、アマゾンは2015年から新たな本の楽しみ方ができるサービスを展開している。「Audible(オーディブル)」は本を音声で“聴く”ことができ、小説からビジネス書まであらゆるジャンルの作品1万点を、プロのナレーターや俳優など著名人の朗読で楽しむことができる。

 山田氏は「プロの方に読んでもらえるということで普及している。紙で活字を追っても頭に入らないという方が一定数存在していて、声で聴くと頭に入る。米国で元々CDブックというものがあったが、日本でも普及させようとしているベンチャー企業もある」と、オーディオブックへのニーズを説明した。

■独自のサービスで顧客を集める“町の本屋”

 本のサービスも多岐にわたっているが、実店舗のメリットを活かして本を売るため、様々な工夫をしている書店もある。東京都世田谷区にある、独自のサービスで顧客を集める「本屋B&B」は、嶋氏が6年前に下北沢にオープンした書店だ。毎日のように作家や編集者を招き、トークイベントを開催している。

 嶋氏は「頑張って10人以上呼ばないと赤字になってしまうという戦いを毎日している。イベントをやることで、その人の著作も売れていく」と話す。イベント情報はフェイスブックなどのネット上で告知。ただ本を販売するのではなく、書店ならではの付加価値をつけて集客している。

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 さらに、本屋B&Bではビールを飲むこともできる。本を買わずともゆっくり楽しむことができ、来店者からは「飲んで読むと思考がいつもより広がる。衝動買いで買っちゃったりもする」といった声があがる。店内には嶋氏とスタッフがこだわって仕入れた約7000冊の本が並ぶ。こうした戦略が功を奏し、黒字経営を開店以来キープしているという。嶋氏は「本を売るための工夫というか、1つの企業努力としてビールを売ったりイベントをやったりしている」と話した。

 また、9月9日にオープンしたばかりの「Hama House」は、店内のかなり高いところまで本が並べられている。水代優氏によると「手に取った時に『これ好きなのね』って、お客さん同士が交流できるきっかけになりそうなものを選んだ」という。1階にはカフェもあり、気になった本を読みながら食事ができる。水代氏は「本がコミュニティのハブになって、それを通じて皆さんがもっと仲良くなったり、立体的に体験できるコンテンツを多数用意しようと思ってます」と意気込みを語った。

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 お店独自のイベントやサービスを展開し、その情報をホームページやSNSで発信して集客する。これからの町の書店の1つの形かもしれない。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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