ハードヒットは、佐藤光留がプロデュースするプロレスのイベントである。

鈴木みのるの弟子で、パンクラスに所属しながらDDT全日本プロレスなどで活躍してきた佐藤。ハードヒットではUWFの流れをくむロストポイント制ルール(ダウン、ロープエスケープで減点していく)を使用している。場外乱闘もなければトップロープからのダイブもできない、厳密なルールの下での試合は、いわば“縛りのきついプロレス”だ。

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(佐藤光留と対戦したYASSHI ハンマーロックを仕掛ける場面も)

そこで武器になるのは、どんな技ならルールに違反せずに観客を盛り上げ、勝つことができるかを考える“プロレス頭”と、そしてもちろんタックルや関節技といった格闘技術だ。

9月24日、新木場1stリングで行なわれたのは、年に一度のグラップリング限定興行。グラップリングとは組み技のみ、つまり打撃なしの試合形式だから、余計に縛りはきつく、それだけ格闘技術の重要性も増してくる。プロレスリングの「レスリング」の部分によりスポットを当てた闘いだ。

「後ろに宙返りして相手にぶつかるのもプロレスなら、蛍光灯で殴るのもプロレス。なら、レスリングだけで、組み技だけで勝負するのだってプロレスですよ」

佐藤はそう語る。そんなハードヒットのスタイルに対しての「このスタイルで試合がしてみたい」という売り込み、あるいは佐藤からのオファーに「やってみたかったんです」と答える選手も少なくないのだという。

今回の大会にも、バラエティに富んだメンバーが揃った。MMAファイターの桜井隆多、KEI山宮はそれぞれ松永智充、丸山敦と対戦し、ギブアップ勝ち。普段コミック色の強い試合に出ることも多い松永や丸山がシンプルな技だけで闘うのは新鮮だ。敗れはしたが、松永はエアプレーンスピンまで見せた。確かにグラップリングルールでも反則ではないわけだ。

プロレスにおける職人的な技巧を持つことで知られるディック東郷も参戦。タッグマッチで得意のクリップラー・クロスフェイスを決めた。さらには女子マッチに普段はレフェリーをしている李日韓まで登場。グラップリングルールのプロレスという、佐藤曰く「ブッ飛んだ」スタイルへの出場者のやる気と好奇心と技術が、リング上に独特な熱気を生み出していた。

佐藤が対戦したのは、闘龍門出身、毒舌マイクでも知られる“brother”YASSHI。もともと高校時代はレスリング部で、学年が一つ上の佐藤とも練習していた可能性があるらしい。

試合は佐藤が肩固めで完勝。このスタイルではやはり力量に差があった。とはいえいつもとはまったく違う闘いに臨み、派手なコスチュームを脱ぎ捨てて黒のショートタイツのみ、シューズもなしで試合をしたYASSHIの心意気は誰もが感じたはずだ。その姿に、佐藤も黒のアンダータイツ一枚になって応えた。「新しくタイツ作ったのに出番10秒でしたよ」と苦笑していたが、心意気には心意気である。ハードヒットそのものが「今のプロレス界にもこんなスタイルがあったっていいだろう」という心意気でやっているようなものなのだ。

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(高橋&川村は高山Tシャツでリングに)

メインでは、パンクラス現役王者のロッキー川村と、パンクラス旗揚げメンバーである高橋“人喰い”義生がタッグを組み、将軍岡本&松本崇寿と対戦。高橋・川村組は試合中に重傷を負った高山善廣を支援するプロジェクト「TAKAYAMANIA」Tシャツを着用し、高山のテーマ曲で入場。

高橋は「相手(松本)が道着だったので滑らずに投げられると思った」というジャーマン・スープレックスからのレッグロックで勝利すると、再び高山Tシャツを着てマイクを握った。

「高山! おまえ前に言ったよな。また一緒にやりましょうよって。だからオレは(一度は引退したが)リングに戻ってきたんだよ。オレはいつまでもおまえのこと待ってるからな、このリングで」

高橋と高山は対戦したことがあり、また高山はハードヒットに参戦したことも。「U系」というルーツを共有し、高山は高橋にも佐藤にも川村にも特別な存在だと言える。

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(関友紀子に敗れたものの、李日韓レフェリーのサンボ着での参戦は新鮮な光景だった)

この日から、ハードヒットは“高山善廣にエールを送り続けるための舞台”としての意味も持つことになった。打撃ありの通常ルールで行われる次回大会は12月30日に開催。興行タイトルは「YES,WE ARE HARD HIT!!」で、1993年のパンクラス旗揚げ大会のオマージュだ。新たな意味を得たハードヒットの再旗揚げ。そんな大会になるのではないか。

文・橋本宗洋

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