9月23日、静岡県のエコパアリーナで行われた、Fリーグ第17節のフウガドールすみだvsペスカドーラ町田。上位を争う2チームによる重要な一戦で先制ゴールを決めたのは、この日がFリーグデビュー戦となるすみだの清水誠也だった。
前半5分、右サイドのライン際で日本代表キャプテンである滝田学と入れ替わると、左足を迷わずに振り抜いた。GKの肩口を抜いたボールは、ファーサイドに突き刺さった。
Fリーグ初出場で、初ゴール。こう書くと、まるでシンデレラストーリーのように思うかもしれない。だが、この初ゴールまでには華やかさとは無縁の“下積み時代”があった――。
すみだに入団したのは2013年4月のこと。高校生のころからフットサル専門チームのフットボウズでプレーしていた183センチの大型ピヴォは、翌年にFリーグ参戦を控えていたチームに高卒ルーキーとして加わる。同じタイミングで、チームにはもう一人の「清水」が加入している。2つ年下の弟、和也だった。
華々しいスタートを切ったのが、弟の和也だった。2014年、高校3年生でFリーグにデビューすると、3試合目で初ゴール。5試合目の名古屋オーシャンズ戦では3ゴールを叩き出す。高校生でありながら名古屋からハットトリックを達成する離れ業を演じた。
ここから和也はスター選手への階段を駆け上がっていく。2年目には32試合で19得点を挙げて、ベスト5にノミネートされるとともに新人賞を獲得。15年8月には日本代表に18歳で初選出された。それから1カ月後には練習試合ではあったが、日本代表として初ゴールも挙げた。
完全に主力選手となった和也は、2017シーズンからすみだで初となるプロ契約を結んだ。20歳の若さでありながら、すみだ、そして日本フットサルの未来を背負って立つ“希望の星”となっている。
一方の兄・誠也はここまで陽の当たらない道を歩いてきた。すみだに加入してからの主戦場は、下部組織のバッファローズ。Fリーグと違って、ほとんど観客のいない東京都リーグでプレーを続けてきた。
兄弟というのは、自分が意識せずとも、周りから比較される。どんどんステップアップしていく弟に対して、入団から4年が経ってもトップデビューを果たせない兄。「自分には才能がない」と諦めてしまってもおかしくはない。だが、誠也は腐らなかった。
長い時間を過ごしてきた和也も、「兄貴が弱音を吐いているのを聞いたことがない」と言う。誠也と和也のポジションはどちらも前線で攻撃の起点となるピヴォ。お互いの試合を見ては「こうしたらいいんじゃないか」と意見交換をしてきた。
地道に積み重ねてきた誠也にチャンスが巡ってきたのは、和也が日本代表としてトルクメニスタンでのアジアインドアゲームズに出場していた第17・18節。弟がいないことで巡ってきたチャンスを、誠也は見事にモノにしてみせた。
「和也とは違った意味で、フウガを象徴する選手」。すみだの須賀雄大監督は誠也をこのように表現する。「誠也の活躍を、自分と重ねている下部組織の選手はたくさんいるはず」。パフォーマンスはもちろん、苦しくても諦めずに努力し続ける人間性は、下部組織から這い上がろうとする選手たちのお手本といっていい。
和也がトルクメニスタンから戻ってきた今週のヴォスクオーレ仙台戦では、初めての“兄弟共演”が実現する可能性もある。「今まで苦労してきた分、一緒に点を取って分かち合いたい」。
須賀は冗談交じりに言う。「誠也には、ゴールを決めたあとはロボットダンスをしろと言ってるんです」。ロボットダンスは、“和製クラウチ”という誠也のキャッチフレーズの元になった、元イングランド代表FWピーター・クラウチのゴール後のパフォーマンスのこと。「初ゴールの時はうれしすぎたのか普通に喜んでしまったから、ロボットダンスをする余裕ができるぐらいに、たくさんゴールを決めてほしい」。
29日のアウェイ・仙台戦。果たして兄弟共演、そして誠也のロボットダンスは見られるのか。5年間の下積みを経て、大きなチャンスをつかんだ男にぜひ注目してほしい。
清水誠也＆和也の清水兄弟がプレーするフウガドールすみだは29日（金）の第19節でヴォスクオーレ仙台と対決。AbemaTV（アベマTV）のSPORTSチャンネルで19時15分から生中継される。
文・北健一郎（futsalEDGE編集長）
