「家入一真」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、2014年の都知事選での候補者としての姿かもしれない。インターネットを駆使した新しい選挙の戦い方で注目を集め、8万8936票を集めて結果5位と大健闘した。
1978年に熊本県に生まれ、福岡県で育った家入氏は、中学2年のときに不登校になり、高校を中退。2001年に設立した株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ株式会社)は、2008年にJASDAQに上場。当時、史上最年少だった。2011年にはクラウドファンディング事業を手掛ける株式会社CAMPFIREを設立、海外でブームの兆しを見せていたクラウドファンディングをいち早く日本に持ち込んだ。
家入氏がクラウドファンディング事業を手掛けることになったのは、自身の生い立ちが深く関係しているという。
「僕自身が引きこもりというのもあったし、家庭がすごく貧しくて、学校に行きたくても行けず、自分で新聞配達もした。お金が原因で学びたくても学べない子が、今後どんどん増えていくだろう。その時に、新しいお金集めの手段としてクラウドファンディングが有用なのではないかと考えた。銀行から借りるとか、投資家から出資してもらうというのが今までの主流だったが、これだけインターネットが普及したのだから第三の手段とがあってもいいんじゃないかと。たまたま東日本大震災と同時期に会社を立ち上げることになり、震災復興のためのプロジェクトもどんどん増えていった」。
クラウドファンディングには、この「金融機関に頼らない資金調達」のほか、「プロモーション」というメリットがあると話す。
「子どもの頃、日本中の人から1円ずつ集めたら億万長者になれると妄想したこともあると思うが、今はインターネットによって決して不可能なことではなくなった。みんなでひとつのプロジェクトを応援しているという熱量をSNS中心に集めていくことで、より注目を浴びる」。
年末に閉園を迎える福岡県の遊園地「スペースワールド」は、営業最終日となる大晦日に最後の花を咲かせるべく、CAMPFIREを利用し、かつて人気を誇った花火ショー復活のため支援を募っている。「一方的に我々がするというよりも、お客様と一緒に最後のイベントを作り上げる一体感が生まれるのではないか。告知効果が得られるというのが大きな魅力」(米本昌則・スペースワールドPR課長)。また、音楽グループ「Awesome City Club」もCAMPFIREのクラウドファンディングを利用してCDをリリースしている。クラウドファンディング業界には珍しく、リターンが返ってこなかった場合の保険を導入しているのも特徴だ。サービス利用の手数料を安くし、利用者に優しいサービスを目指す。
日経ビジネスの柳瀬博一・企画編集センタープロデューサーは「ビジネスのプロセスそのものに参加すること自体が楽しい。遠足は行くまでが楽しいのと一緒。お金を出すことがエンターテインメントになるというのは、新しい発明だと思う」と話す。
CAMPFIREでは従来のクラウドファンディングの枠を超えた新しいサービスもスタートさせている。「STARted」という新サービスでは、自分でアパレルブランドを立ち上げることが可能だ。作りたい服のイラストをアップロードするだけで、CAMPFIREが提携する工場でサンプルを作ってもらうことができる。実物のサンプルが必要な一方、個人が発注するのはコスト面からもハードルが高い。そこをSTARtedが解決してくれるのだ。担当者の中村和嵩氏は「サンプルを1着作り、それをクラウドファンディングに掲載して資金を集め、量産にまで回せる」と話す。
そして、CAMPFIREが提供するもうひとつのサービスが「融資」だ。「従来のファッションビジネスだと、新製品を作り、その在庫を販売していくのだが、資金的に厳しい」。融資を受けたアパレルブランド、株式会社オールユアーズの木村昌史氏はそう話す。同社ではCAMPFIREを通じて新製品を商品化、2回連続でプロジェクトを成功させた。その実績が評価され、100万円の融資を受けることになった。木村さんは「CAMPFIREのプロジェクトの達成額など、通常の銀行とは違う評価軸なので、申し込んでからすぐに決まって非常に助かった」と話す。銀行に融資を申し込んだ場合、審査に数か月かかることもあるが、わずか2週間と非常にスピーディーだった。
■「優しい人しか採用しない」
そんなCAMPFIREのオフィスを訪問すると、受付には家入氏の等身大パネルが。「家入がオフィスにいないことが多いので、ダミー用で作りました。『自分大好きみたいな会社嫌だ』と言ったので、家入が出社したら隠しています」(広報のたけべともこ氏)。フランクな社風を感じさせる。
ロビーには、クラウドファンディングが成功したプロジェクトの返礼品の数々がずらりと並んでいた。セクシーなデザインの水着は、もともとネット上で公開されていたイラストをクラウドファンディングによって商品化したもの。この少し個性的なデザインは、コスプレイヤーに大人気だそうだ。「イラストを見た時にグサッときて、これは可愛いなと。30万円が目標金額だったが、90万円以上集まって商品化された。実は男性が9割、女性が1割。ほとんど男性の方が支援した」(STARted事業部の中村和嵩氏)。妄想やアイデアを現実のものにできるのも、クラウドファンディングならでは。
広報のたけべ氏によると、会議室の入り口には「問い続けろ」「与え続けろ」「革命を起こせ」など、社員が守るべき10の指針が室名として書かれているという。「『人に優しくあろう』というのは、家入ならではだと思う。この会社に入る時に『あなた優しいですか』という質問を必ず聞かれる。家入は、この会社は優しい人しか採用しないと言っている」と話す。
これについて家入氏は「会社を作るという行為には、自分の居場所が欲しい、というある種のわがままもある。僕が行きたいと思うような会社を作り、仲間がどんどん増えて、やれることも増えていく。そこに優しくない人たちがたくさん来てしまうと、僕は多分逃げてしまうから」と説明する。
「優しい社会」をビジョンに掲げ、風通しの良い社風を大切にしている同社では、働き方も自由だ。フリースペースでは、クッションの上に寝そべりながら仕事をしている社員もいれば、ハンモックで仮眠をとっている社員もいるなど、それぞれが思い思いの過ごし方をしていた。やるべきことをやっていれば、どこで仕事をしても良いのだそうだ。「頑張って僕から話しかけないと誰も話しかけてくれない。でも、みんなが仲良く話しているのを傍から見ているくらいがすごく居心地がいい。ここで働いていて良かったっていう会社を作るのが僕の役割なので」(家入氏)
さらに、副業もOK。副業をしているという女性社員は「副業で"旅するおむすび屋さん"をしていて、各地でおむすび屋の出店をしたりワークショップをしたり。ただ副業をOKするだけでなく応援してくれている」と顔をほころばせる。
理想とする会社像について家入氏は「もし違う部署でも困っていたら手伝ってあげたり、ゆるく横で連携してみようという雰囲気が生まれたりしする組織。規則やルール、管理で縛り付けるよりは、信頼して任せられる会社でありたい」と話す。
「僕は優しいインターネットが好きなので。僕も引きこもり時代にネットに救われたことがあった。僕にとってのインターネットは聖域で、同じように弱さを抱えた人たちの居場所みたいなもイメージがある。お金を持っている人と、お金がなくて機会が与えられない、声があげられないという人たちの断絶がどんどん広がっているので、そこをインターネットやテクノロジーの力で繋いでいきたい」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)