「国難」として自民党が選挙公約の一番目に掲げたのが、安倍総理も会見で強調した「北朝鮮の脅威から国民を守る」だ。政府与党は安全保障情勢が一段と厳しさを増しているとして、安保法制成立の意義も強調してきた。
14日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した元大阪府知事で自民党の太田房江・参議院議員は「まずは圧力を強化する。経済的な制圧を含めて、人・物・カネ・技術が北朝鮮に行かないようにする。これを国際社会ができる限り結束してやっていくという事が一番。そして、二番目はやはり日米同盟。平和安全法制ができた後は、給油もできるし、何かあった時には邦人の保護もできる。そういうことも含めて日米同盟を強化し、その上でしっかりと北朝鮮からこの国を守り抜く」と説明する。
自民党と連立を組む公明党の山口代表は10日の街頭演説で「弾道ミサイルの発射、核実験を世界がもうやめなさいと言ってもやめない。その北朝鮮にさらに厳しく迫って、世界が手を携えてこの問題を解決していかなければならない。世界の皆さんと手をつなぐためにもこの自公の政権がしっかり基盤を固めて、国際経験豊かな安倍総理大臣に世界の皆さんと連携をしてこの問題を解決していただかなければならない」と訴えている。
また、日本のこころの中野代表は同じく10日の街頭演説で「ミサイル防御網をしっかりしよう」と敵基地攻撃能力の保持を主張。「現実に即応した外交・安全保障政策」を掲げている日本維新の会は、「集団的自衛権行使の要件を厳格化」すると主張する一方、先月30日の会見で維新の浅田政調会長は「私どもも集団的自衛権の行使は当然あるという立場に立っているが、存立危機事態という事を想定することによって、範囲が非常に広がってしまうのではないかと危惧している」とも発言している。
もともと民進党は安全保障法制は違憲だとして廃止を主張してきたが、希望の党合流組は一転、「安保法制をめぐる与野党の不毛な対立から脱却し、日本の厳しい安全保障環境に対しては党派を超えて取り組む。現在緊張の高まる北朝鮮への対応やミサイル防衛などを含め、現行の安全保障法制は憲法にのっとり適切に適用する」と公約にも謳う。
太田氏はそんな希望の党についても言及、「小池代表もこの点について否定された言葉は聞いていない。この点についての違いはほとんどないと思っている」とし、政府与党の方針に近いとの認識を示したが、小池代表は6日に「北朝鮮情勢がこのように厳しい中において、この総選挙をやっていること自体、私たちは本当にいまだにこの段階で総選挙はいかがなものかと思わざるを得ない」と述べるなど、一定の距離を置いている。
一方、希望の党合流組と袂を分かった民進党出身者たちが中心となって立ち上げた立憲民主党の福山幹事長は、7日の記者会見で「我々は主権を守り専守防衛を軸とする現実的な安全保障政策を推進していく」と述べ、安全保障法制の廃止を訴える。また、同党と選挙戦で共闘する共産党・社民党は、安保法制の廃止を強く求めてきた。10日の街頭演説で共産党の志位委員長は「米国は軍事的選択肢も含めて全ての選択肢がテーブルの上にあると言っている。米国が軍事的選択肢、すなわち先制的な軍事力行使に踏み出した時には米国の戦争に日本が自動的に参戦することになってしまう。憲法違反の安保法制、戦争法は北朝鮮問題との関わりでも一刻も早くきっぱり廃止するべきではないか」と述べたほか、社民党の吉田党首も5日、「憲法9条をもつ日本が北朝鮮の問題なども含めてしっかり平和的な対話を基本とした外交努力によって平和を構築していく」と主張している。
■憲法改正に前向きな政党間で項目を巡り温度差も
各党は、安倍総理が目指す憲法改正でも火花を散らす。今回の衆院選で自公両党の獲得議席数が310を超えれば、与党のみで衆議院で憲法改正案を発議できる3分の2に届く計算になる。自民党が公約で憲法改正を前面に押し出したこともあり、あらためて各党の憲法に対するスタンスに注目が集まっている。
自民党の岸田政調会長は2日「現在、党の憲法改正推進本部で議論されている緊急事態対応、自衛権の明記。党内外の十分な議論を踏まえ、憲法改正を目指すことを明記した」と述べ、憲法を改正し自衛隊を明記することなどを公約に盛り込んだ。
太田氏は「憲法学者のほとんどは自衛隊は違憲だと言っているが、国民の9割は自衛隊のこれまでの活動に感謝をしている。違憲かもしれないが何かあったら命をかけてくれというのはあまりに申し訳なく無責任だ。自衛隊を憲法に明記することによって、皆さんにこれまで通り活動していただく環境を作っていきたい」と解説。自民党改憲案、そして5月に安倍総理が提案した1項、2項を残し、3項を追加し自衛隊を明記する案も含め、これから党内、国民的議論を進めていくとした。
自民党の姿勢に対し、公明党はマニフェストの中で「意図は理解できないわけではないが、多くの国民は自衛隊の活動を支持し、憲法違反の存在とは考えていない。多くの政党と合憲形成が図れるよう努めるべきだ」と主張している。山口代表は5日、「国会での憲法審査会の議論がまだ十分深まっていないので、これを深めていくことが大切だ。特に自民党は憲法改正を党是としてきた政党なので、その項目を挙げたということは自民党の主張なのだろうと思う。大事ことは、憲法審査会でそういう議論が衆参同時に深めていくことだ。そして国民の理解を伴っていく。そういう努力が国会に求められている」と、性急な9条改正には慎重な姿勢を示している。
希望の党は9条を含む憲法改正論議に前向きだ。小池代表は6日の記者会見で「憲法そのものを真正面からとらえて議論をしていこうという希望の党の存在というのが、これから憲法改正に向けた大きなうねりを作る。そのような役目を果たしていくのではないか」と述べている。安倍総理が提唱する改憲案に対しては「自衛隊はこれまで合憲とされてきた。そういった中でさらに3項を加えるという事についての問題点。ある意味"屋上屋"にならないか」として、自衛権の位置づけについては国民の理解が得られるか見極めて判断するとしている。
元神奈川県知事で希望の党立ち上げメンバーの松沢成文・参議院議員は番組で「憲法は不磨の大典ではない。時代の変化に合わせて、足りないところ、あるいは余分なところ、これを国会で議論して、国民投票にかけて変えていくなり、付け加えていくということはあっていいこと。むしろ、積極的にやっていくのが政治家の役割だと思っている。その中で、我々の党は憲法の議論が9条に特化し過ぎていると思っている。他にも不備がある。時代に合わなくなっている」と指摘。「森友問題でも行政が情報を隠した。憲法に情報公開をしっかりと位置付けて、国民の知る権利と同時にプライバシー保護の権利もきちんと位置付ける。うちの党としては、憲法改正の最優先課題だ。もう1つあるとすれば、地方分権もきちんと位置付ける」と訴えた。
日本維新の会も「身近で切実なテーマについて改正案を発議する」という立場で(1)教育無償化(2)統治機構改革(3)憲法裁判所の設置の憲法改正原案を取りまとめている。松井代表は8日に行われた日本記者クラブでの党首討論で「安倍政権の間に憲法改正議論をしないというのは、あまりにも幼稚だ。では誰の時なら憲法改正議論をするというのか」と、改憲の議論に反対する野党を牽制している。
安倍政権との対決姿勢を見せる立憲民主党は、衆議院解散権の制約など一定の改憲議論に応じるスタンスだ。枝野代表は同じ日本記者クラブの党首討論で「違憲の安保法制を追認するような憲法改正には賛成できない。それは、その違憲の部分というのは専守防衛を超えている」と主張している。番組に出演した同党の福山幹事長は「私は自衛隊は合憲だと思っている。その合憲の自衛隊に、違憲の安保法制の任務が付与されたら、専守防衛だった日本の憲法・自衛権の位置づけが危うくなると考えている。3項に明記する案も、非常に筋が悪い」との見方を示した。
共産党・社民党は従来の護憲の立場を堅持している。10日の街頭演説で志位委員長は「安倍総理は9条1、2項を残しつつ、別の項目で自衛隊を書き込むのだと言っている。これでは2項が空文化・死文化してしまう。そうなると、無制限の海外での武力行使が可能になってしまう」として断固阻止すべきだと力説。吉田党首も10日「憲法9条を変えさせない、その民意をしっかり広げていき、改憲を阻止して9条を活かす戦いをしていく」べきだと語った。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)