アブドゥラ・サイードは、ネパールのカトマンズをたずねた。ヒマラヤ山脈のアンナプルナ山群に向かい、そこでネパールの山岳民族・グルン族に出会った。彼らは年に2回崖に登り蜂蜜を採取する。世界最古の方法である。
蜂蜜採りは危険な仕事だ。強く、勇敢で健康なものにしか断崖は登れない。目の前の断崖にもみんな平然としている。「この時期の蜂蜜は栄養が豊富だが、陶酔作用もあるから、摂りすぎてはいけない。たとえ数滴でも人を酔わせる」という。
春に採れる蜂蜜は、シャクナゲの花粉が豊富で幻覚作用がある。アブドゥラは「具体的な作用や用途は不明だが、グルン族の蜂蜜採りに参加して実際に試してみたい」という。
(ネパールのカトマンズを訪れたアブドゥラ・サイード氏)
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【10月20日(金)夜11時放送】
▶︎【金曜夜11時はVICE】幻覚を誘うネパールの蜂蜜 他
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「マッドハニー」と呼ばれる蜂蜜は、シャクナゲが持つ中毒物質を豊富に含む天然の蜂蜜だ。マッドハニーの作用は、催淫薬、万能薬、猛毒、幻覚剤までさまざまな説がある。
アブドゥラはマッドハニーとグルン族の関係を知るため、山岳地帯を進み、タロ・チプラ村へと向かった。山岳地帯は絶景で、数キロ先まで見わたすことができる。舗装道路が終わり、村まで3時間歩く。
村人たちはトレッキング装備もなく、ゴム草履に半袖のボタンダウンシャツで地下鉄に乗るような格好で山を登っていく。
グルン族の村に到着すると、村人たちによる歓迎パーティーが始まった。グルン族は何世紀もこの山で暮らしてきた。蜂蜜採りなどの伝統は今も大切に継承されている。パーティーでは村の首長も同席し、村の流儀でもてなされた。ロキシーという雑穀から作った蒸留酒を、客人に敬意を表し三口飲む。
辺境な村とはいえ、「みんな携帯電話も持っているし写真も撮るしFacebookもやってる」と村を訪れたアブドゥラはいう。首長は「この村の先祖は自分たちで食べるために蜂蜜採取していた。彼らが続けてきた習慣を途中でやめたくない。蜂蜜は薬としても使える。だから危険でも続けてきた」と語る。
この時期に採れる蜂蜜は栄養も豊富だが、陶酔作用も含まれており、摂取すると血管が収縮したように感じるため、摂りすぎてはいけない。首長は「1回につきスプーン半分までが限度」という。蜂蜜採りはグルン族だからといって必ずしも向いているわけではない。強く、勇敢で健康なものにしか断崖を登ることはできない。グルン族にとって蜂蜜は自然からの恵みである。
翌日、山頂に着くとすでに蜂が飛び回っている。全員簡易式の防虫ネットを被っている。どこもかしこも蜂だらけで、カメラマンは蜂に刺された。
村の長老ヨコ・グルンは「蜂蜜をスプーン1杯お茶にいれて1日2回飲むことで健康が維持できる」という。長老は「蜂蜜を食べるのは健康のためだ。快楽のためじゃない」と話す。
村人たちが崖から降ろす“はしご”は、割いた竹で編んだ2本の極太の縄で作っている。そして両端を矢じり状に彫った横木をそこに挿し込み、横木を全て挿し込み終わると断崖から垂らす。そして葉を切り落とし、崖の上と麓で燃やすことで蜂たちを燻り(くすぶり)出す。山頂にいる人たちは蜂に刺されて、大半の人の手が異様に腫れている。村人たちが蜂蜜という共通の目的に向かって各自が決められた役割を担っていく。
AbemaTV(アベマTV)のDocumentaryチャンネルでは、10月20日(金)夜11時から『VICE』を放送。村に来たアブドゥラは蜂蜜にたどり着くのか。10年間山岳で蜂蜜ハンターをしている隊長のアシュダン・グルンの話、若手ハンターへの受け継ぎなど、グルン族の暮らしが明らかになっていく。ぜひお見逃しなく。
(AbemaTV/Documentaryチャンネル『幻覚を誘うネパールの蜂蜜』より)
原題:The Nepalese Honey That Makes People Hallucinate(2016)
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