■「39号室」の資金を使って側近への贈り物も
「ホワイトハウスは口先だけではない。今の制裁はかつてない厳しいものだ。この制裁下で北朝鮮は1年もつか2年もつか分からない。たくさんの人々が亡くなるだろう」。
ニューヨークで16日、金正恩委員長の"金庫番"と呼ばれた人物が、北朝鮮の懐事情について言及した。彼は「39号室」元幹部で、2014年に脱北した李正浩氏。
李氏は「国内で外貨稼ぎができるサービス機関、食堂とか商店とかホテルなどで外貨を稼ぐ。または、海外貿易で外貨が稼げる資源輸出や金加工など、さまざまな方法で外貨を稼いでいる」と、厳しい経済制裁下での外貨獲得の実態を明かした。16日付のニューヨーク・タイムズは北朝鮮がサイバー攻撃で年間1000億円規模の収入を得ている可能性があると報じており、6000人のハッカー集団を抱えているとの見方もある。
ニューヨークで会見をした李氏、そして、彼が所属していた『朝鮮労働党39号室』とはどんな組織なのだろうか。
共同通信の元平壌支局長である磐村和哉氏は「39号室」について「公表される国家経済とは全く別の"宮廷経済"とも言われる最高指導者だけが使える資金を担当する部署で、1974年頃にできたと言われている。この資金を使って、側近たちにご褒美として車を贈ったり腕時計を贈ったりしてきた。また『室』という言葉から部屋のような小規模なイメージを持たれがちだが、実際には金や宝石類、石炭などの貿易、観光など、あらゆる分野で外貨獲得を行ない、体制維持に役立ってきた。ただ、トランプ政権になってからは関係会社が制裁の対象になってしまってい、海外にある資産も凍結に近い形になっている」と話す。
その39号室で海外の責任者として中国に長く滞在してきた李正浩氏は、一度韓国に亡命するも、情報機関と反りが合わず、アメリカに行ったとされているのだという。その李氏がこのタイミングで会見を開いた意図について磐村氏は「おそらく李さんは北朝鮮の国家経済の"底の浅さ"みたいなものを体感しているので、これだけ経済封鎖に近い形で締め上げられているところを懸念しているのだろう。本人は脱北しているが、おそらく家族や親族は北朝鮮に残っているので、その懸念もあるのではないか」と推察した。
■競馬解禁は、ヨーロッパの王室文化へのあこがれ？
国連安保理による経済制裁を受ける中、北朝鮮が競馬を解禁した。朝鮮中央テレビは15日、平壌付近の乗馬クラブでレースを開催し、多くの市民が観戦に集まったと報道した。ロイター通信は新たな資金源確保のため、競馬を認可したとの見方を示しており、韓国にある北朝鮮産業経済研究所のナ・ジョンウォン所長は「外貨を稼ぐための手段。あるいは国内富裕層から資本を引き出して経済に活用するための手段」とコメントしている。
この報道について磐村氏は「金正恩体制になってから、レジャー関係の裾野を広げようとしている。若い頃スイスに留学していた経験がある金正恩委員長は、ヨーロッパの王室文化に親近感を持っているのではないかと思う。金委員長が芝生を植え、公園を作ることを全国に呼びかけているのも、そうした憧れがあるからではないか」と推測。「富裕層の財布を狙っているというよりは、乗馬というジャンルを確立して、振興しようという意図が強いのでは。競馬といっても今回は40人程が参加した程度で、直ちに核・ミサイル開発の資金になるわけではない」との見方を示した。
「金正恩体制になって、やや規制緩和的な動きが出てきている。国内旅行という商品も出てきた。国内消費を刺激して、外貨を持っている人たちに財布に溜め込ませずに使わせる、それで国の経済を回していくことをやろうとしている。そういう意味では社会主義経済というよりも資本主義経済に近い形だ」（磐村氏）
（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
▶『AbemaPrime』は月～金、21時から放送中！
