衆院選の投開票が近づき、インターネット上には政党、候補者に関する様々な情報が溢れている。そこで懸念されるのは、アメリカ大統領選では有権者の投票行動にも影響を及ぼしたとされる「フェイクニュース」だ。18日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、今回の選挙について情報の検証を行っている「BuzzFeed Japan」の古田大輔編集長を招き、フェイクニュースの判定基準、その拡散の防ぎ方について議論した。
古田氏は議論の前提として「フェイクニュースは非常に複雑なもので、単にメディアが流す"ニュース"の話だけではないと言われている」と指摘する。つまり、個人がSNSで発信した情報が拡散される時代、FacebookやGoogleはメディアなのかどうかという議論もあり、それらの情報についても内容を精査・判断し、対応することを考えなければならない難しさがあるというのだ。
BuzzFeed Japanでは、「ファースト・ドラフト・ニュース(First Draft News)」という米団体の研究者が示した7つの分類を古田氏が以下の6分類に整理したものを用いて検証を行っているという。
1.誤情報:誤りがある
2.偽情報:そもそも存在しない
3.不正確な情報:誤りとまでは言えないが正確でない
4.ミスリーディングな情報:見出しや表現で誤解を生じさせかねない
5.根拠のない情報:事実と証明する根拠なし
6.風刺や冗談:存在しないか大幅に脚色
古田氏は、トランプ大統領が自分と主張の違うCNNや米BuzzFeedを「フェイクニュース」と呼ぶことや、6項目に当てはまったからといってフェイクニュースだ断定してしまうことにも問題があると指摘する。
「6番をフェイクニュースと言っていいのか。例えば『虚構新聞』など、悪意はなく、時事問題を笑い飛ばそうという風刺それ自体には問題がない。ただ、それを本物のニュースだと信じてツイートしてしまう人も出が出てきて拡散し、フェイクニュースにつながっていってしまうことが問題だ」(古田氏)。
■判定の難しいフェイクニュース
番組では古田氏に6分類に基づき、いくつかの情報について判定を行ってもらった。
まず、新潟4区の候補者間で起きた問題だ。金子恵美候補(自民党)が自身のFacebookに以下のような書き込みを行った。
「地元で応援してくださっていた方から連絡がありました。私の相手候補の後援会役員より電話があり『金子を応援するのであれば、明日から今の取引(驚くほど高額)を止める』と言われたそうです。また、事前運動をしているそうでその言い方として『金子は比例復活ができるけれども、(相手候補の実名)は無所属では復活ができない。だから今回は(相手候補の実名)に一票を入れてください』とはっきりと投票依頼をしているそうです。(選挙違反ですよね…)」
明らかに相手陣営を意識したとみられるこの投稿に対し、菊田真紀子候補(無所属)は「現在、私に対するデマが金子めぐみ候補予定者本人のFacebookにより流されております。これは完全にデマでありますので、公職選挙法第235条第2項違反に当たる事項として、警察に通報いたしました」とすぐさま反論。一方、金子氏陣営に確認したところ、「個人のSNS上のこと」と言及を控えている。
古田氏はこの事例について「発信元は金子さんのFacebookだということがはっきりしているが、書き込んだ情報は伝聞に基づくもので、真実かどうかも分かっていない状況。この段階では分類することも難しく、フェイクニュースだと断定するのは尚早」との見方を示す。
■まとめサイトによって拡散される「根拠がない情報」
まとめサイトの「アノニマスポスト」などによって拡散された、「立憲民主党のTwitterアカウントは買われたものだ」という情報はどうなのだろうか。立憲民主党のアカウントのフォロワー数が開設直後が伸びているが、分析ツールで確認すると、多くの休眠状態のフォロワーが存在しており、これらを運営者が買ったのではないかというのが、同サイトなどの主張だ。
これについてBuzzFeed Japanが複数の分析ツールを使用して検証したところ、立憲民主党に限らず、色々なアカウントにおいて、同様のアカウントがいることがわかったという。また、日本ではフォローはするがツイートはしない"不活性"アカウントが多い傾向にあるため、そのようなフォロワーが多いという理由だけで「立憲民主党がフォロワーを購入している」とは論理的に言えないと古田氏は指摘。「5番の"根拠がない情報"だと判定でき、憶測だけで"立憲民主党が購入した"と断定的に流したサイトはフェイクニュースに当たる。ただ、支援者や反対陣営など、第三者がフォロワーを購入することもでき、それについて検証することが難しく、"フォロワーが買われた"ということまでは否定できず、1番の"誤情報"だとは言い切れない」とした。
また、同じくまとめサイト「もえるあじあ」などが発信した、「立憲民主党から立候補している辻元清美氏が、民進党分裂の時に実は希望に公認申請をしていたが、認められず立憲民主党に行った」という情報についても、古田氏は5の"根拠がない情報"と話す。「共同通信がそう報じていると主張しているが、共同通信はそんなニュースは流しておらず、根拠がない。僕が辻元さんにインタビューをした際、前原さんとは仲が良いが、希望の党には行けないと話していたので、2の"偽情報"といっても言いと思う。ただ、確実な事実かどうかは確認できない。あくまでも裏の取れた情報だけを流すという観点からは、5の"根拠がない情報"だ」。
■大手メディアも流してしまう「不正確な情報」
フェイクニュースになる可能性を孕んでいるのは、ネット上の情報に限らない。時には大手メディアも、その発信源になってしまう可能性がある。
例えば、小池都知事が「最初から出馬しないと言っている」と述べたと読売新聞などが報じたケースについて、BuzzFeed Japanでは3の"不正確な情報"だと認定したという。
「最初の頃から、小池都知事は少なくとも"出馬しない"とは言っていない。例えば『いろいろな想定外、想定内があると思いますが、都にとって、国にとって何が良いのか、最善の方法を考えていきたい』などと発言していた。この発言をもって、各メディアは出馬の可能性を打ち出していた。つまり、フェイクニュースというよりも、小池氏の『最初から出馬しないと言っている』という不正確な発言自体についてファクトチェックをすべきものだ」。
また、毎日新聞が社説の中で"自民党公約から「女性活躍」という文言が消えた"と主張していた問題について古田氏は「どういう意図で書いたのかは分からないが、『政策バンク』という自民党の公約集には確かに女性活躍についての項目あるので、消えたと表現するのは3の"不正確な情報"に当たる。その上で「安倍総理の会見では言及がなかった、メインの公約には無かった、ということを指していたのだとしたら、1の"誤った情報"とまでは言えないかもしれないし、とても難しい問題だが、フェイクニュースだと言われても仕方がないような気もする。もちろん批評はしていいし、『女性活躍の文言の割合が減っている。これはどうなのか』と書けば良い」。
■日本では未成熟な検証体制
今後、フェイクニュース対策について、どうしていけば良いのだろうか。
古田氏は一般のユーザーができる対策について「"こういう噂を聞いた"という書き込むのは止めることはできない。だが、それが真実であるかのように書き込んでしまえば、色々な人に迷惑がかけるのでやめたほうがいい。ぜひメディアリテラシーを身につけて欲しい」とした上で、「例えばドイツは国として対策を始めていて、ソーシャルメディア上に嘘の情報があるとの通報を受け、すぐに下ろさなかった場合に最大で65億円の罰金を課すという法律を作った。このように国として報道規制をかけるというやり方もあるが、政府が規制することに対して、言論の自由が狭まるのではないかという意見もある。対策は非常に難しい」と話す。
元NHKアナウンサーで8bitnews主宰の堀潤氏は、「松本サリン事件でも一般の方があたかも犯人であるかのように仕立て上げられて報じられてしまった。本人が"いくら違う"と主張しても、その声は届かなかった。立証したり会見を開いて反論したりできない一般人のためにも、ネットメディアが早いスピードで検証する役割が求められている。例えば日本報道検証機構という団体が運営するGoHooというサイトがマスコミの誤報を検証していて役に立つ」とコメント。
これを受け古田氏は「世界的には新聞やテレビもこうした活動に参加するのは当然だと見られていて、(先述の)ファースト・ドラフト・ニュースは世界中のメディアや団体とパートナーシップを結んで活動している。日本では今のところ日本報道検証機構などが立ち上げた『ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)』という団体しかなく、BuzzFeed Japanも協力してファクトチェックを行っているが、日本ではまだメジャーな新聞やテレビ局はパートナー関係にない。そこが日本の懸念点だと思う」と指摘した。
議論を受け、番組キャスターの小松靖アナは「今までは我々マスメディアがファクトチェックをする立場にあったが、ネットが出てきて、テレビや新聞こそがフェイクだと言われるようにもなった。検証することは大事だが、メディアが他のメディアに対してフェイクかどうかの裁定を下すということは、情報の世界における"為政者"になってしまう可能性があるので、非常に謙虚にならなければならないと思う。団体も叡智を集めて、悪い意味で権力を持ってしまうことに対して懐疑的な思いで臨まなければ、怖いことになると感じた」と締めくくった。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)