日本最高峰のフットサルリーグで、試合を生放送していたAbemaTVのコメント欄が「フラペチーノ」というワードで埋め尽くされた試合があった。第18節、バルドラール浦安と府中アスレティックFCの一戦。そのコメント欄の主役は、府中のエース・渡邉知晃という、世界中の人々の心をつかむコーヒー飲料「フラペチーノ」をこよなく愛する男だ。
選手を紹介するテロップに「スタバの新作フラペチーノは必ずチェック」と記された渡邉は今シーズン、得点ランキングのトップを独走する活躍を見せていた。この試合でもそのプレーが際立ち、視聴していたユーザーは度々、「フラペチーノ渡邉」というコメントをアップ。実況の原大悟と解説の北原亘も、折りに触れてそのコメントを拾っていた。
そして、最大の見せ場がやってくる。府中が1点リードで迎えた後半の立ち上がり、渡邉が豪快なボレーシュートで追加点を決めると、コメント欄には「フラペチーノ！！！」といったワードが次々と踊った。試合は浦安が2点差を追いついて引き分けたが、試合後も多くの人が、“フラペチーノ・ボレー”の余韻に浸った。
この試合は、AbemaTVのFリーグ配信史上、最多のコメント数を記録したという。「いろんな人に言われたし、母親まで『フラペチーノって何？』って（笑）」。真剣勝負のなかで生まれたコミカルなネタが、フットサル界を飛び出す話題となったのだ。
その名は知れ渡ったが、そうなると今度は、彼自身への興味が出てくる。「フラペチーノが好きな点取り屋」ということは分かった。でも渡邉とは実際、どんな選手なのか。
現在の彼をひと言でいうなら、「簡単にゴールを奪う選手」だ。
今シーズン、ここまでの21試合で積み重ねたゴールは「31」。1試合平均、約1.5点という脅威的な得点力を見せている。そして放ったシュートは166本。シュート決定率18.6パーセント、つまり約5本に1本のシュートがゴールネットを揺らしている計算になる。
得点がない試合もわずかに2試合。しかも第11節から11試合連続得点を記録中。これは、Fリーグ11年間で歴代最多タイ記録だ。そして、シュライカー大阪のヴィニシウスが持つ48点という、シーズン最多得点記録をも更新する勢いでゴールを量産しているのだ。
渡邉は、2009年にFリーグの舞台に立ってから、名古屋オーシャンズを含む3クラブを渡り、ピヴォと呼ばれる前線のポジションでゴールを奪い続けてきた。ただし、キャリアハイは4シーズン前の18点。今シーズンはなぜ、ハイペースで決められているのだろうか。
「ベテランと呼ばれる年齢になって、今年から、パーソナルトレーナーと組んでトレーニングを始めた。それに食生活を改善するために、栄養士にも協力してもらっている」
今年で31歳を迎えた渡邉は、肉体改造に取り組んだ。もともとフィジカルには自信がある。狙いは、コンディションの維持とプレーの効率化だ。「体幹を強化してバランスを安定させることと、動きをよりスムースにするためのトレーニングをしている」。ピヴォは、マークしてくる相手の裏を取ってフリーになることや、前線でボールをキープすること、どんな状態からでもゴールに向かっていけることが求められるポジション。コンディションが安定し、体幹がブレにくくなったことで、渡邉のプレーのキレは増した。
もう一つは、味方との連係にある。渡邉は3シーズン前に府中に加わったが、過去2年間は、海外挑戦やアジアのクラブチームへの助っ人移籍などで、フルシーズンを戦ってこれなかった。ただ今シーズンは、シーズン前からフル稼働できている。「自分の動きの手応えと、味方からのアシストの両方がうまくいっている」。味方とゴールまでのイメージを明確に共有できるようになったことは、ゴール量産を大きく助けているのだ。
相手を出し抜く駆け引き、正確なボールコントロール、ボレーの精度、それらを実現するボディバランス。決して、簡単にできることではない。でも渡邉は、見る者が「簡単に決めている」と感じるほど、あっけなくゴールを決めてしまう。「自分ひとりでドリブル突破から決めたり、反転シュートを決めたりするのではなく、シンプルにゴール前で合わせることを意識している」。味方からのパスを、点で合わせる。それは紛れもなく、あらゆる能力が高次元で結集したからこそ発揮できる、“簡単に決めるという離れ業”なのだ。
「フラペチーノ」と掛けて、「渡邉知晃」と解く。その心は？
どちらも多くの人々を、魅了する――。
“フラペチーノ渡邉”を擁する府中アスレティックFCは21日の第22節、首位・名古屋オーシャンズと対決。その模様はAbemaTV（アベマTV）のSPORTSチャンネルで18時15分から生中継される。
文・本田好伸（futsalEDGE）
