明後日の衆議院議員選挙と同時に実施される「最高裁判所裁判官国民審査」。選挙制度を所管する総務省としても、国民主権の観点から重要な意義を持つものだとしているが、残念なことに認知度は非常に低いのが現状だ。

 街で聞いてみると、若い世代からは「分からない。初耳」(20代フリーター)「授業でやった。中学、高校でやった思い出はある」10代・20代学生)といった声が聞かれた、何度か国政選挙を経験している世代からも「選挙と同時にやるので、選挙を主体に考える多くの国民は意識することはないと思う」(70代男性」と、制度自体に疑問を抱いている人も少なくないようだ。

 19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この最高裁裁判官の国民審査について考えた。

目次

  • ■そもそも、最高裁判所裁判官ってどんな人たち?
  • ■最高裁裁判官の経験者「生活ががらっと変わった」
  • ■投票用紙にわかりにくさも

■そもそも、最高裁判所裁判官ってどんな人たち?

 これまで最高裁は時代を映し出す判断を示してきた。最近では米軍普天間基地の辺野古移設工事をめぐり、埋め立て承認を取り消した翁長知事と国が争った例がある。最高裁は去年、国の主張を認める判断を示し、反対派が見守る中、工事が再開した。

 また、"女性は離婚から6か月間は再婚ができない"という民法の規定が、"法の下の平等"を定めた憲法に違反しているとして女性が国に損害賠償を求めた裁判では、最高裁は女性の主張を認め、民法の規定を違憲と判断。これにより、再婚禁止の期間を100日に短縮する改正法が成立した。

 今年3月には、令状なしにGPSを用いた捜査をすることについて「重大な違法性はない」とした地裁・高裁の判決を覆し、「プライバシーを侵害し、令状が必要な強制捜査にあたる」と判断。最高裁が事件捜査を巡り、具体的な法整備を迫るのは極めて異例のことだ。

 ジャーナリストの江川紹子氏は「基本的に最高裁はものすごく保守的で変化を望まないが、世論や社会の状況によって"これはちょっと動かさないとまずいよね"ということが判断の対象にもなってくる。最高裁の判断が示されれば、下級審もそれに従う。そして、制度や法律としても是正してもらわないと、という議論に入ってくる。最高裁の判決というのは、それくらい権限が強いもの」と説明する。

 2016年度現在で、2755名いる裁判官。その中でも、最高裁裁判官はわずか15人だ。「識見の高い、法律の素養がある40歳以上」を内閣が選ぶことになっており、現在の内訳は裁判官出身の6人以外に検察官出身2人、弁護士出身3人、行政官出身2人、学者出身2人という構成だ。裁判所行政に詳しい明治大学政治経済学部の西川伸一教授によると「最高裁が裁判官や弁護士、検事などの候補者を内閣に推薦し、内閣がそれを尊重して任命するということなので、司法の独立は担保されている」という考え方にもとづいている。

 一方、江川氏は「根拠はないが、なるべく色々な角度から判断すべきということで、このような構成になっている。ただ最近の人事では、弁護士出身の裁判官の公認候補リストを弁護士会が提出したものの、大学を辞めて弁護士登録をしたばかりの人が任命された。弁護士枠が減るという異例のことだったので業界では波紋を呼んだ。安倍政権になってからは、以前よりも人事に内閣の意思が働いている印象がある」と話す。

 憲法76条3項には「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」とあり、裁判官の独立が保障されている。江川氏は「米軍基地の敷地に入り込んだ人が罪に問われた「砂川事件」の裁判で、一審では日米安保条約や日米地位協定そのものが違憲だということになったが、最高裁の裁判長が審理の途中でアメリカ大使館に呼び出され、話し合いをしていたことが近年明らかになった。司法の独立がゆらいだことがあった。例えば行政を訴えた時に行政の方からプレッシャーをかけて、行政側が勝つようにしてくれ、というようなことをしてはいけない」と警鐘を鳴らした。

■最高裁裁判官の経験者「生活ががらっと変わった」

 そんな最高裁裁判官を昨年まで務めていた人物の話を聞くことができた。山浦善樹氏(71)は、約30年間弁護士を続けた後、2012年に最高裁裁判官に任命された。

 「他の裁判官には有名な先生方もたくさんいた。そんな中でサラリーマンとして就職したもののすぐに辞めちゃった私のような人が、出直して勉強して、コツコツやっていたらこんなことがあるのかと思った。生活はがらっと変わった。送り迎えは黒塗りの車が来る。しかもターゲットになる可能性があるので、同じルートでは行かない。そんな生活をしていると"俺ってすごいんだな、すごく大事にしてもらっているんだな"と思うようになる。自分が偉くなった気分になる。それをちらっと女房に言ったら、パシッと言われた。"あんた、何を勘違いしているの。一番大事なものを見失ってはダメ"と言われた瞬間に、ああそうかと思った」。

 国民審査の対象は前回の衆議院議員選挙・国民審査以降に任命された裁判官だ。山浦氏も任命された年に行われた衆院選で、その対象となった。

 「最高裁裁判官に上司はいないが、国民が上司にあたる。しかし私は一度も国民の皆さんに挨拶をしていない。記者会見の時にちょっと喋るだけ。まずいなと思っていたので、国民審査は上司に対する挨拶、自己紹介だと考えて、ワクワクした」。

 山浦氏は国民審査が抱える問題について「(裁判官についての情報が)伝わらないかもしれないというのは現実だ。しかし完璧な情報を提供すれば優秀な裁判官とダメな裁判官が判断できるかというと、それは無理だと思う。制度に限界があるのが当然のこととして考え、その中で、どういう工夫をするのかが現場で働く者の知恵だと思う」と話した。

 江川氏は「山浦さんのように、国民審査にワクワクするという人は、かなりの変わり種だと思う」と苦笑する。「もしみんながそうだとしたら、自分の仕事を積極的に発信しようとするが、裁判官たちは全く逆。情報も公開されていないわけではないが、私たちが入手するのは大変なことだ」と指摘する。

 今回の国民審査で対象となる裁判官は、小池裕氏、戸倉三郎氏、山口厚氏、菅野博之氏、大谷直人氏、木澤克之氏、林景一氏の7人だ。例えば、戸倉三郎氏の趣味は鉄道、旧国鉄時代の車両や列車に関心があるといい、こうした情報は戸別に配布される「審査広報」や最高裁裁判所のホームページでも知ることができる。

 「もっと分かりやすく伝える工夫は必要だと思う。政治家は投票してもらえるように一生懸命に伝えるが、最高裁の裁判官は自分のことを知ってもらいたいという動機が乏しい。最近は新聞やネットのメディアでも情報を伝えるようになってきているが、とても分かりにくい」(江川氏)。

■投票用紙にわかりにくさも

 国民審査は、その職責にふさわしい者かどうかを審査する「解職」の制度だ。総務省によると「×」が記載された票が、何も記載されていない票の票数を超えた場合、その裁判官は罷免される。(ただし、投票総数が選挙人名簿登録者数の100分の1に達しないときは、この限りではない)。

 西川氏によると、これまで実際に罷免された人は今まで一人もおらず、1972年の国民審査の下田武三氏が過去最高(15.17%)で、それも労働組合が負けるような判断を出していたため社会党や総評などが運動をした結果なのだという。「投票用紙の並び順はくじ引きで決められ、最初の人が×を着けられやすい効果もある。国民審査法を変えれば審査も可能だ」。

 審査を経験した有権者からは「バツを付けたことはない。新聞などを見て、この人だったのか、と確認をしたことはある」(50代主婦)、「バツをつけたことがある。見解が違うから。新聞紙上で読みながらやっている」(70代自営業)、「バツは付けにくい。方法は見直した方がいいのかと思う」(20代教員)と情報不足や、方法についての不満の声も上がる。

 江川氏は「辞めさせなくてよいと思う場合は何も記入しないことになるので、続けさせてよいと思うから空欄にしたものと、よくわからず、判断ができないから空欄にしたものが同じだとみなされてしまう」と指摘。「投票所によっては、"わからなかったらそのまま入れてください"とか、"どうしてもやめさせたいという人だけに×をつけてください"などと、かなり誘導的な発言をしてしまう自治体職員もいる。国民審査は生活にも影響してくる重要なものなので、白紙委任みたいなことはやめた方がいい」と警鐘を鳴らし、メディアが国民審査の情報や最高裁の判例などをしっかり扱うことが重要だと訴えた。(『AbemaPrime』より)

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