全国屈指の学生街として知られる東京・高田馬場で、ある店が1周年を迎えた。
「バインミーシンチャオ」は、ベトナムのサンドウィッチ「バインミー」の専門店。「世界で最も美味しい屋台料理10選」にも選出されたベトナムの国民食バインミーを提供している。客の大半はベトナムからの留学生で、社長のブイ・タン・ユイさんは「これからもベトナム人留学生は増えていくと思うのでこの店を出しました」と出店の経緯を語る。
今、急増しているのがベトナム人留学生の数。彼らは人手不足に悩む国内企業の救世主になっている。
日本在住のベトナム人向け求人サイト「Link-Line」には、これまで日本企業800社が求人を掲載している。サイトを運営するasegoniaのゼネラルマネージャー・波田野倫子氏は、日本企業がベトナム人を採用する理由を「評判は『非常にまじめ』。性格的なところも日本人と非常に親和性が高いので企業側が受け入れやすい」と分析する。
コンビニ大手のローソンは、来日前の留学生に現地研修を行い即戦力を育成。外食チェーン店を展開するテンアライドは、日本語学校と提携してベトナム人の従業員を積極採用し、ベトナム人アルバイトの数は3年間で50人弱から500人超と10倍になっている。
テンアライド・取締役部長の芳澤聡氏は、「それぞれのお店にいるベトナム人の方が友達を紹介したいということで、友達の友達の友達みたいな感じでどんどん広がってすごく助かっています」と話した。
■「時間がもったいない。もっともっと働きたい」
専門学校に通うグエン・ティ・トアンさん(25)は、友人の紹介によって3年前からテンアライド系列のレストランで働いているベトナム人留学生だ。
トアンさんの接客を受けた人に感想を聞くと、「(外国の方だと)気付かなかったですね。日本語がすごく上手なので」「すごく感じが良くて、素敵な接客でした」と評判は良い。同僚からも「とにかく一生懸命で頑張ってくれる」「いつも元気で明るい楽しい子です」「日本人よりもより日本人らしい、今の日本人に持ってないものを持っている子です」との声があがる。また、トアンさんは接客だけではなく調理もこなし、はじめは包丁の使い方すらわからなかったというが、今や刺し身の盛り付けも慣れた手つきだ。
将来は日本で就職したいと考えているトアンさん。「日本とベトナムの給料は違うから、日本でお金を稼いでお母さんとお父さんに送ります」と話すように、アルバイトで得た収入の中から余ったお金を祖国の両親に送っている。日本の1万円はベトナムでは5万円ほどの価値があるという。
留学生の労働は入管法第19条で“1週間に28時間まで”と制限されているが、トアンさんは「(アルバイトは)1日4時間。学校が4時間。(留学生の)みんなも結構時間が空いているから時間がもったいないと思っている。もっともっと働きたい」と話す。この28時間という時間は、留学生の本来の目的である「勉強」がおろそかにならないことと「労働」のためだけに入国してくる人を防ぐために定められている。
日本でアルバイトをすることについては「教室、学校みたいだと思っています。みんな家族とか友達とか先生みたいに、仕事とか日本語を教えてくれるから。お金を稼ぐだけのところではないと思います」と語った。
■日本は“働きたい”ではなく“住みたい”国?
日本学生支援機構の調査によると、ベトナム人留学生の数は2013年の1万3799人から2016年には5万3807人と急激に伸びている。元々親日的なベトナムだが、日本企業が多く進出していることや日本側の留学生の受け入れが積極的なこともあり、他のアジアの国と比べても伸びが大きい。
日本では、外国人労働者の受け入れを研究者、技術者、調理人など、専門的な知識や技能がある人のみに制限している。いわゆる「単純労働」をする目的で日本に来ることはできないが、留学生であれば週28時間という制限の中で原則自由に働くことができる。そうした点からも留学生の需要は高くなっている。
また内閣府の推計では、15歳以上の働く意思がある「労働力人口」は2013年の6577万人から2030年になると5683万人、2060年には3795万人と減少していくことを予想している。ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏も「過去15年で、日本の労働力人口は約200万人減っている。これは四国全体の労働力人口がバッと無くなったと同じ数。子育て支援で女性を働きやすくしたり定年を延長する取り組みを行ったりしているが、それを全部足し合わせても間に合わない。外国人を受け入れるしかない」と指摘する。
外国人労働者の受け入れに関しては、「日本人の仕事を奪われるのでは」という懸念も根強くある。それに関してモーリー氏は「全体的に日本の生活水準が上がったから、(日本人が)昔のような単純できつい仕事はしたくない。そこを(外国人労働者が)埋めてくれているという側面もある」と説明した。
一方で、注意するべき点があるとも指摘。「その人達の労働環境が結構きつかったり住んでいる環境が劣悪だったり、あとは滞在条件が厳しいので、ビザが切れたオーバーステイ(不法滞在)の人が何万人かいる。そうなると闇のブローカーが出てきて、超低賃金で働かされる不法労働の温床になってしまう。そうした実態をみつめて、より現実的に規制緩和をしていくことが必要。国際思考がある海外の人にアンケートを取ると、英語が通じない日本では働きたくないと2割の人が答えていて、でも生活水準がいいから8割の人は住みたいと答える。そのギャップは大きい。労働環境を改善しておくと、ベトナムにしろ他の国にしろ、その国で一番やる気や才能のある人が日本を目指して来てくれる。そうして優秀な人が来るのは日本のためにもいいこと」と見解を述べた。
(AbemaTV/『けやき坂アベニュー』より)