
現代の若者たちにとって「入りにくい」「料金がわからなくて怖い」「場末感がある」など、少し遠い存在と思われがちなスナック。1990年ごろをピークに急速に店舗数は減少しているが、今、そんなスナックがとても熱いのだ。
同じ夜の社交場であるキャバクラやガールズバーとは異なるスナック。キャバクラの場合、女性が客の横に座って接客するため風営法の届出が必要で、場所や営業時間など、開業には様々な規制が伴う。「指名制」もキャバクラならではの特徴だ。一方、ガールズバーとスナックは対面で接客を行う点では共通しているが、働く人の年齢層は一般的に前者の方が低めとなっている。

「気づいていない人が多いけど、スナックのありがたさとか、やってみようと思う人が出てくるとか、そういう逆転現象が起きると思う。もうそこまで来ているよ」。
そう話すのは、これまでに1000軒近くのスナックを訪れ、自他ともに認めるスナック好きの玉袋筋太郎。玉袋さんに案内してもらい訪れたのは、練馬区にある「凱旋門」。創業42年の老舗で、座席数は30席、フロアレディ6名で営業している。ドアには玉袋さんが会長を務める一般社団法人「全日本スナック連盟推薦」のステッカーが貼られている。「『会員制』のステッカーが貼ってある店もあるけど、会員証なんてみたことない。変な客を断るための口実なんだ」。

養生テープで補強されている古びた看板を眺めながら「こういう年季の入った看板のお店はだいたい当たり」と話す玉袋さん。「忍」「香」など、漢字一文字のお店もハズレが少ないのだという。一文字の店名は被ることが多く、同じエリアでは使えないのがルールだ。つまり、年季の入った看板や、一文字の名前は"老舗の証"ということだ。
店に足を踏み入れると、ママ・睦子さん(75)によるハグのお出迎え。お茶目な睦子さんに案内されて着席しようとするが、ここで注意点があるという。実は、スナックでは勝手に席に座ってはいけないという暗黙のルールがあるのだ。「常連さんがキープしている席もあるので、ママに任せるのが一番。初めて行く店は人様の家にお邪魔する気持ちで、威張って入ってはいけないと思う。客だから偉いという固定観念は捨てなきゃ駄目!」と玉袋さん。

睦子さんがスナックを開店したのは、32歳の時。友人の誘いがきっかけはだったというが、一時は4店舗を経営するほど大繁盛。「やってよかったなって。全然後悔なしね。85歳くらいまではやりたい。"これからが本番、今までは見習い"っていう感じ。それくらいの気持ちは常にあるわけ」。
「今の世の中、人付き合いが、めんどくさいってい人も多いじゃない。でもそれが魅力的なんだよ。財産とかじゃなくて、こういうふうな人間になりたいって思うようなママやお客さんがスナックにはいるんだよ。ママを座長とした芝居に溶け込んで、主役になったり、脇役に回ったり。男子よりも女子の方がハマっちゃう人が多いね」と玉袋さん。

スナックの楽しみのひとつといえば、カラオケだ。常連ともなれば、ママとのデュエットも可能だ。スナック初心者の場合は、どのような振る舞いをすればよいのだろうか。「いきなり今流行りの歌とか歌っちゃうのはよくない。AKBなんてスナックのお客さんにとって洋楽だから。今一番流行っている米米クラブとか歌ったら浮いちゃうわけだ。(20年前の)米米クラブでも最先端だよ。わからない時は履歴でどういう歌を歌っているか調べる」と他の客の心を掴むための極意を伝授した。他の客が歌っている最中は、手拍子や拍手をするのがスナックのマナーだ。

しかし、多くのスナックではメニューの料金が明示されていないことから、不安に思う初心者も多いようだ。料金システムには大きく二つのパターンに分けられ、「チャージ=席料」は、氷・水・お通し・カラオケ歌い放題が付き、ボトルなどのお酒は別料金となる。また、「セット=基本料金」は、お店が用意している飲み放題のお酒を飲めるというシステムだ。ちなみにこの日はチャージ料金(1人)1500円+ボトル(1本)5000円というお会計だった。
玉袋さんによると、常連になるとサービスをしてもらえることも多く、"全ては交渉次第"だという。「まず店に入った時にママに聞けばいい。こちらから交渉してもOKなんだから。ネット世代の子はすぐスマホを見て調べて、そういうことをしないよね。交渉することで、コミュニケーション能力も上がっていくんだから」と力説する。「新入社員研修も山とかに行かないで、2週間スナックで働いた方がよっぽど良いと思う。勉強になるよ」。
■20歳が渋谷にオープンさせた「ニュースナック」
玉袋さんが指摘する通り、最近、若い女性が経営する新たな業態「ニュースナック」と注目を集めている。
川崎芹奈さん(20)は、今年7月に渋谷でスナック「ヤングスナック‐芹奈‐」オープンさせたばかりだ。お店は二人で運営、食事と接客は全て芹奈ママが一人で行っている。
スナックをはじめた理由について芹奈ママは「子どもの頃、家に帰る途中でスナックの横を通っていた。中からカラオケの歌声や笑い声が聞こえてきて、その"夜の雰囲気"がすごくいいなと思った」と話す。

当初の目標は40歳での開業だったが、20年も前倒ししてオープン。開業資金は400万円かかったそうで、「できるところは節約して、でもお客さんに出すものはちゃんとしたものを出したいという気持ちでやっている」という。この日のメニューは煮込みハンバーグときんぴらごぼう。一日の食材費は1500円くらいに収まるように心がけている。
スナック研究の第一人者でもある首都大学東京の谷口功一教授(法哲学)によると、スナックの開業資金の目安は約200万円で、費用は、家賃、酒代、水・氷・お通しなどの仕入れにかかるが、支えてくれる常連客がいれば長い間営業することも可能だという。

芹奈ママは開店準備のために「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」で食材の買い出しを行う。開店は午後5時。開店とほぼ同時に常連客が入ってきた。客との会話ではジェネレーションギャップを感じることも多いようだが、分からないことはすぐにスマホで検索するなど、若者らしさも覗かせる。午後9時をまわると、芹奈ママは突然ギターを抱えて店を出ていった。実は芹奈ママは、現役で活動するアイドルとしての一面ももっており、歌手として活動しながらスナックを経営しているのだ。この日は渋谷百軒店商店街のイベントで老舗スナックに行き、流しの歌手としてミニコンサートを行った。

店に戻るとスナックの接客を再開。この日は、午後5時から午後11時30分までの営業時間で計11人が来店した。最後の客を見送った後は売上をチェック。スナックのイメージが薄い渋谷では、キャバクラなどが競合となり、それなりの売上と覚悟が必要だ。目標の1日4万円に対し、この日4万840円だった。目標はなんとか達成したが、芹奈ママは「金銭的な面はすごく危ない。がっぽり稼ぐための水商売と、スナックは違うと思う。でも、色々経験している大人の方と話すのは楽しいので、お金じゃない充実感みたいなものがある」。

東洋経済オンライン編集長山田俊浩氏によると、スナックで働くのがアラサーOLの間で副業としても人気だという。「若い女の子たちがコミュニケーションの勉強になるという理由で選んでいる。10万円くらい稼ぐ人もいるようだが、大体4~5万程度。そんなに稼げるかといったらそうではないので、お金目的だとけっこうキツい。ただ、向上心の強い女の子たちにとっては勉強にもなって、そこでお客さんから仕事の受注をもらったり、人脈ができたりすることもある」。
年配の人が行くものというイメージが強かったスナック。「ニュースナック」の登場で、ますます若い人にも身近になっていきそうだ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


