神奈川県座間市のアパートで、少なくとも9人の遺体が発見されるという事件が発生、日本中に衝撃を与えている。
事の発端は東京都八王子市の女性が「自殺を一緒にしてくれる人を探している」とTwitterに書き残し行方不明となったことだった。警視庁によると、10月24日、女性の兄が「妹の所在が分からない」と高尾署に相談に相談。
この女性の行方を追っていた警視庁は10月30日、神奈川県座間市のアパートの部屋で複数の遺体を発見した。そして、この部屋に住む27歳の白石隆浩容疑者を氏名、年齢不詳の遺体を損壊し遺棄した疑いで逮捕した。前日の23日に容疑者の男と女性が八王子駅で電車に乗り、アパートの最寄駅で降りる姿が防犯カメラの映像に捉えられていたことから、警察は30日、アパートを捜索。そこで複数の遺体を発見した。玄関に置かれたクーラーボックスには2人分の頭部が入れられ、証拠隠滅のため猫のトイレ用の砂がかけられていたという。さらに室内からは、遺体を切断したとみられるノコギリのほか、クーラーボックスなど、合わせて8つの密閉型の収納ボックスが置かれ、そのうちの7つから遺体が見つかった。中には頭部の他、腕や肋骨とみられる骨が多数入っていて、遺体の状況から女性が8人、男性が1人とみられている。
31日午前、警察は氏名・年齢不詳の被害者を損壊し、クーラーボックス内で猫砂をかぶせて隠ぺいした死体遺棄の疑いで、白石隆浩容疑者を逮捕した。白石容疑者は「不明の女性と会って殺害した。自宅の浴室で解体した。肉と内臓は捨てた」などと供述、さらに「多い人で50万円、少ない人で500円を奪った。また9人の中には自殺志願者がいた。彼女たちについては、1人で死ぬのが怖かったから一緒に死のうなどと呼び出した。そして8月末に最初の殺人を行った」とも話している。
白石容疑者がこの部屋を借りたのは8月末で、そこから9人を殺害、その後もこのアパートで暮らしていたと供述している。
いわゆる“事故物件”を紹介するサイト『大島てる』によると、容疑者のアパート周辺は「このエリアの大半を米軍の土地が占めるため、日本人があまり住まない地域。住民の絶対数が少ないので、比較的静か。決して事件性のある物件が多いエリアではない」と話す。しかし「このエリアの相場が4万円代中盤なのに対し、このアパートはもともと"事故物件"だったので、6畳のワンルーム・ロフト付で家賃は2万2000円」と指摘した。
■悪意のある人間に"自分はここにいますよ"と晒していることになる
女性のものとみられるTwitterには、「#自殺募集 死にたいけど一人だと怖い。だれか一緒に死んでくれる方いましたらdmください。こちら23の東京です。車ある方だと嬉しいです」といった投稿もあった。白石容疑者と行方不明になった女性の間には、何があったのか。
ネットと自殺といえば、過去には「自殺サイト」が社会問題化したこともあった。2003年頃、年齢も住んでいる場所もバラバラの男女による集団自殺が相次ぎ、その温床として「心中相手を募集しております。方法は練炭による一酸化炭素中毒死です」といったことが書き込まれる掲示板の存在が明るみ出たのだ。2005年8月には女性に練炭自殺をもちかけ殺害したとして大阪府の男が逮捕。男は男子中学生、男子大学生も殺害したとして死刑判決が下され、2009年7月に刑が執行された。2006年11月には女性の首を絞め殺害したとして、愛知県の男が委託殺人罪で起訴され、2007年4月には自らが開設した自殺サイトに書き込んできた女性を殺害したとして千葉県の男が逮捕されている。この事件では、男は自殺を手助けする報酬として20万円を受け取っていた。
しかしその後、警察による取り締まりが厳格化したため、同様のサイトは相次いで閉鎖。最近では隠語を使ったり、LINEやTwitterなどのSNSで直接やり取りをするなど、表からはわからないよう、巧妙化、アンダーグラウンド化に拍車がかかっているとの指摘もある。
実際に、Twitterで「#自殺募集」と検索したところ、「死ぬ人を募集 眠剤、安定剤大量にあります。死ぬ人集まりませんか…」と自殺をほのめかす文章に加え、検索で引っかかりやすくするためか大量のハッシュタグをつけた投稿も見つかった。中には「練炭、車、大人用おむつ←準備済み 耐熱テープ、耐熱皿(レンガとか)、睡眠薬、お酒、お菓子など、これから動けるときに、買います。練炭自殺の効果的なやり方は過去レス参考に勉強しました。本当に死にたい方のみ募集です。12月20日前後予定です」といった具体的な投稿も。この人物は10月31日、Twitterで「今さっき母親に練炭見つかった~!練炭は処分するとのこと。皆様、本当にすみません。僕主催での練炭自殺は出来そうにありません。僕は10年前と同じように、結局また、飛び降りるのだと思います。次は失敗しないと、いいのですが」と新たな投稿をしていた。
ジャーナリストの石原行雄氏によると、Twitterなどで思いを表明することが、人々にとって、ある意味で"ガス抜き"になっている部分もあるのだという。「少し辛い時に"もう死んじゃうよ"といった投稿を行うことで、肩から荷が降りるという場合もある。そうした投稿を徹底的に無くすことの弊害もあると思う。ただ、Twitterで自殺をほのめかしたり、そうした投稿に反応したりすることは、悪意のある人間に"自分はここにいますよ"と晒しているということを自覚してやるべきだ」と話す。
さらに石原氏によると、未だ運営を続けている自殺サイトの中で隠語を使ってうまくすり抜けたり、SNSであえて大っぴらにやることですり抜けたりするケースだけでなく、P2Pソフトなどを経由した"ダークウェブ"の中にあるマニア向けの場所もあるというが、こうしたサービスは取り締まりとの"いたちごっこ"な状況にあるという。
「アプリケーションソフトそれ自体は悪い使い方を勧めているわけではないが、便利な道具というのは諸刃の剣。ただ、ソフト自体を取り締まることは検閲の問題などにも抵触するので難しい」(石原氏)。
カウンセリングなどで自殺志願者と接しているという明星大学心理学部の藤井靖准教授は「ほとんどが"今よりもっとより良く生きたい"人なので、本当に死にたいというよりは、うまく生きられないから死ぬという選択を取らざるを得ない人がほとんど」と話す。
慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は、「自殺を考えている人に刺激を与えないよう、メディアが悲惨な自殺のニュースを報じるのを控えるようにしていると思う。しかし、表の世界から消せば消すほど、アンダーグラウンドに行ってしまうのではないか。そこにはお金目当ての人も多いので、相談に来た人に対して思いとどまらせたりすることもなく、むしろ自殺の方法を教えたり、誘うようなこともしているんじゃないか。ネット上のそうした情報が消えることはないので、ちゃんと大人や先生たちが、自殺に関する正しい情報をリアリティを持って扱っていかないといけないのではないか」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)