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 タトゥーを彫るのは、果たして医療行為と言えるのだろうか。今、この問題が日本のタトゥー業界全体を揺るがしている。

 現在はデザインの仕事で生計を立てている増田太輝さんがタトゥーアーティストの仕事を失ったのは、2年前のことだった。

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 「警察に『タトゥーを彫るのに医師免許を持っている?医師免許が必要って知っていた?あなた医師法違反ですよ、医師の免許ないのに刺青を彫って』と言われた」。

 2015年8月に「医師法違反」で罰金30万円の略式命令を受けたが、増田さんはこれを拒否。無罪を主張し、「自分はこれに人生をかけてきた。そういった志を持ってやってきた。これまでの歴史や伝統的な文化がある。それは、彫り師だからこそできること」と、裁判で闘うことを決意。彫り師を巡る初の正式裁判として注目を集めた。しかし今年9月27日に大阪地裁で開かれた判決公判の結果は敗訴。「保健衛生上の危害が出る恐れがあり、医療行為に当たる」として、増田さんに罰金15万円が言い渡された。会見で増田さんは「彫り師という仕事、自分の人生を取り返すために、これからも控訴審で戦っていく」と、改めて決意を示した。

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 増田さんのようなタトゥーアーティストが摘発を受けるようになった背景には、1990年代にエステサロンなどで眉などに色素を入れる「アートメイク」が原因の健康被害が多発したことがある。厚生労働省は2001年に「以下の行為は医師免許を有しない者が生業として行えば医師法第17条に違反する。針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」との通達を出し、警察もこれをもとに摘発を開始。罰金を払い、廃業を余儀なくされたタトゥーアーティストもいたという。

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 これまでも、彫り師が医師法違反で逮捕された例は複数ある。2010年7月には、兵庫県警が山口組系組員の彫り師を逮捕し、2010年9月には広島県警が彫り師を逮捕した。2015年2月にも、熊本県警が彫り師で暴力団幹部の男を逮捕している。

 暴力団対策が専門で、日本のタトゥー事情に精通している篠崎和則弁護士は「2001年の通達以降、2010年までは少なくともなかった。2010年以降も実際に起訴されるまでは至っていないケースが続いていた」と話す。「厚生労働省の通達を文字通り読めば刺青を入れる行為も該当するが、あの通達以降一切摘発例はなかった。それが最近になって急にこういう動きになっているので、現場の方が混乱したり色々思うのも無理はない」。

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 顔に施す「アートメイク」から、タトゥーや伝統的な刺青にまで規制対象が拡大している現状について増田さんは「画力や技術も磨いて知識を身につけた彫り師だからこそ表現できるものがある。だからこそ、衛生面にも気を配って、健康被害が出ないようにやってきた。眉や、目の縁などは怖いので、針を使うのは自分ではもちろんやらないし、頼まれても断ってきた」と話す。

 増田さんへの判決を傍聴席で聞いていた同業者や関係者からも「判決は良くないと思う。米国や豪州、欧州などではライセンス制度がある。日本でもそういうものを作った方がいい」といった声が上がる。

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 それから増田さんはタトゥーを守るための団体を立ち上げ、業界の地位向上を目指して活動を行っている。「諸外国ではライセンス制度などタトゥーに関する何らかのルールがあるが、日本にはまったくない。日本でも安心・安全な環境で仕事ができるようにしたい」と、タトゥーを巡る法整備のあり方や資格制度の導入を働きかけていく予定だ。そんな増田さんたちの活動を追ったドキュメンタリー映画『犯罪の彫心——若きタトゥーアーティストの挑戦(仮題)』の製作も進められており、海外のテレビ局からも注目されている。

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 増田さんの主任弁護士を務める亀石倫子弁護士に今後の見通しを聞いた。「例えば憲法の観点からこういう解釈を許すと、彫り師の職業の自由や表現の自由まで侵害するという点で言えばこれは憲法問題だ。控訴審ではその点の主張をさらに補強するということを考えている。今回の判決には疑問を抱いている人が多い。異なる判決が違う裁判所では出る可能性もある。諦めないでやっていきたい」と説明した。

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■日本と海外の大きな違いとは

 タトゥーのイメージについて若者が多い渋谷で街の声を聞いてみると、「怖そう」(10代女性・学生)、「日本だとまだちょっと受け入れられないと思う」(20代女性・学生)、「今までのイメージだとヤクザや暴力団」(60代男性・公務員)。と言った声が上がった。タトゥー文化研究の第一人者である都留文科大学の山本芳美教授も「英国の一部メディアでは、和彫りのことを『ヤクザスタイル』と呼ぶケースがある」と話し、海外でもやはりアウトローの印象が強いと指摘する。

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 しかし今も刺青は脈々と受け継がれている。横浜の彫り師・横濱彫光氏(67)は10代から独学で刺青を学び、この道一筋50年以上。神奈川県では、知らない人はいないと言われる人物だ。仕事場には、刺青のデザイン画や江戸時代に使われた道具など様々な資料が展示されている。

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 「普通に肌に描いて彫っていくのだが、一人ひとり、きちんとその人が(精神的にも)変わっていけるように、その人の望んだようなものを彫ろうとして一生懸命やっている」と、彫り師という職業にかける思いを語る横濱氏。衛生面にも非常に気を遣っており、器具は全て殺菌済みで、針は使い捨てに。電動のタトゥーマシンと手彫り作業を使い分けている。

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 「(絵柄は)細かければいいというものでもない。3メートルくらい離れていいなという絵にしないと。昔は全て手で彫っていたが、今は筋彫りだけは電気で彫っている」。横濱氏の作品は海外にもファンが多く、海の向こうからわざわざ足を運んで依頼する人も多いという。この日訪れていた会社員の男性(42)は、横濱氏の技に惚れ込んで、20年以上も前から通い続けている。

 日本では、タトゥーを見ると暴力団や連想する人も多い。関東弁護士連合会が2014年に実施したアンケートでは、「刺青を入れたいと思いますか?」という質問に対し、「強く思う」が1%、「どちらかといえば思う」が2%、「どちらとも言えない」が4.1%、「あまり思わない」が7.2%、「全く思わない」が85.7%となった。

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 元山口組二次団体幹部で作家の沖田臥竜氏も、身体に刺青を入れている一人だ。暴力団員をやめた沖田氏は、妻の家族と食事をするときなど、やはり刺青が見えてしまうことを気にしてしまうという。「みんなで温泉に行っても、自分だけは内風呂に入る。手首まで入れたこと関しては、やりすぎたなと思う」と話す。

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 「覚悟とか迫力を示すために入れる。ただ、効果が発揮できるのは、今や刑務所の中くらいだろう。初対面の印象が大事なので、綺麗な刺青が入っていたら、窃盗や覚醒剤などの犯罪でも『お、こいつちょっとやるんちゃうか』というムードになることもあるからだ。昔は横柄な態度を取られたときなどに、『暑いな~』と言いながら刺青をわざと見せたりすることで、効果もあった。でも今の時代、それをやったらすぐに警察を呼ばれて事件になってしまう。ヤクザと言っても一般人と接する機会はあるし、隠さないといけないこともある。貸したお金を返してもらう時に刺青が見えてしまったら、恐喝扱いになって逮捕されてしまう可能性もある」。

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 一方で、近年は海外ミュージシャンの影響によって、ファッション感覚でタトゥーを入れる若者も増えている。

 しかし、このような安易な判断を後悔している人が多いと話すのは、銀座の美容外科クリニック東京イセアクリニックの吉種克之総院長だ。これまで約30年間でタトゥーの除去手術を5000件以上行ってきた吉種総院長は「私たちのクリニックの統計だと、9割が『後悔した』と回答している。とくに20~40代くらいの、人生の転機でタトゥーによって不都合なことが出てくる年齢の人に多いが、『入れてよかった』とまで言っている人は少ない」と話す。

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 この日、吉種総院長の除去手術を受けた女性の場合、治療費は1回で約20万円。タトゥーを入れた時には2万円程度だったそうで、一度入れると除去の際には10倍もの費用がかかることになる。

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 また、六本木境クリニックの境隆博院長は「人の体に絵を描くことを医療行為だとは思わない」としながらも、一度タトゥーを入れると傷が残り、手術によっても完全に元に戻すことは難しくなると指摘する。

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 さらにタトゥーには健康面でもリスクがある。関東弁護士連合会がまとめた資料によると、インクの成分によるMRI検査時の火傷、インクに貴金属が含まれる場合、腎・肝機能障害、皮膚への異物混入による炎症とガン化などの恐れがあるという。

 海外では、タトゥーが手術痕を隠すため活用されているケースもある。米国のNPO「P.ink」では、乳がんで乳房を切除した女性に信頼できるタトゥーアーティストを紹介するサービスを提供している。美しいタトゥーで心の傷を癒し、自信を取り戻すサポートをしているのだ。

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 慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は、日本と海外の受け止め方の違いについて、「日本では、注目されたり、恐れられたり、一目置かれるといった"偏見"を生み出すことに刺青を入れることの価値があった。立派な彫師の方々がいる背景にも、そういう価値感があるからこそだ。こうした文化のルーツを考えていくと、どうしても矛盾が出て来る。海外では偏見はないからといって、日本でも偏見をなくそうというのは少し違う気がする」と指摘する。

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 その上で、「段階的にであれば彫り師というのが認定される可能性もあるのではないか。例えば、医療行為の中でも、医師だけでなく看護師や柔道整復師など様々な資格がある。医療資格のひとつとして、彫り師という存在が認定されていけば理想的だ」と主張すると、増田さんも「よりオープンになるからこそ、ネガティブなイメージが変わっていくのではないか」と述べ、海外で進むライセンス制などの法整備に期待を寄せた。また、篠崎弁護士は、「この問題を正面から取り上げてくれる政治家がいるのかという難しさもある」と、今後の課題を指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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