プロ、アマ問わず将棋を楽しむものに必ず必要なのが駒と盤だ。駒は五角形で王(玉)、飛、角、金、銀、桂、香、歩と、1セットで8種類40枚ある。最近の将棋ブームに加え、ふるさと納税の効果もあり、駒の生産地として有名な山形県天童市には、注文が殺到しているという。そんな駒にも素材から、製造過程まで、いろいろなトリビアがある。

◆最高の素材はツゲ

 将棋の駒は素材と文字の書き方で価値が大きく変わる。素材は本黄楊(ツゲ)が最高級品とされている。中でも伊豆諸島・御蔵島の島黄楊が最高のブランドで、鹿児島で自生する薩摩黄楊、中国の雲南黄楊がそれに続く。少し安い素材ではシャムツゲ(ツゲとあるが、本黄楊とは別の科の植物)もある。

 島黄楊は色つやが美しく使い込んだあとのあめ色も美しい。「木の宝石」という表現も納得の素材だ。女性ものの櫛としても最高級品として知られている。木目でも駒の美しさ・価値が変わり、最も高い駒では100万円をゆうに超えるものも存在する。

◆文字の書き方に大きな違い

 普及品の駒は、表面にスタンプを押したもの。プラスチックの駒と並んで最も安い部類に入る。高級になり嗜好品としての要素も持ち合わせる駒は文字を彫り、漆で「王将」「歩」といった文字を表す。一般的に、安い順に並べると以下のようになる。

・彫り駒(文字を彫り、彫った部分を漆で塗ったもの。文字の部分は窪んでいる)

・彫り埋め駒(文字を彫り、彫った部分を元の木の表面部分まで漆で埋めたもの。駒の表面と文字の部分が平らになっている)

・盛り上げ駒(文字を彫り、漆で埋めたのち、駒の表面から盛り上がるまで漆を使ったもの)

 最高級品は盛り上げ駒となり、タイトル戦などで使われる。駒をアップで見る機会があれば漆の盛り上がりを確認してみるのもいいだろう。

◆書体は様々

 将棋の駒にも書体がある。明朝やゴシックといったものではなく、一般には聞きなれない独特の字体が用いられている。

・源兵衛清安(げんべえきよやす)

・水無瀬(みなせ)

・錦旗(きんき)

・菱湖(りょうこ)

 テレビ対局では見やすいように一文字の書体で書かれている。大盤解説などで使う磁石の駒も一文字であり、将棋を観て楽しむ「観る将」にとっては一文字駒の方が馴染みがあるかもしれないが、高級品としての一文字駒はあまり多くは作られていないようだ。

◆動きが分かる駒も

 近年は将棋の普及を意識して、駒の一つ一つに動かせる方向が記されたものも多く発売されている。高級品などにはないが、初心者向け・子供向けとしては最も適している駒ともいえる。将棋は知的で楽しいゲームだがルールが難しい。駒の動かし方が分からないからという理由で辞めてしまってはもったいないのだ。

◆生産日本一は山形県天童市

 将棋の駒は山形県天童市で9割が作られていると言われている。明治以降に本格的な産業となり、1996年には国の伝統工芸品(経済産業大臣指定伝統的工芸品)として指定された。天童が将棋の町として知られているのは駒の生産量が日本一であるところに由来がある。天童市はで将棋の駒の手作り体験を楽しむこともできる。

◆直接手に触れる将棋の道具

 将棋の道具の中でも、駒は直接手に触れるものだ。高級な駒の木目や漆の美しさ、良い将棋盤にピシっと指したときの駒音の美しさはまた格別なもの。触れられる機会はなかなかないかもしれないが、専門店をのぞくなどして良い道具を知っておくのも「観る将」の楽しみの一つかもしれない。【奥野大児】

(C)AbemaTV


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