座間市で発生した事件でとりわけ注目を集めたのは、誰もが気軽に使用できるTwitter上でのやり取りが犯行の引き金になっていたことだった。
事件を受け、ついに国も動き出した。10日、政府は関係閣僚会議を開き、一丸となって今回のような事件の再発防止に取り組む姿勢だ。菅官房長官は会見で「徹底した捜査による全容解明と関係省庁による情報の共有、自殺に関する不適切なサイトや書き込みへの対策の強化、ネットを通じて自殺願望を発信する若者の心のケア対策の強化、3点を指示しました。犯行の経緯を徹底的に明らかにし、再発防止に努めるため、政府一体となって対策の強化に取り組んでまいりたい」と述べている。
ツイッター社の日本法人では「自殺を助長することを禁じる」として規制を強化した。しかしその一方で、SNSに「死にたい」と書き込むことは、あくまで誰かに話を聞いてもらいたいだけであり、規制することで本音を書き込めなくなり、逃げ場がなくなるという意見もある。また、「死にたい」といった、言葉だけでは、その意味を判断するのが難しいという面もある。
実際にSNSに自殺願望を書き込んだ経験のある人に街で話を聞くと、「課題とかに追われている時に死にたいってなっちゃう」(20代女性)、「仕事でうまくいかなくなった時に書き込んだりする。周囲にもそういう人はいる」(20代男性)、「嫌なことがあった時とか何となく疲れた時に」「深い意味はなくて、ちょっとイライラした時に」(20代女性の二人組)と、それほど深い理由があるわけではなく、何気ない気持ちで書いている人も多いようだ。しかし、中には無視され続けるいじめを受け、本気で死にたいと思い、書き込んだことがあると教えてくれた若者もいた。
また、普段使用するアカウントとは別のアカウントで、そうした思いを投稿する若者も多いという。例えば、楽しい・嬉しい気分の時には「本垢」、反対に愚痴・悪口などダークな気分の時には「裏垢」を使う。その他にも、「リア垢」「愚痴垢」「趣味垢」「オタ垢」など目的・用途に応じて数種類のアカウントを使い分けるのだという。その中には「病み垢」といって、心の病を抱えた人がネガティブなことをつぶやくために作ったアカウントもあり、自傷行為や薬物の写真を投稿しているものもある。それだけではなく、「死ね」=「タヒね」「氏ね」「市ね」「4ね」など、ユーザが監視や規制を逃れるための隠語も多数存在している。
白石容疑者に殺害されたと見られる田村さんは行方不明になる直前、SNSに「自殺を一緒にしてくれる人を探している」という書き込みをしていた。一方、白石隆浩容疑者は逮捕後「死にたいと言っている人はいなかった」と供述している。田村さんは、ただ話を聞いてもらいたかっただけなのか、それとも本気だったのだろうか。
20年にわたって自殺志願者を取材、これまで1000人以上に話を聞いてきたというフリーライターの渋井哲也氏は「白石容疑者とやり取りした人、数人に取材を行った。やはり、自殺の話ができたことが嬉しいようだった。具体的な方法を含めて、やはり自殺はタブー視されているので、話ができたこと自体が、うまく信頼関係ができたと言っていた」と話す。
「なかなか難しい問題だが、独り言としてつぶやく場がそこしかないということと、聞いてくれる人を探せるというメリットもあることの2点があると思う。今回の容疑者のように、具体的な自殺方法まで話し合う場合もあるが、そこでの会話が生きる方向へ向かわせることもある。自殺についてより具体的に話すことで、自分の整理をする、やり取りする中で自分を見つめられる場合もある。"生きたい"と"死にたい"の間で揺れ動き、結果、死に至る人もいる。学校を卒業したら死ぬと決めていて、今日は生きる日なので『死にたい』と書く、そういう人もいる」(渋井氏)
座間市の事件で、もし仮にSNSの存在がなかったとしたら被害者らは無事だったのだろうか。渋井氏は「少なくともそのタイミングでは亡くならなかっただろう。ネットがないとなれば、日記もしくは交換日記などに記すこともあっただろう。精神科に通っていたのであれば、自助グループのような場所で語り合っていたかもしれない。(SNSがなければ加害者のような男性を避けられた可能性については)それは難しい。そもそも別の場所で交わされていた会話がTwitterに移ってきたという経緯もあるし、自殺リスクが高い人は街でナンパされようとするなど、わざわざ危険な行動をとる可能性がある」とした。
明星大学心理学部の藤井靖准教授は「『死にたい』と書くことによって反応してくれたり励ましてくれる相手との関係があって発信が成り立つが、気持ちを吐き出す場所や受け止めてくれる人というのがいない人もいる。本当にSNSにしかない、という理由で書き込んでいるのだろう。一方で、SNSに書き込む元気もなく、死ぬという選択をしてしまケースもある」と話す。
ツイッター社が書き込みの規制を強化したことについて藤井氏は「規制も確かに大切だが、ケアも同時に考えていかないといけない。最近だと『いのちの電話』という相談窓口が混んでいて繋がらないとか、必ずしも専門家が対応しているわけではないという問題もある。ケアする側の質も上げていかないといけないという課題もある。また、心理学的にはネガティブな感情というのはいくら規制されたところでそこにあるものだ。例えば、子どもだったら、言葉に出なくても行動には出る。ある日学校に行かなくなるとか、家庭内暴力を振るうとか。いかにそこを助けていくかが大切だ」と指摘、さらに「よくこういう話をすると、発信する側(助けて欲しい側)にもっと言葉を尽くして助けを求めて欲しいという批判が出ることがあるが、実際には受ける側の準備が整っていない。死についての話がタブー視されていることも多い」と訴えた。
渋井氏も、自殺を減らすことはできても無くすことはできないという前提に立った上で、ネガティブな投稿や、裏垢の存在をある程度認める必要があると話す。SNSの規制を強化するだけでなく、同時にケアの質も高めていくことが大切だ。
被害者たちの「死にたい」という思いにつけ込んだ白石容疑者。
藤井氏は、そうした人たちと接するときのヒントとして「話をするときに、縁遠い人ほど"こうすべきだ""こうしちゃいけない"と、自分の価値観に基づいて語りがちになる。自分のメッセージとして"あなたがいなくなったら悲しい"ということを伝えなければいけない。また、自殺はやってほしくないことだし、良くないことだが、まず最初に死にたいという気持ちそのものを否定するのは良くない。"死にたい気持ちで生きる"とか、"生きる"じゃなくて"死なない"、という視点も大事だ」と指摘。渋井氏も「当事者が支援者のことを嫌うのは、"正しいことを言い過ぎる"から。例えば失恋の重みも人それぞれなので、"たかが失恋"と言うのではなく、共感を寄せることはできると思う」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)