今年4月、CNNが在韓米軍の家族を脱出させる作戦「NEO」(Noncombatant Evacuation Operation、非戦闘員退避活動)の訓練の様子を報じた。映像には子どもを連れた母親たちがヘリコプターで運ばれ、兵士が小さな女の子に防毒マスクの装着を指導する模様などが映し出されていた。
現在、韓国にはアメリカ人が約14万人、そのうち米軍関係者が約2万8500人在住している。国外退避までには(1)退避情報が入る(2)身支度・準備(3)登録手続き(4)南へ移動(5)韓国国外へ退避、という5つのステップがあり、韓国南部への輸送は民間業者によって行われ、アメリカ軍はその警備を担当。そして米軍が準備した航空機でグアム・沖縄へ脱出させる。軍事アナリストの小川和久・静岡県立大学特任教授によると、米軍は平時から陸上輸送の民間業者や25機前後の民間旅客機をおさえており、準備は開戦の1カ月前からスタートし、退避10日から2週間ほどで完了させるのだという。
米軍は過去にベトナム戦争(1975年)、フィリピンのピナツボ火山噴火(1991年)、コートジボワールのクーデター(2002年)、ジャマイカ・キングストン暴動(2010年)、そして日本の東日本大震災(2011年)などでもNEOを実施してきた。
また、退避時の持ち物についても規定がある。「NEOパケット」といって、非戦闘員であることを示す情報、緊急避難指示書、本国帰還手続きシートなど、行政手続きに付随するものの他、大事な写真を収めたCD、パソコンのバックアップCDといったものが含まれている。さらに3日分の水と食料、必要な薬30日分、毛布、着替え、簡易トイレなどからなる「NEOキット」というものもある。
ソウル支局長を務めた経験もある共同通信客員論説委員の平井久志氏は「韓国は年に2度ほど訓練をしている。福岡まで実際に輸送することや、抜き打ちで実施することもある。ソウルに住んでいるアメリカ人はそういうことがあり得ると思っていて、訓練も日常化している」と話す。
しかし有事の際に退避しなければならないのは、韓国国民や在韓邦人も同じだ。北朝鮮国境からも近く、人口が集中しているソウル周辺では慢性的な交通渋滞の問題もある。訓練をしているとは言え、本当にトラブルなく退避させることは可能なのだろうか。日本政府は、まず「自助努力」による退避を基本方針としているが、(1)不要不急の渡航中止要請(2)渡航中止勧告(3)避難勧告(4)待避所での待機などの情報発信が行われ、最終的には、退避手段は航空機・船舶による退避が行われるという。
「90年代後半、朝鮮半島の第一次核危機の際には在韓日本人会では緊急連絡網を作って、情報が末端まで行き渡る時間をチェックしたこともあった」と明かす平井氏は「本当に危機になれば許可が出るとは思うが、原則として自衛隊機の派遣には韓国政府の同意が必要で、民間航空会社もリスクがあるところには行かない。どこの航空機を、誰が操縦して行くのか、そういう議論が足りない。アメリカは自国民を運んだ後に日本人を運んでくれることになっている。しかし、その順番を待っていたのでは大変なことになる。結論としては、日本に近い釜山など、とにかく南を目指して努力してくれ、というのが現実。対策とは言えない対策だ」と指摘する。
軍事行動に先んじて始まるNEO。その準備は本当に始まるのだろうか。ニューヨーク在住のジャーナリスト、津山恵子氏は「テレビの報道も先週までは北朝鮮のミサイル一色という感じだった。ただ一般市民の間ではそれほど喫緊のことだという自覚はないと思う。イラク、アフガニスタンでも4000人以上の兵士が亡くなっている。国民の間では戦争への忌避感は強いと感じている」と話す。今後の展開について平井氏は「今後朝鮮半島で何かが起こるとすれば、北朝鮮というよりもトランプ政権の行動で事態が始まる可能性の方が高いが、NEOを実施すれば、北朝鮮はともかく、韓国社会はすぐに気がつく。メディアも動きを報じるだろう。まだ軍事衝突まで煮詰まった状況ではなくて、むしろ来年の米韓合同軍事演習の後にアメリカが北朝鮮に対してどういう行動をとるのかを問われる時期がくる。それまでは状況を見ないといけないと思う」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)