「今ここで白い粉を見てしまったらやはり…でも、使わない選択をしたい」。
ヒルクライムのメンバー、浅野忠信の父親で所属事務所社長、橋爪功の息子・橋爪遼元被告、清水アキラの三男・清水良太郎被告と、芸能界にも蔓延している薬物。7日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、NHK『おかあさんといっしょ』の9代目”歌のお兄さん”を務め、去年4月、覚せい剤取締法違反で逮捕、有罪判決を受けた杉田あきひろさんと一緒に、薬物問題を考えた。
■「びっくりするくらい気持ちよかった」
現在、薬物依存者などの回復支援施設「長野ダルク」で回復プログラムに取り組んでいる杉田さん。朝6時に起床し、日中は掃除、ランニング、ミーティングを行い、21時に就寝する毎日を送っている。
「去年の5月20日に保釈され、自宅にも戻らずにそのまま長野ダルクに入所した。薬物を使っていた時期は昼と夜が逆転していた。もう一度、社会とつながれるように、人としての生活の立て直しをしている。携帯電話もパソコンも使えず、お金の管理もできない状況。自分を見つめ直し、律するために必要な時間だと思っている。迷惑をかけた全ての方に謝ることができないままでいるのが辛いが、頑張っていれば、いつかちゃんと謝罪、埋め合わせができる時期が来ると思っている」。
杉田さんが最初に覚せい剤の触れたのは、大学卒業後、ミュージカル俳優をしていた時期だったという。
「飲み友達が僕の部屋に遊びに来て、『これ興奮剤だけど、杉田、知ってる?やってみない?』と。『ヤバイんじゃないの』と聞いたが、『合法だし、依存性もないからやってみない?』と言われたので、じゃあ試してみようかと。まだ20代で若かったし、本当に危ないんだったら、一回経験してみてからやめればいいと思った。びっくりするくらい気持ちよかった。当時は"エス"と呼ばれていて、それが覚せい剤だとは知らなかった。教えてくれた友達はその後、逮捕された。快感は忘れられなかったが、どう入手したらいいのかが分からなかったので、自分は止められた、手を染めずに済んだと思っていた」。
■「エスと聴いて、毛穴が開いて、一瞬で脳からよだれが出る感じがした」
しかし転機は"歌のお兄さん"を辞めた後の2005年、バリ島で訪れた。「現地の人に『お兄さん、葉っぱあるよ、エスがあるよ』と声をかけられた。エスと聴いて、毛穴が開いて、一瞬で脳からよだれが出る感じがした」と、覚せい剤に再会することになったときの衝撃を明かした。
「アルミホイルの上に覚せい剤を置いて炙り、一万円札を丸めて吸うという感じで使用した。東日本震災を機に仕事が激減、その後、NHKのコンサートツアーのレギュラーからも外れてしまい、精神的に落ち込み、実家とも関係が悪くなった。その孤独、怒り、寂しさが、薬物を使えば全て解き放たれた。全ての原因は自分なのに、それを薬物使用のため正当化していた。お金が底をつきかけてもシャブに使ってしまう。この蟻地獄のようなところから抜け出したいと思っても、一時間後にはまた欲しいと思ってしまう」。
警察庁の資料によると、覚せい剤の再犯率は65.1%(2016年)と高く、10年連続で増加中だ。「あの頃の自分には、こういう結果になる、使うなと言いたい」と話す杉田さん。薬物の誘惑と一生闘い続けなければならない苦しさを語る。
「覚せい剤を一度知ってしまった脳は、普通の人の脳とは違ったものになってしまっている」と話す杉田さん。「梅干しを見ると唾液が出るのと同じ。覚せい剤の快感は、性的な快感の100倍の気持ち良さだと言われている。普通の人が白い粉を見ても何とも思わないが、僕たち経験者が見ると、脳からよだれが出る感じで、鳥肌が立って、あの感覚がよみがえる。だから今は白い粉を目の前にしないよう、意図的に避けるしかない。よく、逮捕された人が"二度と手を出しません"と言うが、それは嘘。一度使った人間は、目の前に出されたら使ってしまうと思う、それくらい気持ちいい、怖いもの。"明日は使ってしまうかもしれないが、まず今日は使うのをやめよう"。僕たちは一生、死ぬまでそうやって生きるしかない」。
■渋谷の若者40人中6人の若者が薬物体験を証言
平成27年の警察白書によると、覚せい剤の初犯年齢は40代が33.7%、30代が30.1%、50代以上が22.7%、20代が12.6%、10代が0.8%となっている。通称"麻薬Gメン"=厚生省麻薬取締官を長く務めた髙濱良次さんは「なぜ20代が少ないのかというと、警察や厚生労働省、関係団体が学校で教育をして、新たな中毒者を作らないようにしている」と述べ、啓発活動の効果を指摘した。一方、40代、50代の検挙が増えているのは、若い頃に知ってしまった人が再び手を染めるケースがあるからなのだという。
しかし、若者たちにとって、薬物は常に身近な存在のようだ。取材班が渋谷の若者たちに薬物体験について話を聞くと、
「正直、体験したことはある。種類はアシッドLSDってやつ。染め物というかペインティングみたいな仕事をしていて。芸術と薬物の関わりがすごくあると思っていて、それが気になってまあ1つの"興味本位"みたいな」(20代男性)
「去年、友達にもらった。眠くなる。ハイな気分にはならなかった」(10代女性)
「マリファナはない。シンナーと粒、白い、何か白い粒のやつ。中学くらいの時に聖書を配っている人がいて、その中に1人いてもらった。感覚はお酒飲みすぎて酔っ払った時みたいな。目の前が二重三重とかになるし、フラフラするけど何か楽しいってなる」(20代女性)
と、赤裸々な証言が次々と飛び出した。知人が薬物に手を染めていることを知っていると話す若者もいた。
「元彼が大麻で逮捕された。スノーボードをやっていて山で生活していてみんなで吸っていた。たまにちょっとおかしい、テンション高いなと思っていたから、なるほどって納得した」(20代女性)
「知り合いで使用している人はいる。先輩が薬物で亡くなっちゃって。みんなで遊んでいる時もタバコだって言ってたが、結局クスリだったみたいで」(20代女性)
4時間で40人に話を聞くことができたが、なんとそのうち6人が薬物との関わりを証言した。
■「僕たち経験者が生の声で伝えないといけない」
高濱さんは「ダメだという知識と好奇心のせめぎ合いに負け、のめり込んでいってしまう。販路開拓のため売人がタダで一度試させ、とりこにしてしまうケースもある。ネットには薬物のサイトがあり、入手も簡単だと思う。精神的に落ち込むとか家族や周りに不幸があって精神的に自分が受け入れられない時に薬物の力を使って自分の心を安らげようとする人もいる」と話す。
回復プログラムの傍ら、長野県内でのコンサート活動を再開した杉田さん。年明け1月7日には、松川村でのファミリーコンサートも予定されている。「僕も長野県内の学校で講演をさせてもらっている。僕たち経験者が薬物によって何を失ったか、どんなクズになってしまったかを生の声で伝えないといけない。一時の快楽のその先には破綻が待っていることを伝えて、薬物に出会ってしまった時に"ノー"と言える理由を若い世代が用意できるようにしないといけない」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)