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 戦場ジャーナリストとして、カシミール地方やアフガニスタンなどの激しい紛争地域で取材をしてきた桜木武史さん。

 2014年からはシリア内戦の激戦地である北部の街・アレッポで反体制派の自由シリア軍と寝食を共にしながら取材。常に死と隣り合わせにある最前線に生きるシリアの人々を収めた写真には、戦争という過酷な状況にいるとは思えない表情があった。

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 シリアでは2011年にエジプトやチュニジアで始まった民主化運動「アラブの春」を発端とした内戦が続き、今なお緊張状態にあると言われている。軍事力で支配するアサド政権に対して民衆が政治改革を要求し、武力抗争へと発展。国民のおよそ47万人が命を落としている。無差別に民間人をも巻き込む化学兵器が使用されたことがあるが、それでも桜木さんは現場から離れようとはしなかった。

■「自分は死なない」と過信、狙撃される

 「高校生の頃、本多勝一さんという朝日新聞の記者の方が書いた本があった。人がすごく亡くなっているベトナム戦争とか、そういう世界があるんだと興味を覚えた」。

 ベトナム戦争やポル・ポト政権下のカンボジアを取材した新聞記者・本多勝一さんに憧れ、大学を卒業後、フリーのジャーナリストになった。とはいえ無名で実績もなく、アルバイトをしながら取材費を捻出。2003年には、初めての取材先としてカシミールを選んだ。インドとパキスタンの間に位置するこの地域で紛争が始まったのは1947年。イギリスがインドの独立を認めた事がきっかけだった。その帰属を巡り、半世紀以上たった現在も両国の紛争状態が続いている。

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 初めての戦場取材だったが、「自分は死なない」と過信していたという桜木さん。そんな中の悲劇だった。取材中、銃撃戦に巻き込まれ、インド軍のスナイパーに、右下顎を吹き飛ばされた。

 「初めて撃たれた時は、目の前で銃撃戦がおきて興奮してしまったのもある。撃たれて勉強にはなった。慎重になった」と話す桜木さん。重傷を負いながらも戦場取材を諦める事はない。カシミールに続き、2005年にはアフガニスタンへ。そして2012年からはシリアへと戦場取材は続いた。しかし、それは取材費との戦いでもあった。40万から50万くらいだという取材費はトラックのドライバーをして稼ぎ、お金が貯まれば辞める。「いつ戻って来られるか分からない。今の運送会社は14回くらい辞めているが、毎回働かせてくれて理解がある」と笑顔で語る。

 ジャーナリストが危険な地域に赴くことへの批判について桜木さんは、「もし何かあった時に批判に晒されるのかなという怖さはある。できる限り無謀なことはせずに、ちょっとずつステップを踏んで安全を確保した上で、取材はやっていたつもり」と話す。

■優しくしてくれるシリア人の声を伝えたい

 危険なシリアで取材を続ける理由について、「自分に対して優しくしてくれる。急に市街戦が起きると、周りの住民が『お前こっち来い、逃げろ』って引っ張ってくれる。食べ物がないときには、自分たちも大変なのにパンやチーズとかをくれる。外国人である自分に対する優しさに触れると、何とかまた行って、彼らの声を継続して伝えたくなる」と話す桜木さん。

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 「こんな言い方をすると誤解されるかもしれないが、シリアを取材して初めて、女性や子供、誰を殺しても許されるのが本当の戦争なんだと強く感じた。外からいくら『国際社会だ、人権だ、国際法違反だ』とか言っても、暮らしている当事者にとってそんなのは綺麗事」。

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 そんな経験から、日本で子どもたちが安心してはしゃぐ姿をみると、シリアの友人達のことが気になり、会いたくなるのだという。

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 「シリアではヘリの音が聞こえてくると、爆弾が落ちてくるかもしれないからみんな逃げる。日本は平和だと思う。今度は逆に向こうでの生活が恋しくなるというか、そこで暮らしている人たちに会いたくなる。過酷な環境で暮らしているが、みんな生き生きしている。学校に爆弾が落ちて、たくさん子どもが亡くなっているけど、それでも子どもたちは無邪気に笑っている。弟を戦闘で亡くしたり、爆弾で家族を亡くしたりした戦闘員も、武器をとって戦っている。亡くなった人たちの気持ちを背負っているのか、生き生きしている」。

堀潤氏「ものすごく価値の高い映像だ」

 CNNが配信した映像には、政府軍が反体制派・自由シリア軍の支配地域で大規模な作戦を開始した様子が映っている。その一方で、桜木さんが反体制派・自由シリア軍に従軍して撮影した写真には、アレッポで戦っている戦闘員たちの様子が写っており、「内戦が始まるまでは、普通の学生だったり、エンジニアだったり、本当に普通に働いている人たち」という人々の素顔が読み取れるようだ。

 「やっぱり非常線の外からじゃ見えない、そこからの情報では満足できない。銃撃戦が起きた現場では、軍が非常線を引いてそれ以上中に立ち入れないようにする。メディアも。でも自分はその非常線を何とか突破できないかと思って抜け穴を探して入ったりするが、捕まってボコボコにされたりした」。

 こうした活動から、桜木さんは『シリア 戦場からの声』を出版、2016年、山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞した。

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 『8bitNews』を主宰するジャーナリストの堀潤氏は、桜木さんの活動に「頭が下がる。マスメディアの記者はなかなか行かない、行けない、行かせないようになっている。実を言うと、フリーランスの皆さんが撮ってきたものを出す場所さえ限られている。だから日本には伝わらない。だから前提知識もなければ、実感もわかない。桜木さんの映像はものすごく価値の高いものだ」と賞賛していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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