デビュー戦にして引退試合という、きわめて特殊な闘いがガンバレ☆プロレス(ガンプロ)のリングで行なわれた。

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(大会エンディング、憧れの対象から師匠になった大家とガンプロの仲間たちに囲まれた星野。)

12月20日の新木場1st RING大会、第4試合に登場した星野真央はガンプロ生え抜きの新人で、もともと大のプロレスファン。ガンプロも観戦していた。水泳で全国大会に出場するほどのアスリートだったが、容姿に自信がなく、華やかなプロレスの世界に飛び込むことを躊躇してきたという。

しかし、ガンプロの代表兼エースである大家健の「100やりたいことがあったら、俺は100できると思ってる。なんで他の人ができないかというと、できないと思うからだ」という言葉に影響を受け、新人オーディション参加を決意したそうだ。

熱心な練習ぶりは関係者も認めるところだったが、オーディション参加時点で29歳。両親の反対もあり、話し合いを重ねた結果、デビュー戦を引試合として行なうことになった。

対戦相手は、通っていたプロレス教室の講師であるチェリー。ガンプロユニバース(ファン)、つまり仲間たち、友人たちの大声援を受けて闘う星野に、チェリーは厳しい攻撃を加えていく。場外戦を仕掛ける場面もあった。これは、最初で最後の試合となる星野に、プロレスラーにしかできない経験を一つでも多くさせたいというチェリーの“親心”だったのかもしれない。

重量感のあるエルボーやタックル、ミサイルキック、フィッシャーマンズ・スープレックスを見せ、能力の高さを感じさせた星野だが、最後はチェリトーンボムでスリーカウント。しかし一番の必殺技を繰り出したところにも、チェリーの気持ちが表れていると言えるだろう。

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(攻撃の迫力はかなりのもの。デビュー戦で大きな可能性を感じさせたが、これが引退試合でもあった。)

引退セレモニーのテンカウントゴングを聞いた星野は、リングを降りる際、投げ込まれた紙テープを何本か切って持ち帰っていた。星野曰く「私はもともと紙テープを投げる側の人間なので。本当に励みになりました」。紙テープを投げるファンが込めている思いを自分のこととして知っているからこその、一生の思い出。それが、手の中で握りしめてクチャクチャになった黄色の紙片だった。

この日、メインイベントでは大家が佐々木大輔を破り、インディペンデントワールド世界ジュニアヘビー級王座を奪還。ガンプロ史上でも屈指の激闘だったが、勝った大家がこの日の“主役”に指名したのは星野だった。大家はエンディングで他の選手とともに星野をリングに上げ、さらに大会後に客席で行なわれる「集会」にも呼び込んだ。

B’zの「BAD COMMUNICATION」が流れる中、観客がリングを囲んでマットを連打するエンディングと、選手がそれぞれの思いを吐露し、ぶつけ合う「集会」はガンプロ名物。そこに参加してこそのガンプロ所属レスラーということだろう。「お前(星野)は引退したってガンバレ☆プロレスだから」と大家。締めのコール&レスポンス「We are ガンバレ☆プロレス!」も星野に任せた。

観客の「真央!」コールの中、大会は終了。プロレスラーとして過ごした時間は1日だけだったが、「この1年、人生で一番頑張ることができました」という星野真央は、確かに夢を叶え、ガンプロの歴史とユニバースの心に鮮やかな足跡を残した。

文・橋本宗洋

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