NHK、専門チャンネル、ネット放送。各局で放送される将棋対局番組において、重要なポジションなのが「聞き手」だ。番組冒頭から進行役を務め、対局が始まれば解説とともに、対局の展開はもちろん棋士の棋風やエピソード、さらには解説の棋士や自らの話も披露し、視聴者へと提供していく。他のテレビ番組にたとえれば、MCそのものだ。聞き手は一般的に女流棋士が務めるが、AbemaTV「花の三番勝負 白黒はっきりつけましょう」の第3局に対局者として登場する中村桃子女流初段は、「名聞き手」の1人に数えられている。
目の前で展開する対局を、専門家である棋士に真横でリアルタイムに解説してもらう。女流棋士にとって、聞き手は実に「役得」だという。「聞き手は楽しいですよ。お仕事としても楽しいのですが、自分自身の勉強になるので。対局を見ながら隣で棋士の先生が解説するのを、一番近くで聞けるわけですから」と、仕事と研究が兼ねられる。もちろん視聴者の立場になり、自分が聞きたい内容よりも低いレベルの質問をすることもある。「分かりやすくお伝えしないといけないので、そのあたりの難しさはありますね」と、質問の出し方にも技術がいる。
聞き手には、解説する棋士の長所を引き出す役目もある。パスを出さずとも、どんどん自分でシュートを決めるような棋士であればよいが、なかなか自ら前に出るタイプでない場合は、聞き手によるお膳立てが必要だ。「解説の先生にもいろいろな方がいらっしゃるので、常にその方たちの話を引き出したいなという気持ちでいます。しゃべりが得意でない方であれば、しゃべれるような環境を作れればと思います」と、サポート役に徹している。
対局番組の主役が当然「対局」であるだけに、なかなか評価されにくい聞き手だが、うれしい瞬間もある。「視聴者のみなさんがどういう要望を持っているのか、常に気になっています。解説で組んだ先生に『やりやすかった』と言われるとうれしいですね」と目を細めた。
長い対局となれば12時間以上の生放送もある将棋の対局番組。局面が動くのは少なければ60~70回、多くても200回はなかなか超えないだけに、聞き手と解説のトークが番組の大半を占めると言ってもいい。その結果、聞き手や解説をきっかけに棋士のファンとなることも多い。「名聞き手」と呼ばれる人がより増えてくれば、対局番組の可能性だけでなく将棋界の未来も大きく広がってくる。
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