街で見かける美容室「EARTH」の看板。人気の秘密は「安さ」と「営業時間の長さ」、そして「技術の高さ」だ。シャンプーの種類は豊富で様々な香りを16種類備え、お客さんが気に入れば購入も可能にしている。個人経営が多い中、この「EARTH」を全国展開する企業が「アースホールディングス」だ。創業から約30年、スタッフは約2800人、236店舗の系列店を持つこの巨大美容室チェーンを率いる人物が國分利治、59歳。"ちょいワル"という言葉が似合う風貌の男だ。
杉並区の閑静な住宅街にある、プールとジャグジーを備えた「10億円御殿」の窓からは川沿いの桜が一望でき、景観は旅館のパンフレットのようだ。極めつけは200人収容可能な大ホール。全国からオーナーや店長が集まり、研修が行われる。他にも茶室やキッチン、バス・トイレ付きの社員寮が7部屋存在する。フェラーリなどの高級外車も複数台所有し、「フェラーリは4600万円。僕が乗って、フランチャイズオーナーに譲っている」と話す。
元々は自身も美容師だった國分。まさに「ジャパニーズ・ドリーム」を体現したと言っても過言ではない経営者だ。その半生と、経営哲学に迫った。
■20万枚のチラシを配った雇われ時代
1958年、福島県に生まれた國分。中学卒業時はまだ朴訥さが残っていたというが、高校を卒業する頃には一転、"やんちゃ"に。学校ではケンカばかり、19歳の時はリーゼント、やがてアフロヘアーに。卒業後、地元企業に勤めるも約1年で退社し、上京した。母親が読んでいた「女性セブン」の美容師募集のコーナーがきっかけで、東京の美容院で見習いとして一途に仕事に明け暮れた。帰郷するのは年に一度、正月だけ。
当時付き合っていた女性には、「5年間東京で勉強して、経営者になるくらいになったら福島に戻って結婚しよう」と約束した。しかし、3年目の帰京時、「ごめん、婚約した」と打ち明けられてしまう。その失恋をバネにトップを目指し努力を積み重ねた。
そんな國分の超人的な働きぶりを表す逸話がある。店長を任されていた頃、なんと20万枚のチラシを配ったのだ。「マンションに片っ端から投函して、新宿南口で自分の手で配った。管理者なんで責任があった」。
そして、500万円を元手に、勤めていた店の近くに居抜き物件を見つけて独立に踏み切った。30歳、EARTHの前身となるヘアサロン「BE BORN」の創業だ。
しかし、オープン当初から悩みは尽きなかったという。8人のスタッフでスタートしたものの、"バックレ"が相次いだのだ。「入ってきても続かない。朝来て“お昼の買い物行ってきます”と言ってそのまま帰っちゃう。最短だと朝礼にやってきて、営業が始まったって思ったら、いないということもあった」。従業員が定着せず、他店のヘルプで店舗運営をするという人手の自転車操業状態だった。
当時の美容業界は体育会系だったと振り返る國分。声出しも行われ、時には「声が小さい!」と怒号が飛ぶこともあった。そこで参考にした手段が、大手コンビニやハンバーガーショップといった異業種の運営方法。「それまで勉強はまったくしてきませんでしたから(笑)。従業員が定着しなくなったり、逆に店長に登用して信用していたのに辞められたり。それを解消しない限り同じことが続いてしまう」と危機感を覚え、片っ端から経営に関する書籍を読み漁った。
セブンイレブンの鈴木敏文氏や日本マクドナルドの創業者・藤田田氏などの著書に触れ、「創業者のマインド、気持ちがないといけない」と感じるようになったという。そこから導かれたのが、社員のモチベーションを維持することの大切さだった。
「お客さんに勧めたシャンプーを気に入ってもらって買ってくれたら、売上の25%を支給する。するとスタッフがセールスをしていく。さらに頑張ったらハワイに行ける」。そんな施策も導入した。今も物販やシャンプーの指名などの成績が良かった新人のうち、上位10名を海外に連れて行く。
■愛車のフェラーリを駆り、各地の店舗を視察。トイレ掃除も
全国を忙しく飛び回る國分の1日に密着した。11月某日午前6時、東京都立川市。まだ夜が明け切らない中、EARTHグループの236店舗目の立川店は開店準備に追われていた。新店オープンの日には必ず駆けつける國分と全国からのオーナーや店長が集結し、初日を祝う。
「オープンする時はお客さんゼロだから、まず来てほしい。だから地域で一番安い値段にする。カットなら1900円」。
立川店の開店祝いが終わると各店舗の視察に繰り出した國分。愛車のフェラーリを駆り、栃木県、茨城県周辺の店舗に顔を出す。店舗周辺の市場調査も兼ねる。「チェックするのは美容室だけじゃない。ナショナルチェーンの動きを見ているんです。全国展開しているお店が新しくできたり、クローズしたりする流れを見ている」。店に着くと、挨拶もそこそこに足早に店内を巡回。お客さんの目に触れる部分はもちろん、トイレやバックヤードまで念入りにチェックしていく。不備があれば写真を撮ることもある。
一般的に美容院をゼロから始めるとなると、小さいお店でも1000万円程度の初期コストがかかるという。そこでEARTHでは、フランチャイズによるオーナー制度を採用。低リスクで自分の店舗を持つことができるようした。中には22歳でオーナーになった社員が2人もいるというから驚きだ。現在、93人のオーナーたちがそれぞれの個性を発揮、同じデザインの店舗は無い。これこそ、「統一を目指さず、個性を伸ばす」というアースホールディングスの社訓に込められた精神なのだ。
國分は「経営者として店舗運営するオーナー、僕と同じ人達が93人いるっていうこと。やっぱり開業には700万円用意しないといけないですからね。22歳で700万用意できるのはすごいですよね」と目を細める。
来年、創業30年を迎えるアースホールディングス。「ワンブランドでは日本最大」という規模まで拡大できた要因は何なのか。
創業を思い描く若者たちに贈る言葉はあるかと尋ねてみると、返ってきたのは「3年間は休み無しで働け!!」というメッセージだった。「経営者になりたいんだったら、まずは休み無しで働いてみるのが必要ですね。それができれば経営者になっても成功できると思います」。
19歳で経営者を夢見て福島から上京しておよそ40年。自ら率先してトイレ掃除をするほどの行動力と、外車やご褒美旅行など、使うところには大胆にお金を使い、やる気を促す気前の良さ。そんな彼を周囲の人々は「社長として自ら率先して行動していくところ」「非常に尊敬できる」「その1軒1軒のオープニングセレモニーに必ず駆けつける。全国を駆けずり回っていて尊敬できる」と称賛する。本社内にある研修室では、今日も若い従業員たちが全国から集い、次のオーナーを夢見て奮闘する。
「100年、200年続く企業にしたい」。國分社長率いるアースホールディングスは全員野球で進化を続ける。(AbemaTV/『偉大なる創業バカ一代』より)