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 「犯罪白書」(法務省)によると、刑法犯の検挙人員数はこの10年で減り続けている。その一方、刑務所を出所して再び罪を犯してしまう「再犯者」の数は横ばい状態だ。そんな再犯の防止に率先して取り組む経営者たちがいる。27日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、そのうちの2社を取材した。

■「職に就くことで納税者に変わる」

 再犯時に無職だった人の割合は全体の4分の3。お金を稼ぐことができず、再び犯罪に走るケースも少なくない。さらに刑務所に入所している人は5万1175人、その経費は1人当たり年間300万円かかっており、実に約1500億円もの税金が毎年受刑者に使われているのだ。

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 大阪を本拠地に全国展開するお好み焼き専門店「千房」。今年から店で働き始めたAさん(仮名)は、詐欺と有印私文書偽造の罪で、約1年4か月にわたって少年院に入っていた。先輩の手伝いだと思って始めたのが、実は振り込め詐欺の"受け子"で、関わってしまった事件の被害額は億単位にのぼったという。

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 Aさんのような人たちの受け入れを行う同社の中井正嗣社長は「罪はあかん。あかんが咎められない。職に就くことがいかに急がれるか。何よりも職に就くことで納税者に変わる。これは大きな差がある」と話す。

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 2009年ごろから出所者雇用をスタートさせ、2013年には関西に拠点を置く企業に声をかけ「職親プロジェクト」を発足させた中井社長。これまでに全国90社、内定も含めて137人を雇用してきた実績がある。こうした民間の動きに政府も動き出した。今月15日に政府は「再犯防止推進計画案」を閣議決定、職親プロジェクトと協力関係を結ぶ法務省の上川陽子大臣は20日、「国としてもしっかりと取り組む決意と具体的な行動をしていきたい」と述べている。

■「お客さんが怖がってきてもらえない。会社がつぶれる」という意見も

 「以前、おふくろが私に"お前がまさかこうなるとは思わなかった"と言った。私のことを誰よりもよく知っている親ですら、成長は分からない。人間は無限の可能性を持っているのだなと思った。色々な人たちに目をかけてもらって、支えてもらったおかげで今がある。経営も人の教育も、"マラソン"ではなく"駅伝"だ。自分のしてもらったことを次にバトンタッチすることが大事だ」と話す中井社長。

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 しかし、出所者の採用を提案したところ、企業内での意見は真っ二つに割れた。

 「"そんなのを採用したらお客さんが怖がってきてもらえない。会社がつぶれる"という意見や、"応援してくれる人がいるかもしれない"という意見。しかし企業としては間違いなく善。最終的に社長が全責任を取るということで、前代未聞だが刑務所で募集を出した。私と人事部長で4人、90分ずつ面接して、その場で2人に内定を出した。2人には残念ながら内定を出せなかった。ただ、面接では全員に泣かされた。全て家庭が崩壊した子どもたちだった。みんなグレているかと言えば、決してそうではなく、罪を100%咎めるということはできなかった。90分も面接したらだめですね。情が移ってしまうから。今は30分にしています」と振り返る。出所後、不採用の1人は訪ねてきてくれて、もう1人は手紙を送ってくれたという。

 これまで採用してきた出所者について中井社長は「やはり一筋縄ではいかない。正直、人材にはむらがあって、出勤してくれただけで、"よく出勤してくれた"というような人もいる。しかし、罪を犯した人を長続きさせるためには、のっけから厳しくしても付いてこず、失敗する。寄り添っていかないとだめだ。彼らを迎え入れることで、会社が全体的にやさしくなった。活気に満ち溢れるお店になった」と話す。

■病身を押して受刑者との面接へ

 こうした受刑者支援の波は社会に広がりつつある。北海道の企業で唯一、職親プロジェクトに参加している北洋建設の小澤輝真社長は「ほとんど無理だろう。日本では前科があるだけで雇わない」と話す。

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 北洋建設は1973年の創業当初から、刑務所が近かったという理由で出所者を雇用してきた。先代社長である父親の遺志を継いだ小澤社長は、雇用先を地元から全国へと広げていった。現在、同社の従業員数は60人で、その内17人が元受刑者だ。

 「月に40万から50万円、全部自腹で行っている。(受刑者の採用に)今まで2億円はかけた」。そう話す小澤社長、実は5年前、難病の「小脳変性症」に罹患。小脳が萎縮、言語障害や体の機能障害が現れ、余命宣告も受けた。1人で歩くこともままならない中、車椅子で受刑者たちとの面接に飛び回る。

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 「色眼鏡で"元犯罪者を入れるな"と言われると困る。しかし頑張る人が多いから問題ない。1割でも残ってくれれば、普通の人よりも頑張るから。殺人未遂を犯した人間もいるが、すごく反省して罪は償ったが、背負っていくと。それもちゃんと見ないといけないと思っている」。

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 詐欺罪で服役した元受刑者のBさんは「手元におカネがないことで悪いことをしないように、給料から毎日2000円を前払い。しかも、千円札2枚ではなく2千円札を1枚。2千円札なら自販機で使えないから、人に払う形になる。2千円札を使う人は珍しいから顔を覚えられて、悪いことができない。社長の思いやり」と話す。上司はBさんの働きぶりについて「今のところいい。配達の仕方とか全部教えて戦力だ」と評価する。

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■刑務所に残る課題

 「犯罪白書」によると、検挙された人の半数以上を占めるのが窃盗だ。以下、暴行、横領、障害、詐欺、器物損壊、住居侵入、強制わいせつと続いていく。再犯事情に詳しい林大悟弁護士は「窃盗は再犯率が非常に高い。手口もカギを開ける技術など職業的になっていくので、くせになってしまうケースも多い。依存症としての万引きも知られていて、利害得失を超えてやってしまう。私の依頼者にも、20代のほとんどを刑務所で過ごして、30代で妊娠中にまた万引きをしてしまった人もいる」と説明する。

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 「職親プロジェクト」では、殺人、薬物、性犯罪、幼児虐待などを除き、出所者を受け入れている。中井社長たちが特に注力するのが、こうした軽犯罪の再犯者への支援だ。刑務所では規律正しい生活習慣の体得、心の育成、作業、勉強などの矯正指導が行われるものの、なかなか結果には結びついていないという。

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 林弁護士は「法務省も力を入れてやっているが、施設内でできることにも限界がある。例えば全ての人が性犯罪プログラムを受けられるわけではない。重症な人への対策が漏れてしまう制度の欠陥も指摘されている。経済的な困窮、依存症的、認知症など、様々な背景がある窃盗に対しても体系的なプログラムがない」と指摘する。

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 日本には現在76の刑事施設(刑務所、少年院、拘置所)がある。例えば山口県の美祢社会復帰センターは、民間と国の協働刑務所だ。受刑者たちはここで出所後を見据えた職業訓練を受けており、介護やパソコンなど、昔に比べ内容も充実してきているという。しかし出所しても仕事に就けないのが日本社会だと話す人もいる。

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 中井社長によると「矯正施設で色々な話をするが、言われるのは予算と人が足りないこと。しかしその中で改革していかないといけない。我々民間とも一緒にやっていこうという段階。刑務所は罪を償う場なので、被害者がいることも忘れてはならない」と話す。

 「少年院で講演したとき、"なぜ、私たちのような人間を採用されるんですか"と質問された。"なんか問題ありますか?"と即答した。確かに罪を犯しました。でもそれは過去。社会に出て、また罪を犯すつもりですか?違うでしょう。これから頑張ろうと思っているでしょう?受刑者の受け皿は社会だ。受刑者に対する社会の偏見を少しでも緩和できたらといい」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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