年末に東京ビッグサイトで開催された"オタクの祭典"・コミックマーケット、通称"コミケ"。3日間で約55万人が駆けつけ、作品は飛ぶように売れ、華やかなコスプレイヤーたちが華を添えた。
1975年の初開催時の参加者は700人ほどだったというが、今では年2回(8月・12月)開催され、来場者は過去最高で59万人を数える国内最大級イベントへと成長を遂げた。その経済効果は、約180億円にも上ると言われている。
叶姉妹が出展、歌手の神田沙也加が自身の手がけたアルバムをPRするためコスプレで登場するなど、オタク界のイベントにとどまらないコミケ。ネット上には「参加するにはオムツが必需品」「赤字作家が8割」「転売ヤーが暗躍している」などといった噂が飛び交う。4日に放送されたAbemaTV『AbemaPrime』では、真偽を確かめるべく、関係者に話を聞いた。
■トイレに1時間待ちの長蛇の列待ちも
そもそもコミケは同人誌の展示即売会。グループ・個人問わず、作品を頒布する出展者は「サークル」と呼ばれる。ジャンルも様々で、アニメや漫画・ゲームを題材に、オリジナルのストーリーを描いた作品が多いのが特徴だ。中には少しエッチなBL(ボーイズ・ラブ)ものから、ラブドールの写真集など、異色な作品も。
今の時代、ネット経由で作品データを購入するのも簡単だが、なぜあえてコミケに出展するのだろうか。8年連続コミケに出展している、漫画・シナリオ研究家でライターの染宮愛子氏は「読者にとっても、『前回のお話面白かったです。頑張ってください』というメッセージも直接伝えられる」と話す。
人気サークルともなると2、3時間待ちは良くあることで、トイレも1時間待たされることもあるという。参加者の中には、コミケ名物のこの「長い行列」に対応するため、オムツを着けて挑む人もいるという都市伝説も。また、会場内の銀行ATMにも長蛇の列ができ、過去には中身が空になってしまう事態も発生したことがあるという。染宮氏によると、近くのコンビニでは、おにぎりやウイダーインゼリー、冬ではホッカイロなどを大量に仕入れるのだという。
■「二次創作」というそもそもグレーな領域に挑むコミケ
会場で頒布されている作品にはオリジナルのものもあるが、多くは既存のアニメや漫画などを題材にしたものだ。原作に登場するキャラクターなどを用いてその後のストーリーを描いたり、好きなキャラクター同士をカップルにしたり、多様な作品が生み出されている。しかし、既存のキャラの複製・販売、あるいは不特定多数に公開し、利益を上げる「二次創作」と呼ばれる行為で、著作権侵害にあたるグレーな部分も持つ。また、同人誌だけでなく会場を華々しく彩るコスプレイヤーの衣装も、実は広い意味では二次創作にあたる。
参加者に聞いてみると「同人活動自体は結構グレーなところがあるかなと思う」「そこを突っ込まれてしまうと難しい話になってくる。僕の口からは詳しくは…」とはっきりしない回答が返ってきた。
二次創作について版権元である企業側はどのように捉えているのだろうか。サークルが出展しているブースのすぐ隣にある、原作を手がける制作会社の企業ブースで聞いてみた。
テレビアニメ『SHIROBAKO』など、数多くのアニメ作品を生みだす「P.A.WORKS」の長谷川健氏は「やっぱり一緒に盛り上がっていければいいなと思うが、問われればNGと言うしかないので、お互いに相手が嫌がることはやめてっていうことで。もちろん作っている側としてはファンの活動は嬉しいものなので、お互いにうまくやっていければなというのが切に願うところ」と話す。
『STEINS;GATE』などのゲームを手がける制作会社「MAGES.」の清水優太氏は「作品を愛してくれることによって二次創作が広がっていくと思っている。ユーザーの皆さんと盛り上がっていくのであれば、それはそれでいいのかなと思う。コンテンツにもよると思うが、『私たちの関知ないところでぜひ広げてください』という感じ」。
このように「二次創作によって作品の知名度が上がる」という相乗効果への期待を寄せる企業の多くは寛容だが、「聞かれれば断らざるを得ない」というのも事実だ。
染宮氏も、「利益を得ようと考えたりとか、必要以上に有名になってしまうと問題になるが、pixivなどのイラストサイトにファンが作品をアップすることで、逆に原作の人気が上がっていくこともある」と話す。
日経ビジネス・企画編集センタープロデューサーの柳瀬博一氏も「例えば『3月のライオン』の羽海野チカさんや『大奥』のよしながふみさんは、『SLAMDUNK』の二次創作を2人並んで売っていたという。あるいは80年代前半、SFフィルムのイベントで『帰ってきたウルトラマン』の二次創作をやっていた当時無名の大阪芸大の学生こそ、庵野秀明監督。そうした場所にいた人たちの中から新しい才能が生まれ、日本のアニメや映画の重鎮になっている」と指摘した。
■黒字作家と赤字作家の境界線は?売上よりも交流
一方、参加者たちにとっては切実な問題もある。それが「転売ヤー」の問題だ。会場で話を聞くと、「転売ヤー爆発しろ!慈悲はない!って感じ」「めっちゃやめてほしい。困る。転売はイヤ」と怒り心頭。
コミケに出品される作品の多くは自費出版であることから、多くても在庫は3000冊程度。そこに目をつけた悪質な転売ヤーが、売れ切れてしまった人気作品をネットで高額転売しているのだ。中には、定価の倍以上の金額で取引されているものも。
過去に転売された経験をもつ出展者からは「違法アップロードをしないでほしい。(作者に)お金が発生せず、違法アップロードサイトだけが儲けることになってしまう。正しいお金の循環があってこそ、新しいものが面白いものが生まれる」と訴える。
経済効果は約180億円とも言われるコミケだが、参加者の8割が赤字だという話もある。
通算8回目の参加だという「声優文化研究会」の深澤真啓さん(大学2年生)と、10回は参加しているという「さーくるゆたっと。」のゆう。さん(電気工事士)に話を聞いた。
まずは大学生の深澤さん。コミケの3日前、サークルのメンバーと作った、熱い愛に溢れた「推し声優本」の原稿を手に、制作の最後の工程である印刷・製本作業へ向かうも、データの不具合で印刷ができないというトラブルに見舞われた。結局、1枚5円の見込みが1枚8円かかり、出展までに印刷代1万2千円と出展料1万円の合計2万2000円の費用は全てメンバーから集めた部費でまかなったという。
開始から5時間後、深沢さんの売り上げは合計2700円で赤字。それでも「『こういう本を探してたんだ』とおじさんが言ってくれた。こういうことを言われると作っている側としては本当にうれしい」。
中学生の娘の影響で声優の同人活動を始めたというゆう。さんは、「声優さんがラジオ・雑誌・イベント・ブログで実際にしたお話を漫画化してファンの方に見てもらう」というコンセプトの漫画で出展。全てフルカラーのものを750冊準備した。かかった費用は「印刷費とキーホルダーの製作代に参加登録料。合わせて40万弱」。全て自腹だという。
そんなゆう。さんのところには開始直後から行列ができ、3時間でほぼ完売。サインを求められるほどの人気だった。黒字分となったのは10万円弱で、次回の資金に回すという。
染宮氏はサークルの売上について「100部売れたら大成功。コミケでは100部売れない方が半分以上いる」と話す。日経ビジネス・企画編集センタープロデューサーの柳瀬博一氏は「出版社が出す一般の文学作品の場合、決して無名でない作家でも3000部だったりする。そう考えると、100部、200部だったとしても、コミケで売るのがいかに大きいか」と指摘した。
2020年は東京五輪の開催時期と重なっていることから、会場の東京ビッグサイトが使えない可能性があるという予測までニュースに取り上げられるほど注目されたコミケ。その後、初の日程変更でGWに開催されることに無事決まった。染宮氏によると、そんなコミケの運営は「コミックマーケット準備会」というボランティア団体が担っており「ビックサイトを借りる関係上、法人化はしているが、参加スタッフはほぼ全員がボランティア」だという。様々な文化の発信源でもあるコミケ。これからさらなる発展が期待される。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)