この記事の写真をみる(12枚)

 9日、東京地裁に現れたサイボウズの青野慶久社長。「名前が変わるという精神的ストレスだけではなくて、経済合理性から見ても日本の損失になっていると訴えたい」「通称使用で困っている方々、別姓にした方々の旧姓に法的な根拠を与えてほしい。それだけでたくさんの人が救われる」として、国を提訴したのだ。

 2001年、結婚を機に妻の姓にした青野氏。男性が女性の姓に変えるケースは全体の4%ほどだというが、「世の中には旧姓で働き続けている人がたくさんいるし、『青野』を使い続けようと思っていた。妻が変えたくないと言うので、じゃあ自分が変えてみようかなと、気軽な気持ちだった」。

拡大する

 結婚して姓を変える場合には、銀行口座、運転免許証、健康保険証などの名義変更が必要になるなど、様々な手続きや不都合が発生する。青野氏も様々な問題に直面した。「銀行口座などの名前を変える手続きにウンザリしたが、びっくりしたのは証券口座。財産なので戸籍上の名前に合わせないといけないということだが、創業社長としてたくさん株式があった私は、名義変更に81万円かかった。しかも私ではなく会社に請求が行った」。

■"左翼""日本から出ていけ"という激しい批判も

 チームやコラボレーションを支援するツールを開発してきたサイボウズ株式会社。「世界中のチームワークをよくするというのが私たちのミッション」との青野氏が説明するとおり、手厚い育児休暇、自由な労働時間、在宅勤務、子連れ出勤制度など多様性に対応した職場環境を整備し、離職率低下を成功させた。昨年12月8日、青野氏は「一律な残業削減から多様な個性を活かす、そういう働き方改革にシフトしていくこと。一人ひとり事情が違う。別姓の話も同じだ。同姓にしたい人は同姓にすればいい。別姓にしたい人は別姓にすればいい。ここに選択肢があって、それぞれが自分らしい人生を歩めるようにする。それを理想にシフトしていきたい」とも語っていた。

拡大する

 今回、青野氏ら4人の原告は「戸籍法の不備による不平等が憲法違反」と主張、法の不備が放置されたことで生じた損害賠償220万円を請求している。あくまでも青野氏が個人として提起したもので、サイボウズが関係するものではない。「応援の声が圧倒的に多い」というが、"売名行為""みみっちい""ケチ""左翼""日本から出ていけ"など、激しい批判の声も寄せられているという。

拡大する

 2年前、民法が定める"夫婦同姓"の規定は憲法違反に当たるとした訴訟で最高裁は合憲との判断を下し、原告の訴えを退けている。青野氏らは、なぜ再び同じような訴訟を起こしたのだろうか。果たして勝算はー。12日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では青野社長と担当弁護士を直撃した。

■「法の欠缺」を突いた新たなアプローチ

 青野氏ら原告側は今回、「法の欠陥」を突いた新たなアプローチで闘うのだという。

 「今までの夫婦別姓は男女の問題として捉えられがちだった。民法を問題にした2015年の最高裁判決では、15人の裁判官のうち10人が違憲ではないと判断したが、3人の女性判事は全て違憲だと判断していた。つまり男女で偏った判決ではないかという印象を受けた。今回はそうではなく、単純に戸籍法に不備があって損害が出ているということ。男女のことは全然関係ない」(青野氏)。

拡大する

 現行の戸籍法では、日本人と外国人とが結婚する際、自分か配偶者の姓を選ぶことができ、離婚する際も同様だ。しかし日本人同士の場合、離婚する際は姓を選べるが、結婚する際は姓を選ぶことができない。原告側はこの点を問題視、戸籍法が個人の尊厳と両性の本質的平等を謳った憲法24条2項、また法の下の平等を謳った憲法14条1項に反しており、さらに国会の立法不作為が国家賠償法上の違法にあたると主張しているのだ。

拡大する

 「日本人同士の結婚の場合の法律が足りていない、"法の欠缺(けんけつ)"ということ。それを立法機関である国会がサボってきたことで損害が生まれたので、補償してほしいということだ」(青野氏)。

拡大する

■「より進んだ形の夫婦別姓だ」

 元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏はこの主張について「夫婦別姓には賛成だが、基本的に日本国憲法は日本人に適用されるもの。また、日本人と結婚した外国人が日本の戸籍法上で姓を変えないといけないという規定にすると、その国の決まりや条約との関係にも影響を与えることになる。法律を作る際には、憲法違反がないか厳重にチェックするので、この規定にはそれなりの理由があるはずだ」と指摘する。

拡大する

 原告側弁護人である作花知志弁護士は「国側も宇佐美さんと同様の反論をしてくるのではないかと予想している。しかし、今回の比較対象は、"外国人と結婚した日本人"と"日本人と結婚した日本人"であって、外国人と日本人との比較ということではない。また、民法が問題になった際は、夫婦が別の姓になるのはよくないのではないかという意見もあったが、今回は"戸籍法上の氏を名乗らせてほしい"という裁判。通称として使っている事実上の氏に法律上の根拠を与え、使わせてほしいという裁判。ある意味で夫婦別姓であり、夫婦別姓でないような、より進んだ形の夫婦別姓だ」と説明する。

拡大する

 「簡単に説明すると、民法750条では夫婦になろうとする者の一方が法律上の氏を変える義務を負うと定めている。逆に離婚した場合、結婚の時に氏を変えた方が旧姓に戻すと定められている。しかし、例えば一生懸命に論文を書いた大学の先生が、いきなり旧姓に戻されてしまうと、検索できなくなってしまう可能性がある。そういうことを防ぐために、民法といわばコインの表裏の関係にある戸籍法によって、民法が義務付けてしまっている部分を、"戸籍法上の氏を名乗る"という形で解消できる規定を設けている。それが日本人同士の結婚の場合、民法ではどちらかが氏を変えることが義務付けられているにも関わらず、戸籍法はケアしていない。それが合理性のある区別なのかというのが、今回の裁判の最大のポイントだ」(作花弁護士)。

■「個人的にはいけると思っている」

 裁判の勝算について「私は2015年の最高裁判決と同じ日に判決が出た、"女性の再婚禁止期間が憲法違反ではないか"、という裁判を担当していた。無事に違憲判決が出て、そのご縁で今回の依頼を頂いた。あの時、マスコミも含め周りの方々には"憲法違反はなかなか出ないから、やっても無駄なのでは"とも言われていた。しかし私の心の中の正義を示す羅針盤は、違憲判決が出ると感じていた。今回も同じような感覚があるので、個人的にはいけると思っている」と自信を覗かせる作花弁護士。

拡大する

 仮に違憲判決が出た場合、戸籍法の改正が迫られることになるが、「その場合、戸籍法に追加すればいい条文は『結婚で氏を変えた方で旧姓を戸籍法上の氏として使いたい方は届け出なさい』ということだけ。それで日本で起きている様々な夫婦別姓の問題は解消できる」とも指摘した。

 青野氏は「昨年の夏、作花先生からこのロジックを聞いて、飛び上がりたいほどの感激を覚えた。原告を探しているという聞いて、ぜひ協力させて頂きたいということになった」と明かし、「民法では婚姻について、お互いに責任、義務が発生すると書いてある。その名簿をどう管理するかというのが戸籍法。ここさえ変えてしまえば、選択的夫婦別姓が簡単に実現できるというのが今回の提案。民法、憲法と上位にいけばいくほど影響範囲が広くなってしまうので、戸籍で選択できるようにするだけで、社会的にも楽な形で新しい未来にシフトできるというのが今回の提案。今までのように感情論で選択的夫婦別姓を認める、認めないではなくて、大きな損害が実際に出ている、国家的に大きな金額になっていることをまずは理解して頂ければと思う」と訴えた。

拡大する

 宇佐美氏も作花弁護士の説明に「目からうろこ」だとし、「家族制度の根幹に関わるかもしれない論点なので、官僚では決断できない話。議員立法で変えるべき問題だが、それも慣習を重視する人がいるので絶対にまとまらないだろう。違憲判決は難しいかもしれないが、司法が国会に強力な圧力をかけてほしいと思う」とコメントした。

拡大する

 裁判に向けた決意を問われた青野氏は「裁判で闘うという形になったが、もっと早く進めようと思えば国会議員が動いて立法してくれればすぐに終わる話だ。ぜひ世論を形成したい。署名キャンペーンもやっているので賛同頂ければ」と呼びかけた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶『AbemaPrime』は月~金、21時から放送中!

「AbemaPrime」の検索結果(放送予定の番組) | AbemaTV(アベマTV)
「AbemaPrime」の検索結果(放送予定の番組) | AbemaTV(アベマTV)
「検索」では気になる番組を検索することが出来ます。
【無料】AbemaPrime - Abemaビデオ | AbemaTV(アベマTV)
【無料】AbemaPrime - Abemaビデオ | AbemaTV(アベマTV)
見逃したAbemaPrimeを好きな時に何度でもお楽しみいただけます。今ならプレミアムプラン1ヶ月無料体験を実施しています。
AbemaNewsチャンネル | AbemaTV(アベマTV)
AbemaNewsチャンネル | AbemaTV(アベマTV)
AbemaTVのAbemaNewsチャンネルで現在放送中の番組が視聴できます。
この記事の写真をみる(12枚)