麻雀ファンの間では、超デジタル派として知られる小林剛(麻将連合)。1000点、2000点とアガリを重ねて勝利する様は、ボクシングでジャブを繰り出し続け、ハードパンチャーを封じる試合によく似ている。「8000点のアガリを1000点で防げば9000点分」と徹底した小林イズムの根幹に迫った。
「役が確定している状態の10枚のほうがすごく戦いやすいんです」。七対子と国士無双以外、誰もが4メンツ1雀頭で1つ以上の役を目指していく。しかし小林の場合は、役牌を鳴いて、3メンツ1雀頭でアガリを目指す「10枚麻雀」が基本。10枚で戦うとなれば、選択肢もかぎられ、押し引きも手順も間違えにくいため、手詰まる前にアガれるというのだ。「むしろ鳴かずに13枚ベースで戦う方がすごい」とさえ思っている。
手詰まりを恐れる人は多いが、10枚でも13枚でも守備となれば、当たらない牌を必死に選択する状況には変わりはない。「たとえ手詰まってもなんとか凌げます。たまにフリ込みますけど」と放銃率もさほど変わらないと断言する。
「やっぱり優勝したいですね」とRTD出場3年目に対する思いは強い。そのためにも、これが得だと思える最善の打牌をしていくわけだが、小林の得に対する基準は、トータルで考えたときに点数が増えるであろう判断となる。点数が増えれば平均順位もよくなり、結果的には勝ち上がる可能性が高くなると、至ってシンプルな計算方法のもとに戦っている。だがなぜかよく「変だ」と言われるらしく「みんなもったいなくて鳴けないんでしょうね」と自身の損得基準を変えるつもりはない。ただ昨年は展開に恵まれすぎたと振り返り、今期はもっと苦しみながら前に出る局面は増えると予測している。
“麻雀サイボーグ”とも言われるメンタルに関しては「元々鈍感なのか、正直何があっても気にならない」という。たとえばリャンメン選択で切った方をツモってきたとしても、やっちゃった!ではなく、選択した過程の中で起きた現象なので当然と受けとめ、それで感情が揺れる人の方が不思議と感じている。アマチュアに対しても「麻雀は思い通りにはならないことが大前提」と考えることが大切だとアドバイスを送る。アガれるのは4回に1回程度、その中で理想的な満足のいくアガりなんてまず出来ない。しぶしぶとかしょうがないが現実で、会心の3メン待ちでも負けることはざらにある。そういう認識でいれば、負けることすら気にならない。メンタル術というより、捉え方こそが重要としている。
「基本は10枚でどう戦うのか。僕にとっては門前のつもりで戦っています」というが、鳴かないことももちろんある。「鳴かないときには必ず理由があります」それは点数状況なのか、手格好なのか、そういった部分も楽しんでもらいたい。
いい偶然も悪い偶然も楽しむのが麻雀であり、むしろ悪い偶然のほうが多くて当然。「そんな悪い偶然に慣れている“鈍感力”を見て欲しいですね」と少しだけはにかんだ。【福山純生(雀聖アワー)】
◆小林剛(こばやし・ごう)1976年2月12日、東京都生まれ、AB型。麻将連合μ所属。第3回野口恭一郎賞、第3・7・9期将王、第1・2期天鳳名人戦。著書は「スーパーデジタル麻雀」「麻雀技術の教科書」(井出洋介プロと共著)。異名は「スーパーデジタル」。
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