声優のオーディションにもかかわらす、声を聞かせることもなく、書類選考だけでライバルに合格通知が来て、主人公の岸田ケンゾウ(亀田侑樹)が憤慨する――。AbemaTVで放送されるドラマ『#声だけ天使』には、こんな場面が描かれている。良質な声の演技を求める声優ファンとしては、さすがにこれは大げさで、あくまでもドラマの演出であってほしいと願うが、声優に声以外の要素が求められていることは確かだ。
![声だけで勝負するのは難しい時代なのか バラエティ番組に進出する声優たち](https://times-abema.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/724w/img_62eb9ee73f3e1f0ebbd11323e8dc9461209604.jpg)
かつては裏方だった声優業
かつて声優は、表に顔を出すことはない「裏方」の仕事だった。洋画の吹き替えなどは昭和の時代から行われていたが、「せいゆう」と言えばスーパーマーケットの「西友」で、声優という職業があることさえ、あまり知られていなかったのだ。声優の演技を耳にしても、一般には「この外国人の俳優は、日本語がうまいねぇ」「アニメのキャラクターがしゃべっている」程度の認識だったのではないだろうか。
そうした認識が劇的に変化するのは、平成に入ってからのこと。1990年代に起きた「第3次声優ブーム」がキッカケだとされる。アニメやゲームのタイアップなどで、声優がステージに上がる機会が急激に増加。それに伴い、『声優グランプリ』などの声優専門誌も創刊されることになる。
そうした流れが現在も続いているのだが、近年大きく変化したのは、アニメに対する世間の評価だ。1980年代後半に起きたある残忍な殺人事件で、その犯人が「オタク」だったいう報道もあり、当時のアニメは、子供を除けば一部のマニア向けという印象だった。しかし、いまやアニメはクールジャパンの旗手。声優人気に拍車を掛けることになる。
芸人さながら、バラエティ番組に進出する声優たち
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現在の声優は、ステージ上で歌やダンスを披露するだけでなく、独特なパーソナリティを発揮することも必要とされている。例えば、チバテレビで放送された『アニメ星人 ~ときめきレシピ~』では、声優が2組で料理に挑戦。その合間には、芸人さながらの笑いが求められることもあった。また、AbemaTVで放送中のバラエティ番組『松井恵理子・松嵜麗の声優アニ雑団』では、声優の2人が司会を務めている。
松井恵理子さんと松嵜麗さんは、ともに『アイドルマスター シンデレラガールズ』ほか、多くのアニメ作品に出演している女性声優だ。さまざまなゲームやアニメ作品で主要キャラクターを任される。それだけの実力があることは前提だが、声優としての演技力や知名度だけでなく、プラスアルファの個性も司会に求められる要素となっている。
例えば松井恵理子さんの趣味はマージャンで、特技はトランペット。このような、人に「おっ?」と思わせるプロフィールはトークをする上でフックになることもしばしば。『声優アニ雑団』でも、学生時代に吹奏楽部でトランペットの練習に打ち込んだ話を披露している。松嵜麗さんは、ヤクルトスワローズの熱狂的なファンとしても知られる。野球をテーマに話ができることはもちろん、『れい&ゆいの文化放送ホームランラジオ!』という野球メインのラジオ番組でパーソナリティを務めるほか、野球好きとしてインタビューを受けるなど、仕事の幅を広げている。声で満足な演技ができることは当たり前。声優業界で生き抜くためには、“プラスアルファ”が必要な時代なのかもしれない。
『#声だけ天使』の主人公・岸田ケンゾウは、“ボイスサービス”という独自アイデアで声の勝負に打って出る。ストイックに声と向き合おうとするケンゾウにどんな試練が待ち受けるのか、今後の展開から目が離せない。
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文/渡辺文重
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