いきなり、若い力士たちが土俵の上で行司さんを胴上げする! 栃ノ心の優勝で幕を閉じた大相撲初場所。その千秋楽中継を見ていて、ビックリした方もいるだろう。

 激しい闘いが終わり、表彰式も終了。やれやれ、これで終わりかな?と思ったら、急に若い力士たちが土俵にぞろぞろ集まり、呼び出しさんの拍子木に合わせてパパパン、パパパン、パパパン、パッと手打ち。そして、やにわに若い力士たちが行司さんを胴上げする。実はこれ、「出世力士手打ち式」~「神送りの儀式」という、千秋楽で最後に毎回行われている儀式なのだ。

 「出世力士手打ち式」は、その場所デビューしたフレッシュな力士たちが土俵に上がって行うもの。彼らは番付表に四股名も載らないままに「前相撲」と呼ばれる取組を行い、それで「新序」と呼ばれ、翌場所からは番付の最下位「序の口」にその名を連ねて行く。 この初場所でデビューを果たした納谷や豊昇龍が、まさに今場所で前相撲を取った新序たち。「出世力士手打ち式」に、もちろん参加していた。

 それが終了すると、今度はそのまま「神送りの儀式」が始まる。こちらは幣(ぬき~お祓いをするときに持つ白い紙の付いたアレです)を捧げ持った行司さんを、新序力士たちが胴上げする。これは本場所が始まる前日に行われる「土俵祭り」という儀式で土俵にお迎えした神さまを、「ありがとうございました、無事に終わりました」と感謝を込めて天にお送りする、とっても大切な意味があるのだ。よく「大相撲はただのスポーツではなく、神事でもある」というのを耳にするだろうけど、こうした儀式がまさにそれの表れ。

 さて、場所前に行われる「土俵祭り」は、もっと厳粛な空気の中で行われる。立行司(たてぎょうじ・行司の位の一番高い人)が2人の行司を従えて祭主を務め、儀式は30分ほど。土俵上で様々な祈願などが行われ、中でも「方屋開口(かたやかいこう)」という、土俵の由来や五穀豊穣の祈りを述べるのには注目してほしい。

 実はこの「方屋開口」にこそ、大相撲のあるべき姿や意味が短い文章の中にリズム良く全て込められていて、聞いていて心地よく、ピンっと背筋が伸びるような清冽な響きがある。大相撲とは何か?をこれを聞くと分かる気がするのだ。

 その後、土俵の中央に開けられた穴に「勝栗、洗米、かやの実、するめ、塩、昆布」などを埋める。「土俵には昆布やするめが埋まってるって本当?」とよく聞かれるけど、本当なのだ。もちろんこれらも「鎮め物の儀」と呼ばれ、うやうやしく行われる。

 かつて、日本を始めとする東アジア各国では1年の豊作と平和を祈って、身体強健な若者たちを集めた格闘技が古くから行われたという。身体をぶつけあうことで災厄を祓い、福を招きよせると信じられていた。それが徐々に発展し、形を変え、江戸時代に今に通じる様式が確立していく。

 大相撲は今も祈りと、そして江戸時代に構築された様式美を、伝統として大切に守っている。そうした伝統文化としての側面を理解すると、大相撲の楽しみ方がまた広がっていくのだ。【和田静香】

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