アメリカの科学誌が先月25日、地球最後の日を午前0時として残り時間を概念的に示す「世界終末時計」を“残り2分”とした。これは冷戦期だった1953年と並んで過去最短となる。理由は北朝鮮の核開発による緊張感の高まりなどだ。
そんな中、フランスのマクロン大統領は「すべての国民を対象にした徴兵制度に向けて取り組む。これは確実にしっかり実現させる」と発表した。フランスでは15年以上前に廃止されていた徴兵制度を復活し、18歳から21歳の男女に対し“1カ月の兵役”という形で導入を目指すとみられる。
フランスが徴兵を行う理由のひとつがテロ。2015年には週刊誌本社などが襲撃され17人が犠牲になり、同じ年のパリ同時多発テロでは130人が死亡。さらに翌年、ニースで86人が亡くなった大型車暴走テロなどが相次いで起きた。
また、スウェーデンでは徴兵制を約7年ぶりに復活させることを決め、18歳の男女4000人を徴集。ロシアへの脅威に対抗するという。
外国からの脅威を感じているのはスウェーデンだけではない。北朝鮮は2017年、弾道ミサイルを15回発射。先月11日には中国海軍とみられる潜水艦が尖閣諸島の接続水域を航行した。菅官房長官は「中国が日中関係改善の流れを阻害することのないように強く求めていきたい」としている。
迫りくる海外からの圧力。日本に徴兵の必要はあるのか。国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏が『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)で現状を解説した。
■原宿の若者50人、徴兵制には全員「反対」
徴兵制を採用している主な国は韓国、北朝鮮、ロシア、スイス、オーストリア、イスラエル、マレーシアなど。一方、アメリカやイギリス、イタリア、インドなどは志願制を取り入れている。
ただ、徴兵制のある国の人が他国の軍へ志願する例もあるという。モーリー氏は「アメリカには、軍隊に入れば一定期間の後はアメリカの市民権がもらえるシステムがある。例えば語学特技者、語学の特技を持っている人は優先的に軍が採るが、その語学部門の志願者の30%は韓国人だった。若い韓国の人が、アメリカ国籍に移った方が自分の将来に未来があるだろうと。場合によっては戦争に行くためリスクは大きいが、それでもアメリカに行きたいという人はこのシステムを使う」と説明する。
今回、フランスのマクロン大統領が徴兵制度復活を示した狙いは、徴兵期間1カ月という短い期間で、訓練よりもテロなどを背景に若者の危機意識、愛国心を芽生えさせる側面が強いと言われている。
また、永世中立国のスイスでも徴兵制をとっているが、2013年に徴兵制の存続を決める国民投票が行われた。「他国から現実の脅威にさらされているわけではない。金の無駄遣い」という声があがっていたが、結果は70%以上が徴兵制廃止に反対し否決された。
では、日本の若者は徴兵制にどのような考えを持っているのか。原宿の男女50人に「徴兵制度に賛成か反対か」を聞いたところ、結果は全員反対。若者からは次のような声があがる。
「自分の国を守る意味でいいのかもしれないけれど戦争やるよ、いつでも戦争できるよみたいな感じは自分が嫌」
「僕たち若者からしたらいい迷惑ですよね。自衛隊いるじゃないですか」
「そこまでする必要性が日本にあるのかな。自衛隊はじゃあ何のためにあるのかなという部分もある」
「今徴兵制度があったら自分が年代的に絶対に行かないといけないんで、命にかかわることなのでイヤだなと」
「憲法第9条の意味がなくなっちゃう」
「徴兵制度があることによって愛国心が養えるみたいな、そういう面では賛成でもいいと思うんですけど、ただ個人的には徴兵制度行きたくないんで反対」
そもそも徴兵された場合どのような任務に就くのか。外交や安全保障に詳しい軍事アナリストの小川和久氏は次のように説明する。「部隊の中ではいろんなお仕事がある。精鋭部隊がテロ対策で出て行ったあと、大きな組織の中で部品をちゃんと供給したり、あるいはご飯も作ったり、洗濯もしなきゃいけない、いろんな物の整備もしなきゃいけない。そういう仕事は徴兵で来た人だってできないわけじゃない。頭数が必要な面もあって、その人たち(プロの軍人)が戦いやすいように後方支援をするのは、まだプロになっていない人たちでもできる」。
徴兵制から生まれる他国への抑止力については「(徴兵制によって)人数は集まるし、健全な形の軍事組織を維持できる。訓練が終わって軍隊に残る人もいるけど、一般社会に戻って職業に就いている人もいる。ただ、予備役の様な格好で軍人の資格は持っているから、いざ国が危ないという時に招集をかけると、台湾の場合は48時間で100万人集まる。それを一年に何回か訓練して、実際に集まることを(他国に)見せる。これは国民的抵抗の意思を示していることになる。あの国に攻め込んだらタダじゃ済まないなと思わせてためらわせる。だから抑止力になる」と述べた。
■兵役経験者が語る徴兵制の是非
では、実際に兵役に行った人は徴兵制をどう思うのか? 韓国出身の男性、台湾出身の男性2人に話を聞いた。
韓国陸軍で国境警備に携わった権珍虎(クォンジンホ)さん。「(徴兵の)ハガキが届く前までは実感が無いが、ハガキが届いた日はもう(実感が)グッと来た。入ってまずは新兵訓練といって6週間くらい厳しい訓練をさせられる。それを経てパソコンのルーレットでくじ引き。僕の場合は運が良かったのか悪かったのか最前線に就いた。実弾と手りゅう弾2個を朝起きたらつけていた。事故もあったりして、ちょっとした不注意、自分の不注意じゃない別の理由で事故になってしまう。目の前に北朝鮮の軍が見えていたから、(北朝鮮の軍が)いるという危機感は常にあった」と当時の心境を振り返る。
徴兵制度については「経験しちゃった自分に対しては賛成と言えるが、自分の子孫に対しては反対。良い経験をしたと思うが、例えば息子が同じ経験をしなきゃならないってなったら、もう心配」と語った。
一方、台湾陸軍で情報伝達部隊にいた曾國イさん(イは王へんに韋)。「(兵役に行ったことで)規則の勉強と体力がけっこうついた。あとは集団行動の重要さと災害救助の基礎など、経験しないとできなかったこともある。あとはいざ戦争になったら家族を守りたいという気持ちが芽生えた。負けないで生きて帰ってこられたらと思ったりもする」と徴兵による利点に言及。
一方で徴兵制度については「総合的に判断すると徴兵制はいらないかな。普通にその11カ月で就職して働けたなと思うと少しもったいない。規則で頭を刈ることも嫌だった」と反対意見を述べた。
モーリー氏は「日本では憲法で徴兵は禁止されていると考えていい」としつつ、最後に“別の視点”を養う必要性を訴えた。
「僕らは日本の平和教育を受けた。そうすると徴兵される側の視点から考える。ところが(徴兵を)する側の視点を学んでいない。戦争しなくちゃいけないとか、部分的に紛争で押し返さなきゃいけないという決定をする人の視点は『自国の国民何人の命をすりつぶして国全体を守るか』という駆け引き。だから、政府の側とか政治家からみた戦争とは何なのか。それがいいことだ、悪いことだと僕はジャッジしたくないが、そういう視点を持つとなぜ徴兵制があるのかわかりやすくなると思う。今までになかった視点を養うといいかもしれない」
(AbemaTV/『けやき坂アベニュー』より)