
「世の中、右利きだと思わないでほしい。左利きもいるから左利きの理解をもうちょっと広めてほしい」。
「お前らも一回、左利きになったほうがいいぞ。そうしたらわかるから」。

2月10日は、そんな怒れる"左利きグッズの日"だ。この記念日を制定した神奈川県の文房具店「菊屋浦上商事株式会社」の店内には、左利き専用アイテムのコーナーが設置されている。自身も左利きの浦上裕生社長は「2月10日の頭に0をつけると0210でレフトになるので制定させていただいた。右利きの人は右利きの社会の中でしか生きてないと思うが、左利きの人もいるんだよ、とちょっとでも気にかけて欲しい」と話す。

世界の人口の約10%、血液型AB型の人とほぼ同じ割合で存在する左利き。レオナルド・ダ・ヴィンチやエジソン、アインシュタインなど、左利きには器用で天才肌、というイメージもある。しかし左利きの人たちは「左利きで良かったことは特にない」と、むしろ"右利き中心社会"に怒りを覚えているようだ。

まず聞かれたのが、字を書く際の不満。「ノートを書くときに手のひらの側面が汚れた」「100マス計算するときに、左側の数字が見えなくて、1回1回手をずらさないとダメ。それで秒数が遅くなっていった」。そして駅の改札。ICカードをタッチしたり切符を入れたりするとき、左利きの場合は腕を身体の前でクロスさせる格好になり、通りづらいのだという。「改札に一つだけでいいから左利き用を作ってほしい」。

ファミレスのスープバーのお玉も、左利きの人にとっては大変なストレスだ。「先端が細く注ぎ口になっているおたまは、右利きの人じゃないと使えない」。これがどれほど大変なことなのか、右利きの人が左手で使い、脳波を測定してみた。すると、確かにうまく注ぐことができず、緊張や注意、興奮を示すメーターがMAXに振り切れた。

「急須でお茶を淹れづらい」「外食の際、隣の人と腕がぶつかる」「ネックレスの留め具が止めづらい」「ブラジャーのホックを留めづらい」…中には右利きが気づかない、意外な不満も。マジシャンだという男性は「左利きの人はトランプを広げると数字が見えなくなる」と指摘する。実はトランプも、右利き用にできていたのだ。

■左利きは寿命が短い!?
そもそも、なぜ半々ではなく、10%の人だけが左利きになるのだろうか。総合内科専門医のおおたわ史絵氏は「実はあまり分かっていない。だが50万年も前から左利き人口の比率は変わってない。遺伝が関係しているのかも、という程度で研究が止まってしまっている。両親共に右利きの場合、子どもが左利きになる確率は10%だが、片方の親が左利きの場合は17%と、両親共に左利きの場合は25%になるという研究結果はある」と話す。

「脳も右左に分かれていて、言語や理論を司っている優位半球と呼ばれる"利き脳"がある。右利きの9割は左脳が利き脳で、左利きの6割ぐらいは左脳が利き脳。あとは右脳が利き脳とか両脳利きという人もいる。利き脳によって利き手も決まってきているのではという説もある」。
さらに、左利きの人に追い打ちをかけるようなデータもある。「右利きに比べて、左利きは寿命が9歳短い」というのだ。

おおたわ氏はこのデータについて「権威ある学会誌に載った論文。社会が右利き用に出来ているからという仮説だ。例えば駐車場の券を取るときなど、左利きの方が偶発的な事故に遭う可能性が高いということや、日々のストレスがボディブローのように効いてきて、色々な病気になる可能性が少しずつ高くなる。それらを総合すると、おそらく寿命が9年くらい短くなるのではないかということ」と説明した。

また、かつては矯正すべきという考え方もあり、40歳以上の男性の約80%、19歳未満でも約30%の人が、右利きに改めるよう指導された経験があるようだ。"左利きトリビア"を集めた『左利きあるある 右利きないない』の著者、フリーライターの神田桂一氏も、矯正された経験を持つという。神田氏は「僕は書くのだけ右にされたが、結果的に両利きみたいになって良かった。受験勉強の時とか右で書きながら左手で消していた。結構便利だった」と肯定的だ。おおたわ氏は「もともと持って生まれた優位半球があるとしたら、それに反してわざわざ変えるというのは生理的に違う気がする」と指摘した。
■左利きに優しいグッズ、次々と
「製造業のみなさん、左利きの商品をもっと作ってください」「色々な会社が左利き用のものを増やしたら良いなと思う」「いろいろ使えるものを両利きOKにしてほしい」と、街の左利きたちからは真剣な願いも聞かれた。誰もが暮らしやすい未来のため、右利き社会をどう変えていけば良いのだろうか。
そんな声に応えるため、左利きに優しいグッズも徐々に増えてきている。例えば、数字が見えなくて困っていたトランプは、全ての角に数字とマークが描かれた両利き用が。そして、ノートに字を書いていくと手が汚れるという問題の解消のために、左手でこすってもインクがすぐに乾き、手につかない速乾性のボールペン「サラサドライ」が発売されている。さらにファミリーレストランの「ガスト」では、先端が尖っていないお玉を導入した。

おおたわ氏も「ユニバーサルデザインは大いにビジネスチャンス」と話す。そして、「私は矯正する必要はまったくないと思っている。そして左利きであることを不満に思って暮らしてしまうと、それだけストレスが悪さをしてしまう。"別にこんなのへっちゃらだよ"くらいの気持ちで、開き直ることが大事」と語っていた。
この週末、右利きの人は左利きの人が暮らしやすい社会について思いを寄せてみてはいかがだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)