かつてはDDT界隈でも屈指のうだつの上がらなさで知られたレスラー・大家健が旗揚げしたガンバレ☆プロレス(ガンプロ)には、「笑われてるのにヘラヘラしながらごまかすのをやめた」という大家の磁力に引かれるようにさまざまなレスラーが集まってくる。一癖も二癖もあり、かつ挫折の経験がある、くすぶったレスラーたちだ。
(勢いに乗って大家も長渕キック&長渕ムーブ)
そんな選手たちが不器用ながらも闘い、逆上し、号泣し、時には脱線しまくったあげくに怒涛の盛り上がりと謎の感動を呼ぶ。それがガンプロ最大の魅力だと言える。
ガンプロは、常に自分たちを見下してくる人間に立ち向かってきた。現在の敵は勝村周一朗率いる勝村軍(仮)。総合格闘技の老舗・修斗で世界王者となり、指導者としても名を馳せる勝村は、プロレスデビューするとガンプロの世界観を愛して用心棒的な存在となっていた。
しかし昨年末、ガンプロ内にも「強さ」の競い合いを持ち込むべく大家に反旗を翻した。何度負けても「最後に勝てばいいんだ!」と泣き叫び、自分が勝つと抗争終了となる大家の身勝手さも指摘。完全に図星だったが、そこで腰が引けるガンプロ勢ではないし、負けを認めるわけにはいかない。「俺たちが弱いことなんて知ってるよ!」と言う大家たちは、またしても強い敵に立ち向かう。
2月11日の王子ベースメント・モンスター大会で、大家は今成夢人と組み、メインで勝村&ブラック・リベラと対戦した。勝村が連れてきた謎のマスクマン、リベラ。その意味が「とんぼ」であると知った今成は、試合前から「誰の許可を得てとんぼ名乗ってんだ!」と挑発していた。曰く「俺の中でとんぼって言ったら長渕剛さんのドラマなんだよ!」。
そして勝村&リベラ攻略のため、長渕が「とんぼ」で見せた“長渕キック”を使うと宣言。入場セレモニーでの今成の解説によると、長渕キックは相手を蹴った勢いで自分もよろけてしまうのがポイント。「それくらい遠心力が効いてるんだ!」と今成は言う。
(「勝村コラ!」と長渕キックを繰り出す今成。しかし蹴るたびによろけてしまうためフィニッシュには至らず)
ガンプロに慣れていないとリアクションに困るであろうこの新技だが、実際に試合でも威力を発揮。今成は何度も長渕キックで窮地を脱出してみせた。さらには大家もジーンズ(試合コスチューム)のポケットに手を突っ込んでヨタりながら長渕キックを連打。マニア度の高いガンプロユニバース(ファン)を熱狂させていく。
最後は今成がリベラに敗北。勝村には「言い訳してあったかいお客さんに同情してもらえ」と吐き捨てられたガンプロ勢。今後は新人の鷲田周平、フリーの織部克巳も加わって反撃を狙うことになる。
この結果に、ユニバースも悔しさを共有しつつ、しかし大会そのものは堪能していた。大家の入場曲「BAD COMMUNICATION」が流れる恒例のエンディングでは、リング上の翔太がリードする形でB'zをバックにした「ツヨシ!」コール、そして「ヨーソロー!」コールも発生。試合に負けても自分が舵を取り続けるガンプロイズムによって、今回も強引な盛り上がりで満足させられてしまう大会となった。
文・橋本宗洋
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