AbemaTVで放送中のオリジナルドラマ『#声だけ天使』(全10回)は、声優専門校を舞台に、夢追う5人の友情と純愛、挫折と希望を描く青春群像劇だ。いまや声優は人気職業の1つだが、声優になるために通う声優専門校の実態はどうなっているのか。声優専門校の真相を知るため、生徒を直接指導する講師に話を聞いた。
ボイストレーナーとしての中ノ森文子

バンタンゲームアカデミーの声優学部には、歌唱を指導する授業もある。いまや声優は歌えて当たり前なのだ。講師を務めるのは、中ノ森文子さん。中ノ森さんは、2004年にガールズバンド「中ノ森BAND」を結成し、2005年にボーカル&ギターとしてメジャーデビューを果たした。解散後はソロシンガーとして活躍。最近では2016年に発売されたシングル『Hello,Mr. Wonder land』が、TVアニメ『カードファイト!! ヴァンガードG NEXT』のオープニング主題歌となった。
このように、中ノ森さんはシンガーとしてのイメージが強いが、ボイストレーナーとしても、すでに10年近く活躍している。ボイストレーナーを含め、ボーカルディレクションや楽曲提供といった、サポートに回る仕事も行っている。そうしたボイストレーナーとしての実績もあり、バンタンゲームアカデミーで歌唱指導することになったと振り返る。
学校の生徒たちに教えるという挑戦
中ノ森さんが普段指導しているのは、すでにデビューしているシンガーや、事務所などから指導を頼まれた声優など、ある一定の技術ややる気を備えたアーティストたちだ。一方、バンタンゲームアカデミーの声優コースには、これまで一度もボイストレーニングを受けたことがない生徒もいれば、声優を目指す上で歌唱をそれほど必要と考えていない生徒もいるだろう。そして何より、20人ぐらいの生徒を同時に指導することは、中ノ森さんにとって未経験だったはずだ。しかし、中ノ森さんは、だからこそ興味があったと話す。「自身のティーチングやコミュニケーション能力も向上すると思いました。何より、いまの子供たちはどのような感性を持っているのか知りたかった」と、講師の仕事を受けた理由を説明する。
まずは1年間の基礎トレーニング
中ノ森さんによる指導の様子を実際に見学させてもらった。高等学院2年生の授業で、このクラスは男子が4人、女子が12人だったが、男女比はクラスや学年でバラバラなようだ。校内にチャイムが鳴り響き、50分間の授業が始まる。最初の10分間は発声練習。その後、生徒たちは足下に敷いていたマットを片付け、椅子を用意する。その間、本日の課題曲が流れる。
生徒に歌唱させて指導するのは2年生になってから。中ノ森さんによれば、最初の1年間は発声などの基礎トレーニングを重点的に行うとのこと。もちろん生徒によって技量に差はあるものの、どんな生徒でもまじめに1年間トレーニングを受ければ、ある程度の音域や声量を得られるという。ちなみに中ノ森さんは成績を付ける時、そうした技量差にも配慮する。つまり、“どれだけ成長できたか”も、評価の対象となっているのだ。中ノ森さんは生徒の前でキーボードを弾きながら、実際に歌ってみせるなどして指導する。最後は生徒全員が円になり、課題曲を合唱。自分が声を出すだけではなく、周りの音を聞くことも重要なのだという。中ノ森さんは円の外から、時には生徒の間に入り、生徒たちがどのような声を出しているかを確かめていた。
生徒が成長するために必要なこと

講師の仕事を受ける時、「いまの子供たちはどのような感性を持っているかを知りたかった」と話した中ノ森さんだが、実際には「世代や年齢はあまり関係なかった」と話す。その一方で「目標の高さ」により、生徒の姿勢は大きく異なると感じているようだ。生徒の姿勢といえば、中ノ森さんの授業で、大きな声で積極的に歌っている生徒は前の方、やや自信なさげに見えた生徒が後ろの方にいる気がした。こうした席順は決まっているのだろうか。中ノ森さんは、混声合唱や3部合唱の場合に生徒の場所を調整することはあるが、基本は自由だと説明する。
「前にいる生徒たちに対して『近すぎるから、ちょっと下がって~!』と言うことはありますが、後ろにいる生徒に対して『前に来なさい』とは言いません」
この言葉には、中ノ森さんの指導方針の全てが詰まっている。中ノ森さんはボーカリストとしても、20人以上のボイストレーナーに指導を受けてきたものの、多くの場合に「違和感」を覚えることもあったと振り返る。それだけに中ノ森さんは「自身が感じた“違和感”をおぼえる授業はしたくない」と話す。さらに「生徒を怒ることは、ほとんどない」とも言う。生徒に対して何かを押し付けたとしても、それでは意味がない。生徒が成長するためには、自分から楽しむこと、すなわち自主性が必要という方針なのだ。ただ、中ノ森さんは、こうも話してくれた。
「席順って、最初に決まると、なかなか変わらないもの。それに、後ろにいて消極的だなと思われている生徒も、授業が終わると、積極的に質問をしてくることがあります。なんだ、こんなに積極的なんだと驚かされることもあります」 最初は全く声が出ていなかった生徒も、積極的に声を出せるようになる。個々の差はあれど、生徒たちがそうした成長を見せることに、中ノ森さんはやりがいを感じているようだ。
現在放送中の『#声だけ天使』も、年齢も環境もバラバラな生徒たちが「声優になる」という夢を追いながら日々奮闘している様子が描かれている。少人数制のクラスの授業の様子や、先生からの指導風景、またオーディションの様子も詳細に描かれており、実際の声優学校と重ねて見るのも面白いのかもしれない。
(C)AbemaTV
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