(昨年のライブ以来となる中野サンプラザ前にて。中野以降、レスラーとしての見え方も変わってきた)
東京女子プロレスのリングで、常に話題と波紋を呼び続けているのが伊藤麻希だ。福岡のアイドルグループLinQの元メンバー。昨年は福岡市民会館、中野サンプラザでのライブを成功させたが、「再開発プロジェクト」の一環で卒業し、新グループ・トキヲイキルに加入している。
アイドルとして激動の1年、レスラーとしては着実に成長を見せ、狂気の域とも言える気合いの入った闘いぶりと炎上上等のマイクアピールで存在感を増していった。昨年8月の後楽園ホール大会で初勝利、今年の“イッテンヨン”決戦では男色ディーノとのシングルマッチで強烈なインパクトを残している。
2月18日の東京女子プロレス・新木場1st RING大会はAbemaTVで生中継、さらに3.25DDT両国国技館大会出場も決まった伊藤に、アイドルとして、レスラーとしてのこの1年あまりを語ってもらった。
(聞き手・橋本宗洋)
――伊藤さんは2016年12月にプロレスデビューしたわけですが、そこから今まで、本当に激動でしたよね。
伊藤:そうですねぇ。
――LinQが大きいライブ(福岡市民会館、中野サンプラザ)を成功させたんですが、「再開発プロジェクト」ということで伊藤さんは卒業となりました。
伊藤:やめると思ってなかったですねぇ。ずっといると思ってたんで。
――チケット500枚売ったんですけどね、伊藤さん。
伊藤:そうですよ。かわいそうじゃないですか。
――そこから、卒業メンバーで新たに結成されたエンターテインメント集団・トキヲイキルに入る形で。
伊藤:何もやってないですけどね。みんな福岡で、伊藤だけ東京だし。トキヲイキルは7人なんですけど、普段の6人から私が入って7人になると、ダンスのポジションから歌割りから全然変わっちゃうんですよ。それをやってまで私がたまに入るっていうのもどうなのかなって思いますね。2018年は、今のところアイドルとしての仕事が一つもないです。番組出たりもプロレスラーとして。あとお芝居のお仕事は増えましたけど。
――よりレスラーとしてエネルギーを使う状態ですか。
伊藤:試合数も増えたじゃないですか、東京女子の。だから忙しくなってはきてますね。練習して試合して、たまに芸能関係の仕事してってやってると、そんなに暇ではない感じで。
――LinQを卒業したことで、レスラーとしての意識が変わったところもありますか?
伊藤:それはないかな。「アイドルだから」で許してもらえるものがなくなるのはヤバいかなって一瞬思ったけど、もともとそんな中途半端な気持ちではやってなかったのを思い出して。(卒業しても)大したことねえなって。
――5月に福岡市民会館と中野サンプラザのライブがあって、初夏くらいから試合ぶりが変わってきた印象があるんですよ。LinQとしてのクライマックスを超えて、より意識がプロレスに向いたのかなと。
伊藤:それは多少あるかもしれないですね。あと、その頃からとにかく「勝ちたい」っていう気持ちが強くなってきて。
――そこで試合の熱が一段階上がった気がするんですよ。
伊藤:お客さんの声もあるんですよね。「次は勝ってね」っていう。その時は「まかせて!」とか言いながら、それが達成できてない自分がイヤで。
――期待に応えられてないと。
伊藤:それでジムに行って筋トレとかもしたんですけど「これは必要なのか?」と。体を鍛えて、派手な大技を出すのは伊藤のプロレスじゃないような気がして。筋トレはダメでしたね。やっててもすぐ「無理だ!」ってなっちゃうし。人に見られてないと頑張れないので。道場での練習以外でやってるのはランニングくらい。あれはなんか、走ったあとにスッキリしますね。
――現在はレスラーとして2年目に入ってます。実際、手応えもあるんじゃないですか。
伊藤:1月4日(後楽園ホール大会)の男色ディーノ戦があったじゃないですか。あれでまた新しい景色が見えた気がしたんですよね。いいスタートというか、流れに乗ってるなって。
――反響も大きかったですよね。
伊藤:試合終わってから、ずっとエゴサしてたんですよ。「伊藤麻希やべえ」みたいなのがバーって並んでで凄いと思いましたね。いつも見ない名前も多かったですね。
――それだけ広く見られていたと。試合内容についてはどうでした?
伊藤:死ぬ気でいってもなかなか倒せないんですよ。技が効かないっていうか。重いから投げられないし。それでも必死でやってるうちに……なんか出ましたね(笑)。思ってる以上のものが。
(1.4後楽園大会でのディーノ戦では逆リップロックを敢行するなど、見る者を驚愕させた)
――逆リップロックまで出して。それが伊藤さんのファーストキスだったという。
伊藤:やっぱりディーノさん人気者だから、負けたくなくて。それで限界を超えられたっていうのもありますね。ちょっとでも気を抜いたら、全部あっちが持ってっちゃうじゃないですか。それが許せなくて。
――「さすがディーノ、アイドル女子レスラー相手にしっかり試合を成立させた」みたいな。
伊藤:そうそう(笑)。そうなるのは絶対イヤだったんで。そこがモチベーションでしたね。
――たとえ相手が男色ディーノでも試合の印象で上回りたいと。
伊藤:それはそうですよ。自分でも負けず嫌いすぎると思いますけど。
――アイドルでも、同じグループの中で「私が一番目立ちたい。輝きたい」っていう思いがあるといいますし。
伊藤:伊藤はそれが強すぎるんですよ。いい意味でメンヘラだなって思ってて。コンプレックスでもあるんですけど、承認欲求がもの凄いんですよ。毎回、試合のカードが出るたびに「絶対、自分が主人公になる」って決めてて。脇役になりたくないんですよ。相手が卒業試合でも。
――2月3日の練馬大会ではのの子さんの卒業試合の相手を務めましたけど「勝ち負けだけじゃなく、どっちが主人公だったかの争いでも負けない。空気を読まない」と言ってましたね。
伊藤:卒業試合だと、のの子さんが主人公って決まってるじゃないですか。伊藤は脇役で。そこが凄いモヤモヤして。「卒業する人にはおいしい思いさせないといけないのか?」って。そこで空気読まなかったら絶対嫌われると思って迷ったんですけど。
――でも、それを吹っ切ったと。
伊藤:というか、もともとそんなに好かれてねえなと。それを思い出したんで「もういい、人生棒に振ろう」って。結果、いい感じになったかなと思いますね。
――お互いの持ち味が出ましたよね。そういう我の出し方ができる、個人の頑張りが評価に直結するという意味でも伊藤さんはプロレスに向いてるんでしょうね。
伊藤:向いてましたねぇ。自分がいて対戦相手がいて、主役になるか脇役になるかじゃないですか、基本。それはいいですよね。
――グループで一緒に歌って踊って、そこで個性を出して光ろうとするよりはやりやすいと。
伊藤:LinQは大人数だし、立ち位置もあるじゃないですか。伊藤は立ち位置も悪かったから。
――いきなりハンデがあると。
伊藤:だからMCとツイッターで主役になるっていうのが目標だったんですよ。でもプロレスはリングでもインパクトが残せるので。自分が自分に負けなければ。自分に負けたら終わりだなっていうのはいつも思ってますね。
――「今日は私は前半戦だし」とか「今日はどうやったってメインのタイトルマッチが目立っちゃうよな」とかは思わないですか。
伊藤:え? そんなの考えたことないですよ。初めて聞きましたよ、そんな考え方。伊藤は毎回、自分の試合がメインだと思ってるから。試合の中で主役になるし、大会でも主役になる。プロレスって、勝っても主役じゃない時もあるじゃないですか。勝ったってインパクト残せなかったら、それはつまんないレスラーだなって思うんですよ。今はそこを一番大事にしてますね。
〈プロフィール〉
1995年7月22日、福岡県出身。福岡のグループ・LinQの2期生としてアイドルに。同グループは2017年8月に卒業。“クビドル”を名乗る。現在はエンターテインメント集団・トキヲイキルに所属。プロレスラーとしては2016年12月にDDT福岡大会でデビュー、以後、東京女子プロレスにフリーとして参戦し、今年1月4日の男色ディーノ戦でもインパクトを残した。
(C)DDTプロレスリング
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