(頭突き、ドロップキックなど技の数は少ないが気合いで相手も観客も圧倒するのが伊藤のファイトスタイル)
アイドルながらプロレスラーとしても存在感を増し、ファンも増加中の伊藤麻希は、超満員の興行が続く東京女子プロレスの“顔”の1人と言える。
マイクアピールや試合後のコメントも波紋を呼びがちな伊藤。先日もAKB48グループのメンバーが出演するドラマ『豆腐プロレス』のリアル興行にも噛み付いた。その“炎上上等”ぶりはどこからくるのか。一方で伊藤は「死にたくなったら伊藤を見ろ」という力強いメッセージも発している。東京女子プロレスの2.18新木場大会がAbemaTVで生中継、3.25DDT両国国技館大会にも出場と、これからさらに飛躍していきそうな伊藤にインタビューしてみた。
(聞き手・橋本宗洋)
――伊藤さんは試合だけでなくマイクアピールやコメントも印象的ですよね。「死にたくなったら伊藤を見ろ」、「明日も生きてていいかなと思えるくらいの勇気はあげられる」という。
伊藤:自分も毎日、しんどい思いしてますからね。お金がない時に働いたりもして。東京に来てから。
――LinQがいる福岡から離れてアイドルの仕事は減ったしプロレスも練習生で、みたいな時期ですか。
伊藤:マジでやってらんないですよ、仕事。自分が悪くないのにクレームきたり、サービス残業もしたし、ボロ雑巾のように働きましたから。なのにもらえるお金は大した額じゃない。伊藤は一時期やっただけですけど、一般の人たちはそれが毎日続く日常じゃないですか。「こんなことしてたら気が狂うだろ!」って。福岡にいた頃は実家だから分からなかったですね、そういうことも。
――「みんな、こんなしんどい思いして働いてるのか」と。
伊藤:日本は狂ってるなと思いましたね。伊藤は政治家じゃないから社会を変えることはできないんですけど、人前に出る仕事である以上は希望くらいにはなりたいなって。なりたいっていうかならなきゃいけないですよ。伊藤の試合見て、次の日に元気出せるようにしたいなと思いますね。つらすぎますよ、日本。
――仕事の大変さで言えば、アイドルやレスラーだってクレームというか、それこそネットのクソリプも炎上もありますよね。
伊藤:あぁ、どうだろうそれは。結局それは伊藤に言ってくるじゃないですか。言われてるのは伊藤一人。「結局、私が主人公なんだな」って感じですよね(笑)。「やっぱりスーパーアイドルだなぁ」って。クソリプも炎上も伊藤がやったことへの反響なので。
――去年はドラマ『豆腐プロレス』に噛み付いて「アイドルがプロレスやるのに先輩の伊藤に挨拶がない」ってアピールしてましたよね。
伊藤:届けばいいな~と思って。届かなかったけど。
――今年も『豆腐プロレス』リアル興行の会見での込山(榛香)さんの発言に噛み付いて。他団体からの対戦要求があったら受けるかという質問に、込山さんが「受けます」と答えたと。
伊藤:そう言ったんだから受けろよって。
――去年の段階で伊藤さんが『豆腐プロレス』についてアピールしたこともあって、記者の質問になったと思うんですよ。伊藤さん自身は『豆腐プロレス』をどう思ってるんですか。あれはリングに“プロレスラー役”で上がってるものですよね。でも試合はしてて、複雑というか微妙なエンターテインメントで。
伊藤:「プロレスラー役です」って言われたら納得するんですけど、なんか「ガチ」みたいなことを言うじゃないですか。それはどういうことなんだと。
――告知でも「ガチ試合」って言葉が使われたり。
伊藤:「アイドルだからってナメないでほしい」みたいなことを言うので、じゃあナメないので試合しましょうかって。本気でやってるっていうなら、それがどれくらいのものなのか確認したいんですよね。本気でプロレスやる大変さっていうのは、自分自身が味わってきたことなので。まあ大手の方なので、こういう売れてないアイドルには触らないと思うんですよ。でも期待してる部分はあるし、受けて立つって言ってますからね。
――『豆腐プロレス』に出てる人たちも「アイドルだからって甘く見られたくない」、「プロレス界に失礼のないように」と思ってるんでしょうけど、その気持ちを確かめたいと。
伊藤:ホントそれだけですね。あと話題になりたいのと。話題になりたいのが8割(笑)。
――そういえば『豆腐プロレス』関連アカウントに直接リプライしてアピールしてるわけではないですよね。
伊藤:それをやったら本当に売れないアイドルじゃないですか。
――仕事の営業ではないと。
伊藤:スーパーアイドルなので。アピールはするけどオファーを受ける立場ですから。
――この件では炎上してないですか。
伊藤:逆に好感度上がってる気がしますね。「面白そう」みたいな声が多いですよ、伊藤に届いてくる範囲では。まあ自分のところに届いてこない悪口なんて、ただの独り言じゃないですか。それは何にも意味ないですよ。
――試合に話を戻すと、次回は2月18日の新木場1st RING大会。後楽園大会が好評だったのでAbemaTVで生中継されることになりました。
伊藤:広まってる感じはしますね。毎回、新しいお客さんが来てくれたり。
――あ、物販のチェキ会とかで分かるんですね。
伊藤:伊藤は誰よりも技術がないと思ってるんですけど、それなのに新日本プロレスのファンだっていう人が来たりとか。「お前、見る目あるな!」って(笑)。ツイッターのフォローもプロレスファンからが多くなりましたね。アイドルファンからは減りましたけど。でも新木場大会の中継を見た人はどう思うんですかね。後楽園は特別なカードだったけど、新木場はタイトルマッチはあっても普段の興行じゃないですか。
――それがどんなふうに見えるのかですよね。底力が問われるのかもしれない。伊藤さんは瑞希さんとの「伊藤リスペクト軍団」で才木玲佳&坂崎ユカ組と対戦します。
伊藤:元王者チームですからね。凄えカード組んできたなと思いますけど、それくらいでいいですよ。元王者くらいがちょうどいい。
――才木さんとは去年の1.4、それからタッグトーナメント1回戦でも対戦してますね。
伊藤:意外にやってますね。他のアイドルレスラーで「こいつやべえ」って思う人はいないんですけど、才木玲佳だけはちょっと気になるんですよ。自分とはやってることが全然違うんですけど。去年の1月4日に試合して、それから才木玲佳はチャンピオン、ナンバー1になったと思うんですよ。で、伊藤はオンリー1になったと思ってて。
――やり方が違うから気になるんでしょうね。伊藤さんと同じやり方の選手は誰もいないですけど。
伊藤:でしょうねぇ。運動神経が全然ないのに自信だけは凄いし。技の数も少ないんですけど、その分「この技といえば伊藤」ってなるのかなって。
――少ない技で試合をいかに盛り上げるのかもレスラーの能力でしょうね。
伊藤:そのほうがかっこいいと思うんですよね。派手な技をたくさん出したら、沸くのは必然でしかないので。それは普通のことですよ。
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――3月25日にはDDTのビッグイベント、両国国技館大会に出場します。まだカードは決まっていませんが、現時点での心境はいかがですか。
伊藤:大きい舞台なのは素直に嬉しいですね。DDTには個性的で素晴らしいレスラーがたくさんいるんですけど、伊藤の考えはいつもと変わらないです。どんなメンバーでもどんなカードでも主役になる。それしか考えてないんで。それは東京女子の王子大会でもDDTの両国大会でも一緒ですよ。そこで妥協はしたくないですね。
――シビアですね。
伊藤:負けたくないんですよ。他の選手にも負けたくないし、前回の自分にも負けたくないし。1回でも気を抜いたら、今まで自分がやってきたことが全部なくなっちゃうんじゃないかって。伊藤は自分で自分をカリスマ化しようとしてるので。
――活躍した結果、カリスマとして見られるということではないと。
伊藤:カリスマになろうと思ってなるんですよ。まして、死にたいと思ってる人にちょっとの勇気とか気持ちの余裕をあげたいと思ってやってるので。中途半端な気持ちではそれはできないですね。
――今、レスラーとしての具体的な目標はありますか?
伊藤:今年は新人賞を取りたいですね。
――プロレス大賞ですか。対象はデビュー3年以内なので資格がありますね。
伊藤:ネット投票の賞でも去年、けっこう票が入ったので。狙っていきたいですね。そのためには一つ一つの試合でインパクトを残さないといけないし、ニュースにならないといけないですね。
――試合が面白いというだけじゃなくて、ニュースになることでより多くの人に届くという。
伊藤:そこは大事ですね。
――伊藤さんはもはや新人っていうイメージも薄いですけど。
伊藤:いやいや、そこは新人でいいでしょう。甘えさせてくださいよ。
――「新人なのに凄い」でいいと。まあ実際そうなんですけど。
伊藤:評価されるんだったら、いつまでも新人扱いでいいですよ。そこは汚くいきます(笑)。
〈プロフィール〉
1995年7月22日、福岡県出身。福岡のグループ・LinQの2期生としてアイドルに。同グループは2017年8月に卒業。“クビドル”を名乗る。現在はエンターテインメント集団・トキヲイキルに所属。プロレスラーとしては2016年12月にDDT福岡大会でデビュー、以後、東京女子プロレスにフリーとして参戦し、今年1月4日の男色ディーノ戦でもインパクトを残した。
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