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 「機密費というのは、公開できないから機密費なんです」(2001年の党首討論での、小泉純一郎総理の発言)。

 「具体の執行状況についてですので、お答えは差し控えさせていただきたいと思います」(2011年、枝野官房長官)

「内閣官房報償費」、いわゆる"機密費"。官房長官の裁量で自由に使える予算のことで、1940年代に導入された。その額は毎年14億円あまりに上り、このうち2億円は内閣情報調査室に充てられている。その性質ゆえ、歴代内閣は関連文書の公開を拒んできたが、使い道のチェックができないために、目的外流用がされているのではないかとの指摘もあった。

■官房長官経験者からは証言が続々…

 国側は一切開示してこなかった機密費だが、一部の当事者や周辺にいた人々からは、その実態について証言がなされている。

 1974年の三木内閣で官房副長官を務めた海部俊樹元総理は、外遊議員への100万円の餞別や野党への「寝起こし賃」(野党に審議に応じてもらうためのお金)を渡していたと証言。1991年の宮沢内閣時代には共産党が文書を入手し、機密費が与野党議員のパーティ券、ゴルフプレー代、ビール券などが、国会対策費として支出されていたことを公にした。

 また、クリーンな政治を掲げた1993年の細川内閣で官房長官を務めた武村正義氏は、官房長官室の金庫には常に4000万円の現金があり、議員グループの勉強会、100万円を上限に、議員の外遊・海外視察の餞別として使ったことを明かしている。

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 さらに、1998年の小渕内閣で官房長官を務めた故・野中広務氏は、総理に毎月1000万円、歴代の総理経験者に"顧問料"のような形で盆・暮れに100万円ずつ、さらに国会対策費として自民党の参議院幹事長室などに毎月500万円ずつ配っていたと話している。それだけではない。野中氏は、元政治家の評論家から"新築祝い"として3000万円を要求されたこと、マスコミ対策として政治評論家やマスコミ関係者に何らかの形でお金を配っていたということも告白している。

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 一方、かつて小渕内閣で官房副長官を務めた鈴木宗男氏は「今は予算も少なくなって、ずいぶん変わってきたと思う。その中でやりくりする。ずいぶんと切り詰めているし、国民の目を絶えず気にしながら、また原資は国民の税であるということを踏まえて、有効に使われていると思う」と話す。

■「夫人を喜ばせて、国会対策にしていた」

 「800万円近い費用を、議院運営委員会という野党折衝の一番重要な連中に機密費を投じていた。金額の大小、やり方は別にしてそれが恒常的になった」。

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 衆議院の職員だった頃の機密費について著書で暴露したのが、元参議院議員の平野貞夫氏だ。1987年の中曽根内閣時代、大型間接税の売上税導入に失敗し、消費税法案の成立を目指し始めた政府与党。その地ならしとして"税制改正の調査"を名目に、与野党議員からなる視察団を海外派遣した。平野氏によると、その視察に夫人を同行させるための費用が機密費から支出されていたという。

 一方、1977年のダッカ・日航機ハイジャック事件での身代金や1996年のペルー日本大使公邸人質事件の解決費、1999年のキルギス人質事件での身代金3億円も機密費から支出されたと言われている。もし、機密費がこのような目的のための予算だとすれば、内容を開示するべき性質のものではないかもしれない。

 この点について平野氏は「本来は国家の安全、それから様々な経済的意義や国の重要問題で、対外的に表では説明できないような工作や交渉をやる時に使うというもの。しかし、日米安保の下、アメリカが日本を保護してきたので、無理して機密工作をすることもなかった。そこである時期から野党工作、それからマスコミ工作、そういったものに使うようになった」と指摘する。

 さらに、「政権が変わる時に機密費の金庫が空になるということはよく言われている」と平野氏が話す通り、2009年に民主党が政権交代を果たしてから初の国会で、平野博文官房長官は、「コメントはしたくありませんが、全くございませんでした」と、機密費の残高が無かったと答弁している。

 国会法105条には「各議院又は各議院の委員会は、審査又は調査のため必要がある時は、会計検査院に対し、特定の事項について会計検査を行い、その結果を報告するよう求めることができる」と定められているが、機密費は会計検査院の監査を免除されるということになっており、その理由も明確ではないという。

 機密費について、「原則、一定期間後に公開するべき」だとする平野氏は、「根拠法もないので、機密費の使い方が公表されるのか、されないのか。されるとすればどういう条件なのか。不正な使われ方をした時に、それはどういう政治的ペナルティを受けるか、といったことが日本にはない。もともとは税金なのだから、原則、全部公開する。公開できないものについては、国民に対して明確に説明をするべきだ」と指摘した。

■最高裁が一部開示を命じる初の判決

 そんな機密費について大阪の市民グループが関連文書の開示を求めた裁判で、最高裁は先月、"一部を公開すべき"という初の判断を示した。対象となったのは、菅官房長官の機密費の執行状況に加え、2005年当時官房長官だった安倍総理の郵政選挙における11億円の支出、そして麻生内閣で官房長官を務めた河村建夫衆議院議員が関わった2.5億円の支出だ。判決では、支払い先を特定できるような文書は非公開のままとされたが、支払い相手などを特定することが困難な文書に関しては公開を命じている。

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 今回の裁判の原告でもある神戸学院大学の上脇博之教授は「国側は、行政の仕事がやりづらくなるのでとにかく出せない、という立場だった。これまで1枚もなかったものが公開される。墨塗りが全くないものもある。これは画期的な判決で、真っ暗闇に光を当てた判決だ」と評価する一方、「判決を受けて4週間経つが、まだ開示を受けていない。簡単に出せるはずものもあるはずだ」と指摘。そして「監視がまったく働いていない。納税者である国民が、おかしいと声をあげるチャンスがない」として、公文書の扱いや情報公開制度のさらなる改善を訴えた。

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 平野氏は、この最高裁判決に「国会の決算委員会が制度改正の制度成立の議論をしなきゃダメだ」と話す。元経産省官僚の宇佐美典也氏は「機密費だけの問題で議論すると、全体を見誤ると思う。政党助成金ができ、政党がお金を持つようになったし、昔はなかった特定秘密保護法のような法律も整備された。時代が変わる中、全体の中で機密費をどう見直すのか、深掘りした議論がなされてもいい」と提言した。

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