政府が今国会の目玉と位置づける“働き方改革関連法案”は、裁量労働制を巡って総理が答弁を撤回する異例の展開となっている。
20日の予算委員会で、野党は総理の撤回について改めて説明を要求。安倍総理は「撤回をいたしましたのは、『データを撤回する』というふうに申し上げたのではなくて、精査が必要なデータに基づいて行った答弁について撤回し、お詫びをしたところでございます」と“答弁の撤回”であることを強調した。
このデータは、厚生労働省が前提の異なる調査結果を比較し「裁量労働制にメリットがある」としたもので、厚生労働省も不適切だったことを認めている。また、残業時間が1日に「45時間」あるなど、誤表記と思われるケースも複数確認されていた。
労働政策研究・研修機構の調査では「裁量労働制の方が労働時間が長い」という正反対のデータも存在し、政府もこのデータを把握していたが、厚生労働省の審議会には提出されなかった。この点について加藤厚生労働大臣は「議論に資するデータを出させていただき、追加的な資料が必要であればそれにできるだけお答えをするという運営の中において、結果的に提供されていなかった」と説明した。
この件を受けて、野党は裁量労働制に関して再調査を求めたが、安倍総理は「再調査はしない」との認識を示した。
なぜ、議論の基礎となるデータに誤りが生まれるのか。また、誤りのあるデータで議論が進んでいくのか。東京大学先端科学技術研究センター助教の佐藤信氏は『けやきヒルズ』(AbemaTV)に出演し見解を述べた。
「審議会に出席した専門家たちは何をやっていたんだろうと疑問に思う」と率直な意見を述べる佐藤氏。一方で、データに基づいた議論ができるようになってきたことは重要なポイントだと指摘する。
「最近、国会中継でフリップを出すようなことが増えてきたが、そのデータは政府が示していて、今ではネットで簡単に閲覧することができる。だからこそ問題点を指摘することができ、最近重要視されているデータに基づいて政策を作る“エビデンスに基づく政策形成”ができる」
では、エビデンスに基づく政策形成はこれまで行われてこなかったのか。佐藤氏は「省庁の中で官僚はデータに基づいて進めようとするが、そのデータが公表されてみんなの前提として議論されるかは別の問題。官僚がエビデンスのある政策をあげたとしても、政治家たちが理解していない、データを無視した状態で議論が行われていれば国民にとっては何の説得力もない」と苦言を呈する。
一方で、官僚機構にも問題があると指摘。「トップの官僚は、東大の法学部から大量に出てくる。法学部の学生たちは、法律の基礎的な部分はしっかり学び優秀な人たちは多いが、統計やデータをどう扱うかに関しては基礎的な知識が足りない。ただ、それは致し方ないことで、エビデンスのある政策形成にどうコミットしていくのか、大きな枠組みで対応していくのかが課題」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)