「ストレートと比べてどうですか?」「ほぼ同じ」。ブルペンで投げ込む井納翔一が、撮影している動画解析で確認していたのは球速や球の回転数だけではなく、「腕の振り」のスピードだった。ストレートとフォークの腕の振りがほぼ同じになり、納得してうなずいた。ルールの改定で二段モーションが解禁となり、すぐに着手した井納。遠投キャッチボールのときに、上げた左足を一度止めてみると「軸足に体重が乗りいい球が投げられた」ことから殻を破ろうと二段モーションに挑戦している。

 これまでは左足をやや後ろ方向に引きつけるイメージだったが、力みなく真っ直ぐに近い形で上げている。かつての三浦大輔ほどの大きくゆったりとした上下動ではなく、小刻みに2度タイミングを取ってから投じる球は力強い。第2クールのブルペンでは、フォームをつかみかけ238球投げ込んだ日もあった。繰り返し投げ込み「フォームをしっかり固めている」と井納。木塚敦志ピッチングコーチは「本人が感覚でやっているもので簡単なことではない。試行錯誤のうちのひとつ」と前置きしながらも「うまく馴染めば伸びると思う」と昨年6勝に終わった右のエースに期待を寄せる。二段モーションだけではなく、クイックのスピードを上げることなども意識し、上半身の動きの細部までチェックしていた。その成果は実践登板を重ねることで試される。

 自己改革で猛アピールするのは井納だけではない。笠井崇正や三嶋一輝も生まれ変わった姿で好調を維持している。昨年のオフからテイクバックをかなり小さくしフォームの改造に挑んだ笠井は、台湾で行われたアジアウインター・リーグで10試合12回を投げ防御率0.00の完璧なピッチングを披露した。1月に育成から支配下登録され、1軍キャンプのブルペンでもキレのある投球を続けている。隣でピッチング練習をしていた今永昇太が「何かこうやったらもっと良くなるみたいなことない?」と貪欲に意見を求めると「自分は回転数を考えて…」と先輩に臆せず理論を語る姿にも大物に化けそうな雰囲気を感じさせる。ラミレス監督も「笠井がすばらしい。いつ投げても安定していて良いキャンプを送れている」と目を細める。

 10日の阪神戦と20日のハンファ戦の2試合で好投した三嶋も輝きを見せる。球速は変らないが、キャッチャーミットにドスンと来るような重みのあるストレートに進化したことでスライダーも生きている。「身体の使い方が非常に良い」とラミレス監督。近くで見ると腰回りや腿がひとまわり太くなっていることに気付いた。オフシーズンのウエイトトレーニングで肉体改造をし、合同自主トレでも山登りと坂ダッシュで下半身を強化した。「体重を増やし身体を強く大きくした。強いボールを持って、メンタル的にもしっかりバッターに向かっていく」。

 悔しい思いをした去年の自分とは違う。「去年、同じようなタイミングで実践登板して4失点して2軍に落ちたので、最初の試合から攻撃的な投球でアピールしようと一発目からバッターに向かっていった」。ふだんはやさしい口調の三嶋の語気が強まり、今年に賭ける意気込みを感じる。レギュラーシーズンではプロ5年目にして初の未勝利に終わったが、広島とのCSファイナル5戦目で2イニングを無失点に抑え、勝ち投手となり日本シリーズに駒を進めた。「去年、中継ぎで貴重な経験をさせてもらったので生かしたい。どこでも投げる」と三嶋。

 笠井、三嶋だけでなく、練習試合で4回1安打と結果を残した飯塚悟史や2軍から呼ばれ2試合連続完璧な投球を見せている国吉佑樹らも順調な仕上がりだ。左腕王国と呼ばれる横浜DeNAは真の投手王国へ。右投手も黙ってはいない。【山口愛愛】

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