シンガポールを拠点にアジア全土で大会が開催されている格闘技「ONE Championship」。日本からも青木真也を筆頭に、内藤のび太、シュレック関根などが参戦し、とくにタイトル戦に関しては報じられることも少なくなかったが、その全容を語ることはあまり多くなかった。
アメリカの「UFC」や「ベラトール」、国内だと「RIZIN」「パンクラス」、韓国の「ROAD」に較べて、この日本での知名度はさほど高くない「ONE FC」。しかしどの理念や独自ルールなど、「アジアの天下一武道会」と呼べるような魅力が満載だ。
今回、青木真也が名勝負をセレクト、そして北米MMAとは全く違う道を歩もうとしている、知られざる「ONE Championship」の世界について語った。
「ONE FC」の魅力、そして独自のルール解釈については「ルールが独自なんですよね。グランドでの膝蹴りをOKにしているし、エルボーも縦に落としてもOKにしている。判定基準も1Rずつ付けるのではなくて全ラウンド通じて、どちらが相手にダメージをどちらが相手よりも優っていたかとどちらがファイトしていたかという視点で見ている」と語る。
さらにONE FCは「MMAと謳っていない」とまで言い切る。非常に分かりづらいが総合格闘技とは「Mixed Martial Arts」の略だが、レスリングやボクシングなど様々な格闘技が「Mixed」されているのではなくMartial Arts。「北米にあるMMAと僕たちがやっている“闘い”と“マーシャルアーツ”は違う。ファイトではなくバウト(闘い)であり、ファイターとはいわずアスリート」。これらは単なる表現の違い、言葉替えではないのだというのだ。
青木は体裁やルールのディテールの違いではなく、アジアでの「ONE FC」が持つ理念について、「どうしても北米のカルチャーをそのままアジアに持ってくるとはハマらない部分がある。アジアの格闘技の歴史は非常に深い。その中でみんなで作っていくものアジアのマーシャルアーツ、格闘技の集合体としてやっていく。即興的なものではなくて、1つの文学作品として格闘技を捉えている方向性があると思います」と、非常にわかりやすい言葉で表現している。
青木自身は「ONE FC」というよりアジア全体の格闘技マーケットという視点でシビアに分析。「7~8年前にシンガポールの経済発展、タイ、ミャンマー、ベトナム、中国とこれは格闘技の軸だけではなく世界的な経済の軸も考えなければならない。間違いなくアジアの時代が来る可能性がすごくあるなと思っていて…
第1回大会を見て『これは可能性のある舞台だな』と、アメリカで戦うよりもアジアに将来的な可能性を感じました。アメリカで日本人誰かスターになりましたか?帰ってきたでしょ、スターになれなくて。オレはアジアで確実に自分の椅子をみつけた方が賢いと思った」対アメリカという辺りは、全てがUFCなど北米のリングを目指す風調へのアンチテーゼともいえるが、アジアマーケットという青木の選択は、自身が語る通り大きな可能性があるのだ。
また、ひと足先にマーケットが成熟した日本や追随した韓国のリーグに対しては独自の意見があるようだ。「マーケットとして日本と韓国は分断されている。マーケットが独特じゃないですか?共同体みたく飛び込む感じではない。同じアジアではあるけどちょっと違う。上に行ったりタイトル戦に絡んだりチャンピオンになれば、それなりに世界は開けますから、UFCを目指す、ベラトールを目指す、Road FCを目指す、ONE FCを目指すのも選択肢の一つとしてあって良いんじゃないなと思う。金銭面が良いのも1つの手ですけれど、自分の目で見てどの団体の世界観に合うのか、どの団体の世界観にあれば自分が幸せになれるのか、そんな視点が大事だと思う」
多くのファイターが力試しの場としてUFCの名を挙げ、それが既定路線とされているが、青木が「可能性を感じる」と言い切る「ONE FC」には、全く違うリーグならではの世界観が存在するのだ。