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 耳が不自由な聾(ろう)の両親をもち、手話を第一言語として育ったクリエイター・和田夏実さんを知っているだろうか。「音のない世界」と「音の世界」を自由に行き来する和田さんを『けやきヒルズ』(AbemaTV)は取材した。

■幼少期から「音のない世界」と「音の世界」を行き来

 徳永有美キャスターが訪れたのは、東京・初台にあるNTTインターコミュニケーション・センター。ここでは現在、「オープン・スペース 2017 未来の再創造」が開催中で、最新技術を使ったメディアアート作品が数多く展示されている。新しい感性や美意識について考えるきっかけとなる作品を、3月11日まで無料で体験することができる。

 和田夏実さんは、慶應大学院に通う24歳。手話を題材にした作品で知られ、2016年に経産省主催の事業において特に優秀な人に送られる「未踏スーパークリエータ」としても認定された。メディアアート作品を発表する傍ら、講演会などでも活躍している。なぜ手話を題材にしたのか。

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 「私の両親は耳が聞こえなくて、手話を第一言語として育ったことがきっかけです」

 和田さんは聾の両親に育てられ、手話を第一言語にして育ったことで、「音のない世界」と「音の世界」を自由に行き来する幼少期を過ごした。

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 「家の中では、音のないというか形を手で作るようにして話していて、家の外では日本語を学ぶ形で育ってきたんです。両親を手伝わなきゃということよりも、手話ってすっごい面白い、どうしようすっごい面白い!みたいな感じで。全然違う言語っていうのがすごく面白いなと思っていた」

 そんな和田さんは、手話が持つ“ある特徴”に気付いたという。

 「手話は拡張現実の世界と同じだと思うんですよね」

 拡張現実とは、実在する風景にバーチャルの世界を重ねて表示すること。拡張現実が手話と同じとはどういう意味なのか。

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 「手話の世界では、200年も300年も昔から手元に像を作り上げて、それを動かしながら会話をしていた」と説明する和田さん。手や肩、体全体を使って、目の前にイメージを表しながら会話をする手話は、目の前にイメージを表す拡張現実と同じだというのだ。

 和田さんにとって手話は、音声言語では伝えきれない、はみ出た感情を表す事ができるツールでもあるという。「何か1個のことがあって、本当にびっくりしたはずなのに『あぁ驚いた』って、それだけで本当におさまっちゃうの?その体験って思うことあるじゃないの?それをもっともっと伝えてほしいなって思いますし、手話を使ってもっと共有出来たら」と考えている。

■自身は「異なる世界を結ぶ『インタープリター』」

 和田さんはすでに最新技術を用いて、カメラでジェスチャーを読み取ってイラストが出現・追従する作品「Visual Creole」を発表している。今はまだ試験段階だが、近い将来、ただ「大雨が降った」という言葉だけではなく、実際に大雨のイメージを共有しながら話すという“新次元のコミュニケーション”が可能になる日がくるかもしれない。

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 また、今回の展示には手話の魅力を教えてくれる作品がたくさんあり、その1つが「Signed」というプロジェクト。和田さんによると「『眠る』にどういう動きがあるのかを収集・分類している」といい、横の壁には作品を体験した人たちが残したジェスチャーが映し出されている。その数なんと2000人。

 一方、展示室の入り口で異彩を放っている「altag(オルタグ)」は和田さんにとって新たなチャレンジとなる作品でもある。一見大きめのヘルメッドのようだが、被ると目の前までが遮断され、内蔵されたヘッドフォンの音しか聞こえなくなるというもの。代わりにカメラセンサーが前方についており、目の前にある物の形や色を認識し、対応した音を鳴らすことで、被った人に聴覚のみで世界を捉えさせようという作品だ。

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 当然被ると何も見えなくなるが、前方のセンサーが捉える物によってめまぐるしく変わる音に徳永キャスターは「今まで感じたことのないような世界。音の迷路っていう言葉がぴったり。なんか…見えてるんですよ。真っ白な世界が見えてるんだけど、何も見えていないから、頼りになるのは耳。耳をダイレクトに大きく広げて、あれこれ楽しむみたいな。楽しい世界です」と感想を述べた。

 この作品を和田さんとともに作ったのが、盲目のサウンドクリエーター・野澤幸男さん(24)。今まで“音の聞こえない世界”をテーマにしてきた和田さんが、野澤さんとともに“視覚のない世界”をテーマに作品を作った。

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 野澤さんは「私の場合は“音が命”みたいな世界で生きているので、音がしないものに音を付けるってどういう事なのかな、でもみんながイメージできるものっていうのはあるかもしれなくて。それを探求していくことができれば、『音だけで楽しめるゲームでした』みたいな世界が開けてくるきっかけになるんじゃないかなと思って。これからも一緒にやっていきたいなと思っています」と、和田さんと作品を作ることへの思いを語った。

 和田さんは自身のことを「インタープリター」、異なる世界を結ぶ「解釈者」と表現する。

 「私が生きている世界と野澤くんが生きている世界と、両親も含めて耳の聞こえない友人が生きている世界があった時に、私たちの世界に芸術や文化があるように、彼らにとっても『すごく美しい』と思っているものがある。そこが本当に宝物みたいなものだとして、それを引き出していくというか、みんながわかるものにしたいっていうのがすごくやりたいことだなって思います」

 取材を終えた徳永キャスターは「展示会は、今まで私が生きてきた中では味わったことのない感触、不思議な体験がたくさんありました。夏実さんも仰っていましたけど、表現を共に銅像に作り上げていく共同作業のような、もともと人間にあった感覚を呼び起こすような体験だった。」とコメント。和田さんの印象については「何が一番大事だと思ったかというと、夏実さん自身がもの凄く幸せそうで、もの凄く楽しそうだった。好きという気持ちが前面に出ていて、それは耳の聞こえないご両親に楽しく育てられた中で、手話でコミュニケーションをしていくことが面白いことだ、だから手話をみんなに伝えたいという思いで活動をされている」と話す。

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 また、和田さんの挑戦に対しては「小さい頃にお父さんとしたゲームで、目を取ってブラジルまで投げて、その目がどのようなことを感じるかということを2人でジェスチャーし合って遊んだそうです。夏実さんはそういうのが本当に楽しくて幸せだったと話していました。音声言語だけで生きている人たちの楽しさと幸せ、手話で色々なことを表現している方の世界を融合させて新たな表現をつくり出していくことに、好きというパワーで挑戦している」と思いを伝えた。

 今回、展示を通して新しい世界を体験した徳永キャスター。「大人になると、音声言語だけの場合、ボキャブラリーとか知識で“武装”ができるけど、ジェスチャーとか手話になるとありのままの自分、素直にありったけで表現するしかない。そうするとまっさらな気持ちになって、話し終わった後に『どうも』って握手したくなるような、相手に寄り添うような不思議な感覚になる」と述べた。

(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)

次回『けやきヒルズ』は3月8日(木)12時から!「AbemaNews」チャンネルにて放送

けやきヒルズ キャスター:徳永有美 | AbemaTV(アベマTV)
けやきヒルズ キャスター:徳永有美 | AbemaTV(アベマTV)
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